第33話 アナザー

「マスター......」


「ふう、ラクリマも元に戻ったようだ」


「師匠、さっきのあれは......

 そしてそれは私の作った」


 レイデアはよろよろと立ち上がりヒミコさんに話した。


「ああこのラクリマは、君の作ったホムンクルスだ。

 まさか売り出されてるとはね。

 僕もあの時あがいてみてね。

 霊的存在と誓約して、

 ラクリマの魂を呼び出そうとしたが無理だった」


「デミウルゴス......

 グローシス派の記した邪神、偽りの神、

 その力添でさえも魂を戻すことは無理だったのか......」


「......ああ、死んだものは帰らない」


「やはり、そうなのか......」


 レイデアは力なくうなだれた。


「レイデアさま......」


 ラクリマは呼び掛ける。


「さきほどのデミウルゴスさまが、

 私に失った記憶を一部見せてくれました。

 ラクリマさまの為に私を作ったこと、

 子供のように大切にしてくれたこと、

 そして、研究資金を得るために、

 悲しみながら私を売ったことも」


「......さぞ恨んでいるだろう。

 いや感情等あるわけがないか......」


「......いいえ、

 感情があっても恨んだりはしません」


「なぜだ......」


「ラクリマさまが私に言いました。

 あの人は不器用な人だから、

 何かしてしまっても許してあげてね。

 あの人はいつだって自分以外の人のためにいきる人だから、

 そういっていました......

 それに私は今幸せなのです、新たなマスターといられて」

 

 そうラクリマが微笑む。

 それをみてレイデアは声を圧し殺して泣いた。


「ふむ、なるほどね。

 どういう状況かは把握したよ」


 そう突然の声にオレは振り返る。


「あまりにかわいそうじゃないか、

 大切な人を失って残されるなんて」


 いつの間にか男はレイデアさんのとなりにいた。


「あなたは......」


 そうレイデアがいった瞬間、血の塊へと変わる。


「なっ!?」


 その男はこちらをみる。

 その顔はとても美しい顔だった。


(この顔どこかで......)


「タイガくん!!」


 初めてヒミコさんの焦った声を聞く。

 その瞬間、目の前が暗くなっていった。


「うっ......ここは」


 オレが目覚めるとそこはヒミコさんの家の書斎だった。


「一体君は何者だい?」


 その声に振り向くと、

 足を組んで、書斎の机に座る、

 スーツ姿の豊満なバストの美しい女性がいた。


「だ、誰だ!?

 そのはてなきおっぱいは!?」


「はてなきおっぱい?

 ずいぶんなパワーワードだね。

 誰だは、むしろこちらの台詞なんだけど、

 なぜ君から僕の魔力を感じるのかな?」


「魔力......

 そして一人称が僕......

 そしてえちぃなバスト、

 まさかあなたは、とてもえちぃなえいちかっぷヒミコさん!?」


「なんだい?

 とてもえちぃなえいちかっぷって?

 確かに僕はヒミコでえいちかっぷだけれども......」  


 そう、その人はヒミコさんだった。


「ふむ、なるほどね。

 僕が殺されその身体がバラバラに......」


「い、いえもちろん信じられないかもですが......」


 オレは自分が知っていることをヒミコさんに話した。


「いや、信じるよ」


「えっ!?」 


「確かに、君の身体から僕の身体の反応がするんだ。

 突然君が空中から現れたのもそうだしね」

 

「でもなにがなんだか......

 突然男が現れてレイデアさんが殺されて、

 その男がこちらをみた瞬間、

 意識がなくかさなったらここに......」


 ヒミコさんは紅茶を一口飲んでカップを皿に置いた。


「いくつかの仮説はたてられるね。

 一つ目はパラレルワールドのような並行世界にとんだ。

 二つ目はこれが魔法によって作られた世界。

 三つ目は夢か幻覚。

 そして四つ目は君が過去に飛ばされたか......

 まあ四つ目だろうね」 


「過去に......

 確かに、ヒミコさんは心臓で、

 時間を操れるとかいってたけど......」 

 

「ああ、間違いなくそうだね。

 ということは彼が現れたのだろう。

 そしてそのちっこい僕は君を過去に飛ばした」


「彼......灰色のスーツの男ですか?

 一体何者何です」


「ああ、それはね。

 僕だよ」


「はい?」


 あまりにもあっさりとヒミコさんはそういったから、

 意味が理解できるのに時間がかかった。

 

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