第12話 共に歩む覚悟
食事が終わりお茶を飲みながらまったりしていると、いつの間にか食堂に残っているのは俺とアンジェだけになっていた。
「そろそろ俺たちも部屋に戻ろうか」
「そうですね。明日からのことも話し合わなければなりませんし」
その時ルシアさんが俺たちのテーブルへとやって来た。宿屋の人にしてみれば食器を片付けたいのだろう。いけねっ、長居をしてしまった。
「お話し中ごめんなさい。あの……アンジェちゃん、この後少しお話出来ない
ですか?」
どうやらアンジェと話をしたかったらしい。そう言えば二人は古い友人だと言っていた。
アンジェが俺のことを見たので俺は頷いて答える。
「せっかく再会したんだし二人でゆっくり話してきなよ。積もる話もあるだろうしさ」
「ありがとうございます、アラタ様」
「アラタさん、ありがとうございます。それじゃアンジェちゃんをお借りしますね」
二人は宿屋の奥の方へと行ってしまった。一人になったので部屋に戻って休もうとすると今度は宿屋の女将さんがやって来た。
「ちょっといいかい?」
周りを見回すとここには俺しかいない。
「俺ですか?」
「あんた以外に誰がいるのさ」
女将さんはさっきまでアンジェが座っていた席にどっしりと腰を下ろすと値踏みするような目で俺を見始めた。
なんだこの人は……初対面の時から思っていたが彼女から放たれるこの圧迫感は一般人それじゃない。
上手く説明できないがもっと……生死の瀬戸際に身を置いていた猛者のような感じがする。
「何でしょうか?」
「あんた、あのコ……アンジェって言ったっけ。あのメイドのコをどうするつもりなんだい?」
この人は何が狙いなんだ。そんな事を知って何の得があるって言うんだ?
訝しんでいると自然とそういう目つきになっていたらしい。女将さんが笑って言った。
「あはははは! そう警戒しなさんな。何も取って食おうってわけじゃないんだから。――私が知りたいのは、あのハイアルムスのコとこれからどうする気なのかってことさ」
「ハイ……アルムス? アルムスじゃなくて?」
「ハイアルムスっていうのはアルムスの中でも特に能力に秀でた者たちのことさ。世間では聖剣クラスや魔剣クラスのアルムスをそのように言う。当人たちはその呼び名を好んでいないからその言葉を使おうとしないけどね」
つまりこの女将さんはアンジェがハイアルムス――魔剣クラスのアルムスだと見抜いたということだ。アンジェは見た目がヒューマと変わりないのにどうやって……。
「どうやってあのコがハイアルムスだと見抜いたか気になるようだね。――こう見えても私は若い頃冒険者をやっていてね。それなりの練度の冒険者であれば、相手がアルムスなのかは分かるものなんだよ。それじゃ本題に戻るよ。あんたはアンジェをどうするつもりだい?」
「どうって言われても、そんなのまだ分かりませんよ。俺たちはまだ出逢ったばかりで、今後どうしていけばいいか考えているところなんです」
女将さんは胸の前で両腕を組んでジッと俺を見ている。嘘は吐いていない。
元の世界に帰るという最終目標はあるが、その間どのように行動していくかはこれから話し合おうとしていたんだから。
「そうか……だとしたら尚更危ういね」
「危ういって何が?」
「あんたの実力がどの程度か知らないけど、ハイアルムスっていうのは〝
また分からない単語が出てきたので俺は挙手して質問することにした。
「すんません、魔闘士ってなんですか?」
「魔闘士も知らずにアルムスと契約したのかい? あんた相当変わり者だね」
そりゃ異世界から来た人間ですから変わってるっちゃ変わってるんでしょうよ。そんなこと迂闊に言えないけど。
「魔闘士っていうのは魔力を用いて戦う戦士の総称だね。冒険者ギルドに所属する冒険者、騎士団に所属する騎士……そういう連中をまとめて魔闘士って呼ぶんだよ」
「なるほど……」
「話を戻すよ。今の会話でも分かったけど、あんたはまだ魔闘士として駆け出しのようだ。そんなルーキーがハイアルムスのマスターになった。これが熟練の魔闘士たちに知られたら――あんた命がいくつあっても足りないよ」
「はぁっ!? なんで!!」
女将さんが手で「落ち着け」となだめる。俺は残りのお茶を一気飲みして深呼吸をした。大丈夫、俺は冷静だ。
「ハイアルムスを手に入れた者に明確な目的が無く実力も無いとなれば、そいつは恐らくその強大な力を引き出すことは出来ない。せいぜいその力の
「そんな物騒な――」
異世界怖い。そんな野蛮なヤツがゴロゴロいるなんて。――いや……違うか。むしろ日本が平和すぎたのかもしれない。
自分の命を脅かされることなく日常生活を送れるあの環境が恵まれていたんだろう。
「女将さんの言う通りだとしたら俺はどうしたらいいんですか?」
「アルムスとの契約を解除して別れるか、もしくは――他の連中に有無を言わせないように自分が強くなるかだ」
「じゃあ強くなります」
間髪入れず答えると女将さんが呆れ顔をしていた。
「あんまり茶化すようなら怒るよ。私は真面目な話をしてるんだから」
「俺は真面目に答えてますよ。その二択の内、どちらかを選ぶのなら俺は強くなってアンジェを守りたいと思ったんです。彼女とはまだ知り合ったばかりだけど剣になったアンジェと意識が一つになった時、彼女が辛い過去を背負っている事を知りました。だから俺はその重荷を一緒に背負いたいと思ったんです」
俺は自分の素直な気持ちを女将さんに話した。青臭いと笑われるかもしれないが、俺たちを気に掛けてくれたこの人には嘘は吐きたくない。
女将さんは黙って俺を真剣に見つめている。それは俺という人間を品定めしているかのようだった。
「どうやら嘘を吐いたり適当な事を言っているわけじゃなさそうだ。その覚悟があるなら大丈夫そうだね。――話は変わるけど、あんたが良ければ私が稽古をつけようか」
「いいんですか? 俺としてはありがたいですけど、どうしてそこまで親切にしてくれるんですか」
女将さんは昔を思い出すように遠い目をしながら教えてくれた。
「なに、元冒険者としてちょっとお節介を焼きたくなっただけだよ。明日朝食を終えたら宿の裏にある空き地に来な。まずはそこであんたの実力を見せてもらう。その後の訓練内容はそれから決める」
「分かりました。よろしくお願いします女将さん」
「マーサでいいよ。あんたはアラタ……だったよね。今日はもうゆっくり休みな」
女将さん改めマーサさんは、まだ仕事があると言って奥に戻って行った。
俺は異世界に来て早々に舞い降りた修行イベントにちょっとわくわくしていた。それに俺が強くなればアンジェの負担も減らせるはずだ。
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