時間が無くて。

 私、寿命半年しかないんです。そうに言われたのは、彼女に依頼を受けたあの日だった。


 彼女からは不治の病だと言われた。病名は伝えられてない。もしかしたら、病名すらない新種の病かもしれない。


 彼女は、その病の苦しみから逃れるために、僕に依頼したのだと言った。そのときは同情など、みじんもなく。何も感じなかった。なぜなら、そんな人たちを僕は山ほど見てきて、慣れてしまっていたのだ。しかし、彼女と居たこの何日間で、僕は変わってしまったみたいなんだ。



 この日、彼女は展望台から飛び降りるはずだったんだ。しかし、彼女は飛び降りれなかった。なぜだと思う?


 僕が止めたんだ。彼女の手を掴んで離さなかった。自分でも驚いたよ。だって、これまで僕はこんなことをしたことがなかったんだ。そして、そのときに気付いたんだ。僕が彼女に「恋」をしているってことを。

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