第11話 二つの姿を持つ者アルムス
「それは色々と大変でしたね」
「だっさ……。こんなエロい身体をした美女と同じ部屋で二人きりになってアプローチまでされたのに不発って……あんたそれでも男?」
「そうでしょう、もっと言ってください。アラタ様は『据え膳食わぬは男の恥』という言葉をちゃんと理解していないのです」
アンジェを家に泊めた一件で俺が何もしなかったことを女性陣にボロクソ言われている。理不尽すぎやしませんか?
「ちょっと待って俺の言い分も聞いてほしい。確かに俺の部屋に止めたけど、あの時アンジェとは出逢って数時間の間柄だったんだぞ。それなのにそんな事をするのは早すぎるっていうか……」
するとルシアさんは「そうだったんですか」と言って俺の考えに同調してくれている感じだ。この人はまとものようだ。
残り二人は渋い顔をしているがそんなのは無視しようそうしよう。
「死んだ旦那と私は知り合ったその日にやっちゃったけどねぇ。酒の勢いってのもあったけど」
「肉食系すぎる!」
そんなやり取りをした後、俺とアンジェは同じ部屋に泊まることになった。
俺たちはそのまま一階で食事を摂ることにし、料理が出て来るまで色々と情報整理をしていた。
「まずアラタ様には、この世界の人種について説明する必要がありますね。まずアラタ様のような外見の人間族を〝ヒューマ〟と呼んでいます。その他にヒューマの外見に獣の特徴が混じった者たちが〝亜人族〟です。亜人族は種類が色々といるのでそれは今後少しずつ説明します。――そして最後が〝アルムス〟です」
アルムスの名を出した時にアンジェの表情が一層真剣なものに変わった。その雰囲気だけでこれから話される内容が重要なことだと分かる。
「アルムスを説明する前に千年前に起こった〝魔人戦争〟からお話します。この世界には魔物がいますがそれよりも遥かに強力な存在が魔人です。千年前にその魔人が大量に出現し、いくつもの国が滅び大勢の人々が犠牲になりました。生き残った人々は同盟軍を組織し対抗しましたが魔人の力の前には成す術がありませんでした。その時発案されたのが特殊なエナジストをコアとして組み込んだ武器でした。それは従来の武器よりも遥かに強力なものだったのです。――それに加えてエナジストをコアとした武器には意識が宿り人の姿になることが可能でした」
「それってもしかして――」
オークと戦った時のことを思い出す。アンジェの胸元に出現した紋章に触れると彼女は漆黒の魔剣グランソラスに変身したのだ。
「武器と人――二つの姿を持つ存在は人工生命体〝アルムス〟と呼称されました。魔人戦争の間に錬金術師と鍛冶職人の手によって沢山のアルムスが造られ、使い手と共に魔人を倒していきやがて戦争は終結したのです。アラタ様、私はそのアルムスの一人なのです。そして私たちの本質は武器であり普通の生命体ではありません」
「そうだったのか……でも俺と君はこうして会話しているし見た目も人間じゃないか。それに肌の温もりだってある。ヒューマや亜人族とそんなに変わらないと思う」
俺がそう言うとアンジェは憂いを帯びた笑みを見せる。その理由を俺はこれから伝えられるのだった。
「アラタ様、私は何歳くらいに見えますか?」
「突然どうしたのさ。うーん……俺とそんなに変わらなそうだし、十代後半くらいかな」
「私は魔人戦争の際に造られたアルムスです。つまり私はだいたい千歳くらいになります」
「なっ!?」
驚きのあまりにそれ以上声が出なかった。アンジェが千年前から存在しているなんて突拍子もない話で理解が追いつかない。
「アルムスは歳を取りません。つまり不老不死です。コアであるエナジストを破壊されない限り生き続けます。私は魔人戦争後に封印され永い眠りにつきました。そして数年前に封印が解除され再び活動を始めたのです」
「……どうして封印なんかされたんだ?」
「千年前の魔人戦争の際に、アルムスの中でも特に強力な武器がありました。コアであるエナジストや武器の素材となる材料に希少金属を用いた特殊なアルムス。彼らはその力故に魔剣や聖剣といった称号を与えられました。そして戦争後、その力の悪用を恐れた者たちによって封印されたのです。しかし、魔人の出現が活発化し始めた数年前に封印が解けたのです」
「そうかアンジェの力を悪用されない為の処置だったんだね」
アンジェが頷く。千年前の魔人などという怪物を倒すほどの力に対する戦後の安全策だったのだろう。
でもアンジェ自身にしてみれば散々戦わされた挙句に平和になったら封印されるとか踏んだり蹴ったりの展開だったはず。
そんな事をされたら普通怒ったり憎んだりしてもおかしくないと思う。
「アンジェは……自分を封印した人間を憎いと思ったりはしないの?」
「え……?」
アンジェの目が一瞬大きく見開かれる。その後、俺を真っすぐに見つめるとぽつりと彼女は呟いた。
「……封印されて眠っている間。そのように思った時期もあったかもしれません。でも、それもしょうがなかったとも思えるのです。だから今は特に何とも思ってはいません」
「そっか……」
「お待たせしました。お夕飯をお持ちしました」
話が一区切りついた時にルシアさんが夕飯を持ってきてくれた。
俺とアンジェはお腹が空いていたのもあって食事中は会話もそこそこに食べる事に集中した。
余談だがアンジェの話によれば、規模こそ縮小されたがアルムスは今でも生み出されているらしい。
高性能の武器に変身する彼らがいるため『ソルシエル』には武器屋は基本的には存在しないとのことだった。
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