さようなら、付添人さん。

 長い夜が明けて、静かな病室に、ゆれるカーテンの隙間から差し込む、眩しい光は、僕を照らしている。僕は丸椅子に座りに、病室のベッドに寄りかかっていた。


 どうやら、僕はあのまま寝てしまったようだ。そして、ふっと顔を上げるとユイと目が合った。彼女は微笑み返してきたので、僕は、とっさに目を逸らした。恥じらっていたのだ。


 そして、ユイは透き通った声で言った。

「おはようございます」と。


「お、おはよう...」

 彼女が、あまりにも美しいので戸惑い、言葉が詰まってしまった。


「突然ですけど、私、行きたい場所があるんです!」と彼女は、少し高揚しながら言った。


「どこだい?」


「海です!!1年ぶりに行きたいです」


 そして、僕達は、彼女の要望通りに海に来た。水天一碧の光景と磯臭さが、あの日を思い出させた。


 どこまでも深い海と、どこまでも広い空。

 その光景は僕達を消し去って、しまいそう

 だ。もう、なにもかも消し去ってもらえないだろうか?もう考えるだけで疲れる...生きるだけで疲れる。それでも、僕は生きるしかないらしい。彼女は死んでも...僕は彼女ために生きるしかないから。僕が彼女の死を惜しみ続けるしかないから。だから、僕はまだ生きる。


 その日の夜、彼女は病室のベッドで、息を引き取った。

 その姿はまるで、眠っているようだった。

彼女は微笑んでいる。そして、その微笑みが、とても美くしいと思った。

 僕は、彼女のそばに、最後までいれてよかったと思っているよ。


 そして、その頃、外では、美しく火花を散らす『華火』が舞い踊っていた。





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