第2話 みるるは君の居場所がわかる魔法
みるる。僕には不思議な不思議な魔法が使える。
みるる。そう唱えると、大好きなお姉さんの居場所がわかる魔法。
授業中、僕はこっそり「みるる。」と唱えた。
そうすると一瞬だけお姉ちゃんが見ているものを共有できるのだ。学校の黒板が見えた。お姉さんも授業中だ。なんだかちょっとうれしくなる。
僕の家はお父さんもお母さんも忙しい。ご飯作ったり、お掃除したり、僕の宿題を見てくれるのは、いつも年の離れたお姉さんだった。
お姉さんはとっても優しくてきれいな人。僕の周りでお姉さんがいる子は「鬼」とか「こき使う」とかいうけれど、僕のお姉さんは全然違う。リョウ、そう僕を呼んでくれる声はいつも優しくて、飛び切りの笑顔なのだ。
「リョウ、今日こそはバスケットやろうぜ。」
昼休みにユウト君に声をかけられた。校庭のバスケットコートは曜日制で、毎週水曜日しか僕たちの学年は使えない。だから水曜日は男子のほとんどがバスケをしていた。
けれど僕は、運動があまり好きじゃなかった。
「でも、僕みんなの足引っ張るし…。」
「リョウ、1回だけ行こう。全然楽しくなかったら、次から誘わないから。な。」
肩に手を回されて半ば強引に連れていかれる。でもなんか嫌な感じがしないのがユウト君のすごいところなんだよなあ。よし、頑張ろうと覚悟を決めたら、ふと振り返りたくなった。サクラちゃんが目に入る。サクラちゃんっていつも楽しそうに笑ってるなあ。
「ほんとごめん。ヒナタが調子にのって。」
「なんで急にヒナタちゃん?」
「いや、リョウは好きな人いないの?」
好きな人?お姉ちゃんとか?
「うん、いるよ。みんないるよね?」
「そうか~。ほんとごめん。」
「なんで? さっきから僕、ユウト君がいっていること全然わからないんだけど。」
「うん、気にするな。待ってろ。今日はお前をヒーローにしてやる。」
その日のバスケットは、なぜか僕が大活躍した。
家に帰って、僕はさっそく本を開いた。今日はとてもいい気分だったので、なんか楽しそうな表紙の本にした。お姉さんの方が家に帰ってくるのが遅い。だからそれまでの時間、いつも僕は図書室で借りた本を読むのだ。
おいしそうなご飯を作る本で、僕はすっかり本に出てきたカレーが食べたくなった。ちょっとお腹減ってきたな。
「みるる。」
お姉さんが今どこにいるか確認するために、僕は魔法を使う。近くの公園の映像が出てくる。そして、お姉さんの友達というお兄さんがいる。最近いつもこの人と一緒に帰ってない? 僕は本を閉じて、お姉さんのいる公園に向かった。
「姉さん!」
公園にいる姉さんを見つけて呼びかける。
「リョウ!」
笑顔でお姉さんが振り返ってくれる。両手を広げてくれるから、僕はそこにダイブする。
「どうしたの?」
「お迎え!」
「こんにちわ、リョウ君。」
お姉さんの隣にいたお兄さんが屈んで僕に挨拶してきた。
「…こんにちわ。」
僕はお姉さんの後ろにちょっと隠れて小さく挨拶する。
「俺、嫌われてる?」
「リョウは人見知りだから。」
ちょっと、僕じゃなくてお姉さんに聞かないでよ!
「お姉さん、僕お腹減った。」
「ごめん、遅くなっちゃったね。何が食べたい?」
「カレーがいいな。」
お姉さんを見上げておねだりする。お姉さんはたまらないなって顔で
「そっかー。カレーか。うん、おいしいの作るね。」
そういって、僕の手を握ると
「じゃあ、またね、マモル。」
と言ってお兄さんに背を向けて僕と歩き出した。ふふふ、お姉さんは僕が一番なのだ!
夏の窓際の席は、控えめに言って地獄だと思う。窓もカーテンを閉めててもモワっとする空気が息苦しい。何も考えられなくなるなー、なんて考えていたら、ふと後ろを振り返った。サクラちゃんと目が合ってニコッとされた。サクラちゃん、いつも僕にニコニコしてくれる。お姉さんみたい。なんか嬉しくなるなぁ。そう思ったらまた振り返っちゃった。
「ミト、どうした?」
先生に聞かれた。
「いや、なんでもないです。」
いけないいけない。最近僕、サクラちゃんのこと見すぎだよ。ちょっとドキドキして、ちょっとムズムズする。不思議な気持ち!
「へぇ、そうなんだ。ふうん。」
夕ご飯の後、お姉さんと一緒に宿題しながらお話していたら、なんかお姉さんが楽しそうだ。
「サクラちゃんか。かわいいお名前だね。」
「お姉さんもコナツ、ってかわいいお名前じゃない。」
「ふふ、ありがとう。」
「ほんとだよ!」
「サクラちゃんがリョウの彼女になるのかな。今どきの子は早いなぁ。」
「カノジョ?」
「彼女。」
「それ何?」
「うーん、お互いが好きな二人の女の子の方。ってちょっと難しいか。」
「僕とお姉さんみたいな?」
お姉さんは嬉しそうに笑って
「それも素敵! でも彼女は家族以外でできた特別な女の子だよ。」
「へえ。なんかよくわからないや。」
「あらら。彼女はもうちょっと先かな。リョウ、そこ、間違ってるかもよ?」
お姉さんが指さしたところを見てみたら、足し算間違えていた。消しゴムで消したらいいに匂いがした。サクラちゃんが前にくれた、サクラの匂い付きの消しゴムだった。
学校の中休み、僕はぼんやり本を読もうか考えていた。教室も見渡すと、みんな誰かと話している。ユウト君の周りは特に人が多くて楽しそう。「みるる」そっと魔法を使ったら、またあのマモルとかいうお兄さんが見えた。お姉さんと話しているのか。ずるいな。
「ミト君、どうしたの? なんか元気ないね。」
サクラちゃんが話しかけてくれた。
「いや、別に。」
うまく言えなくてそういった。ちょっと冷たかったかな。
「ミト君! そういう時は笑おう! 元気出るから! ほら、ニコーって!」
そういって、サクラちゃんは両手の人差し指を頬にあててニコって笑った。つられてなんだか僕も笑ってしまう。よかった気にしてないみたい。サクラちゃんと話すといつも笑顔になるからすごい。
「へへ。私、ミト君の笑顔大好きなんだー!」
「僕も好きだよ。」
「え? 今なんて言った?」
「サクラちゃん、好きだよって。」
笑顔が。そしたらサクラちゃんすごく驚いて、そのまますっごく嬉しそうになって、
「私もミト君大好き! うれしい! ありがとう!」
そういって、ヒナタちゃんのところに飛んで行った。あれ、なんか違う気がする。
「サクラちゃーん!」
慌てて呼び戻す。サクラちゃんはすごく嬉しそうに戻ってきて
「何? 何? ミト君!」
そういって飛び跳ねそうな勢いで僕に最高の笑顔を見せてくるから、何も言えなくなっちゃった。
帰ってから、本をいつもみたいに開いてみるけど、なんか全然文字が入ってこない。なんかふわふわしてる。大好きな探偵シリーズなのに。
「みるる。」
なんとなく、魔法を使う。何かあると唱えてしまう。お姉さんと繋がっている。その感じがとても落ち着く。なのに、いつもと違う景色が見えた。なんか見たことがあるようなかわいいピンクの筆箱が見える。お姉さんのじゃない。
「みるる。」
慌てて一度唱えると、筆箱が開いていて、中に「サクラ」の文字が見えた。そうだ!この筆箱、サクラちゃんのだ!
「みるる! みるる!」
それから何度も繰り返してみたけれど、やっぱりサクラちゃんの映像だった。そんな!僕の魔法、変わっちゃった!!
「リョウ、どうしたの? 最近ずっと元気ないね。」
お姉さんが心配そうにしている。僕の好きなハンバーグ、とてもおいしいのに全然口に運べない。あれから何日も経ったけど、やっぱりサクラちゃんの映像しか見えなかった。目の前には大好きなはずのお姉さんがいるのに、なぜか遠く感じる。
「なんでもないよ。」
広いおうちに、僕とお姉さんが二人。
サクラちゃんのおうちはいつも夕ご飯をパパとママと弟と食べていた。いつもなんだかとても楽しそうだった。うらやましい。なんで、僕のお父さんとお母さんはあまり家に帰ってこないんだろう。電話はかかってくるけど、家にあまりいない。お父さんもお母さんもお医者さんで、たくさん人を助けてるすごい人らしい。だけどそれを聞いて何になるんだろう。
『リョウは昔、すごい泣き虫だったのに、泣かなくなったね。』
いつか、お姉さんがそういった。覚えてる。お母さんとお父さんに家にいてほしくて、たくさん泣いた。それでもいつもお仕事に行くから泣くの止めた。届かないなら迷惑なだけだもん。だけどお姉さんはずっと側にいてくれたから。それに僕には魔法があったから。おねえさんといつも「一緒に」いる気分になれていた。
魔法がなくなっただけならよかった。サクラちゃんと繋がったら、僕は一人ぼっちの時間が多いことを思い出してしまった。サクラちゃんがいつも人に囲まれて楽しそうだから。
姉さん、僕やっぱりさみしいよ。誰かずっと家にいてほしい。でも、お姉さんに迷惑かけられない。僕は無理やりハンバーグを口に運んだ。
嫌なことは重なる。一学期最後の日、ユウト君がいなくなっちゃうことがわかった。ユウト君、言葉は乱暴だけど、いつもみんなのこと見てくれて、僕にも優しくしてくれたのに。もう一緒にバスケットできない。もっと一緒にやればよかった。
授業中、みんなでユウト君に手紙を書く時間があったから、いっぱいありがとうを書いた。だけど全然足りない。でもなんていえばいいかわからなくて、ユウト君がみんなに囲まれているのを見ていた。
「リョウ君!」
サクラちゃんが笑顔で声をかけてくれた。でも全然うれしくなかった。
「どうしてそんな顔してるの? ほら、最後なら笑おう。笑ってさよならしよう。」
「笑うなんてできないよ!」
思わず強くそういってしまった。だって、リョウ君に会えなくなるんだ。すごく寂しくて、悲しいことなんだ。サクラちゃんはきっと知らない。会えなくなるって寂しさや辛さを。だから笑顔で見送ろう、なんてことが言えるんだ!サクラちゃんは驚いた顔をしたけど、それでもぎゅって笑った。そして、僕はなぜか笑っていた。
「よおし! みんなで最後バスケットしよう!!」
ってユウト君が大きい声で言った。
「リョウ君。今笑顔だよ。だから大丈夫。みんなでバスケット、行っておいで。」
サクラちゃんがやっぱり笑って言ってくれる。僕はサクラちゃんに背中を押されて、教室から出ていくみんなについていった。
みんなで点数なんてつけずに、ただひたすら夢中でボールを追いかけた。ミスとか追いつけないとかそんなの何も関係なくて、ただただユウト君にボールを集めて、追いかけた。今日も暑いのに、みんな汗だくで息も苦しいのに、笑いながらひたすら走った。
これが終わったら、きっともうユウト君に会えない。
別れなんて僕たちはそんなに経験してないから、みんなどうすればいいかわからなかった。だからひたすら走った。時々、ナイス!とか、さすがユウト!とか言いながらみんな笑顔だった。何人か汗と一緒に涙をぬぐってた。泣いてお別れもできるけど、きっとそれをユウト君は望んでない。だからバスケットしようってユウト君は言ったんだ。サクラちゃん、ごめんね。僕がわかってなかった。うまく笑えないけど、僕もたくさん走った。走り回るユウト君をたくさん見るために。みんな、先生がもう帰りなさいって言うまで最後まで走り回った。
「次会う時はもっとうまくなってろ!」
そう言ってユウト君はさっさといってしまった。みんなクタクタで、それでも「じゃあまた戻って来いよ!」とか「ありがとう!」とか叫んで手を振った。夏の赤い夕暮れの中、「じゃあな!」って大きく手を振ってるユウト君にみんなで手を振った。
僕もありがとうって言いたかったけど、言ったら泣きそうで言えなかった。あぁ、僕、リョウ君のこと好きだったんだぁ、ってはっきり思った。ツクツクボウシが急に鳴きだした。みんなも泣き出した。いつかお姉さんともこんな簡単に別れる日がくるのだろうか。
お姉さんはまだ夏休みじゃない。僕は家で一人、ぼんやりサクラちゃんからもらったお手紙を読んでいた。ランドセルに入っていたお手紙。かわいいシールがたくさん張ってあって、「夏休みも遊ぼうね。サクラ、リョウ君の笑顔が大好き。だからたくさん遊ぼう。」という文字の後にサクラちゃん家の住所が書いてあった。サクラの名前の後に大きいスマイルマーク。かわいいと思う。
「みるる。」
そういってみると、やっぱりサクラちゃんの映像が映る。サクラちゃんのママと弟と猫の姿。そして現実に戻ると誰もいない、広い家。やっぱり寂しい。寂しい。僕は駆け出した。
よくいる公園、一緒にいくスーパー。思いつくところを走って回った。色々探してみたけどお姉さんの姿はなかった。でも足を止めなかった。お姉さんもいつか家に帰ってこなくなるかもしれない。ユウト君みたいに会えなくなる日がくるのかもしれない。それなら僕から会いに行けばいいと思った。場所がわからなくても探せばいい。家で一人寂しいと思って過ごすよりずっといい。それにユウト君なら絶対にそうする。自分で探しに行く! だけど、どこにもいない。学校まで来たけど、授業は終わっているみたいなのにいない。中に入っていいのかな。
「リョウ君?」
どうしようもなくなった時、あのお兄さんに声をかけられた。僕はぜえぜえと肩で息をしていた。
「どうした? 何かあった?」
「お姉さんは、どこですか?」
「コナツはもう帰ったよ? すれ違っちゃたかな。ちょっと待っててね。」
そういって、お兄さんがスマホで話し始めた。そうだ、スマホ! 僕もあれあった! 前から渡されてたけど、今まで魔法で十分だったから使ったことなかった。
「っておい、コナツ! 切れっちゃった。リョウ君、たぶんお姉ちゃんすごい勢いで来るよ。」
お兄さんがスマホを振って苦い顔して笑った。あ、スマホの画面、お姉さんの写真だ。僕もそうしようかな。あれ、でもなんだからサクラちゃんの方がいい気もするぞ。
「すれ違わないように、ここで待ってようね。おいで、暑いから、あっちの木陰に行こう。」
そうやってお兄さんが手を差し伸べてくれるから、「はい」って言って手を握り返したら、お兄さんがすごい驚いた顔をした。
「嘘だろ! リョウ君が俺の手を握ってくれた! まじ!?」
何をそんなに驚いているんだろう。お兄さんが屈んで僕の顔をまじまじと見た。
「うおおお! 視線合わせてくれる! どうしたのリョウ君! いままで絶対俺と視線合わせてくれなかったのに!」
確かにそうだったかもしれない。魔法で見てたから顔知ってたけど、会ったときは顔見てないかも。いや、そもそも僕あまり人の顔を見れてないかも。お兄さんの顔、ちゃんと見てみたら、すごい優しそうな顔だった。
「薄々わかってたけど、リョウ君すごくかっこいいね。彼女できるのわかるわ。」
「彼女?」
「リョウにサクラちゃんって彼女ができたみたいだから、今日はお祝いのケーキ買って帰るの!ってコナツ授業終わって即帰って行ったよ。」
「サクラちゃん、どうして知ってるの?」
「え、あ、ごめん。そうだよね。俺が知ってるの嫌だよね。ごめんね。」
違う。わかったんだ。多分彼女、という意味。サクラちゃんが、特別になるってことだ。だって、学校のいろんな人がいる中で、僕はサクラちゃんの笑顔だけが鮮明にわかる。
「お兄さんも、お姉さんの彼女だよね?」
「あー、うん、そうだね。俺はコナツの彼氏だね。一応。」
「一応?」
「お姉ちゃん、リョウ君が大好きだからね。それはもうほんっっっとうに! だから俺はおまけみたいなもんです。」
「そんなことないよ。だって、お姉さん、よくお兄さんのこと見てるもん。何度も何度も見てたもん。」
「どうしてそう思うの?」
「僕ね、魔法使いなの。人が見てるものが見えるの。ちょっと前までお姉さんがみているものがわかってたんだ。」
「魔法使い? でも確かに、リョウ君絶対ここにいるってわかってたような感じできてたもんね。」
「それがね、見れなくなったの。サクラちゃんに変わちゃって。どこにいるかわからなくなったら、すごく寂しくなったの。」
「でも、お姉さん絶対うちに帰ってくるでしょう? 俺が知る限り、遊びに行ったりしたこともないよ、お姉さん。ちょっと帰りに話すか、スーパー寄るかくらいで。」
「そうだけど、僕の方が家に帰るの早いから。」
「友達と遊んだりしないの?」
「え?」
「俺がリョウ君くらいの時、いつも友達とバスケするか一緒にゲームにしてたりしてたけど。」
そうだった。この間みたいに、みんなでバスケすればいいんだ。あの日はお姉さんの方が先に帰ってきてた。なんでこんなこと気づかなかったんだろう。というより、僕は、今までどれだけ人を見ずに生きてきたんだろう。
「リョウ!!」
お姉さんがダッシュで駆け寄ってきて僕を抱きしめた。汗だくで心臓がバクバクいっていた。
「ごめんね、ごめんね! 帰ってくるの遅かったから心配しちゃったんだよね!?」
「コナツ! お前ケーキ!!」
「今、そんなことどうでもいいの!」
お兄さんがおねえさんが持ってたケーキの箱を奪った。
「え、無事なんだけど。奇跡。」
「ごめんね、このお兄さん怖かったでしょう。」
「いや、普通に話してたから! ねぇ、リョウ君。」
「うん、話してた。お兄さん、優しかったよ。」
「本当に?」
「ほんとだって!」
今、僕の目の前にお姉さんと、お兄さんが何か言い合ってる。でもケンカとかじゃなくて、僕が見たサクラちゃんの家みたいな光景だった。なんだ。ぼくにもあるんじゃないか。人に囲まれて楽しくできるんじゃないか。
「うわーん!」
僕は泣き出した。どうしたの?ってお姉さんとお兄さんが僕のことを必死にあやしてくれる。こういうのが僕にはないと思ってた。勝手に、ないと思ってた。見てないだけだった。思えばサクラちゃんもユウト君もいつも僕に笑いかけてくれてたのに。僕がわかってないだけだった!!
「お姉さん、お姉さん大好き!」
まだ熱いお姉さんの体を抱きしめた。こんなに僕を見てくれる人がいる。
「リョウが、泣いて、笑ってる・・・!」
お姉さんがすごい嬉しそうにしてる。僕が大好きって言ったからかな。そういえば、サクラちゃんも大好きって言ったからこんな笑顔になったのかな。ユウト君、ユウト君にも言えばよかった。
ひとしきり泣いた後、僕はお姉さんと手を繋いで一緒にお家に帰った。今日も夕暮れが大きくてオレンジで、ユウト君の時と同じようにきれいだった。隣を見たら夕日に照らされたお姉さんの横顔が嬉しそう。僕はふとサクラちゃんと話がしたくなって、「みるる。」とこっそり言った。そしたら、同じ夕暮れが少し高いところから滲んで見えた。あれ? 僕の見てるものをほとんど同じだぞ。
「どうしたの?」
お姉さんが聞いた。僕はこっそり「みるる。」というと、少し滲んだ僕が見えた。間違いない!お姉さんの見てるものが見えてる!もしかして、この魔法、「好き」って言った人と繋がる魔法だった!?
「サクラちゃん、大好き!」
「え!急にどうしたの?」
「みるる!」
そうやって見たら、サクラちゃん家の猫が見えた。間違いない!これは好きって言った人の景色が見えるんだ!
「お姉さん、大好き!」
「どうしたの。いいですよー、サクラちゃんの方が好きでも。」
「そういえば、なんでサクラちゃんのことわかったの?」
「ふふふ、だめですよ~、大切な彼女のお手紙をリビングに置きっぱなしにしちゃ。」
「見たんだ?」
「見たんじゃないです~。見えたんです~。」
「何それ。」
ふふふ、って笑った。お姉さんの目が潤んでた。
「お姉さん、もしかして泣いてる?」
「泣いてないですよ~。」
「嘘。」
「ほんと。」
もう一回みるる、って言って確かめようかと思ったけどやめた。それよりお姉さんとこの夕暮れを見ていたいって思った。お姉さん、今はまだ僕の一番はお姉さんだけど、いつかお姉さんも僕も一番が変わるかもしれない。でもね、僕はずっとお姉さんが大好きだよ。
みるる、より好きな人と同じものが見れる方が魔法。好きな人の笑顔を見る方が何倍も安心できる魔法。だからたくさん大好きというよ。お姉さんの笑顔を見るために。
僕はこのきれいな夕暮れをきっとずっと忘れない。お姉さんと同じようにオレンジが滲むこのきれいな夕暮れを。
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