夜空に、花火が咲く。

 ユイは潮風に髪をなびかせながら、白浜をザクザクと歩き、はるか遠くの水平線を目に写して、彼女はこう言った。

『海になりたい』と。


 海からの帰りの途中、近くで地響きのような音がした。それが、花火の打ち上がった音だと気づくのに時間がかかったのは、自分が花火を久しく、見ていなかったからだろう。そして、少し寄ってみることにしたんだ。


 大規模な花火大会のようで、屋台が目に映りきらないほどあり、その周りにひとの群れができていた。その中で、彼女は目をきょろきょろとして、辺りを挙動不審に見回していた。どうやら、彼女はどの屋台に寄ればいいのか。迷っているようだった。しかし突然、その場に立ち止まり、視点を一つに定めて立ちすくんだ。


 その視線の先は『金魚』だった。


 水が張られた桶の中で、口をパクパクして、優雅に泳いでいる、あの金魚だ。

 そして、彼女は金魚の桶を指差し、こう言った。

「金魚すくいで勝負しましょう。一番金魚をとった方が勝ち、負けた方は勝った方に何か奢るってことで」


 ということで、僕と彼女の金魚すくい対決始まった。金魚すくいをやったのは子供の時以来だったが、案外久しぶりにやってみると楽しいものだったよ。しかし、結局一匹も取れなかった。そもそも僕は金魚すくいで一度も、上手く取れた試しがなかったんだ。


「私が勝ったので約束通り、奢って下さいね。付添人さん」そう言って、彼女は、二匹の金魚が入った袋を片手に持ち、リンゴ飴の屋台に向かって行った。

 

 花火が、儚く火花を散らして夜空に咲き誇る。その瞬間を、彼女は先ほど、買ったリンゴ飴を片手に静かにみつめていた。まさにその姿は、鮮やかな『華火』のようだった。


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