第9話 情報

 ゴーレムを退けたあとオレたちは町に入った。

 そこは中世ヨーロッパのような建物がならび、

 ブラックマーケットにいたような、

 怪しげな人々が行き交う。

 

「ゲームの世界みたいっすね」


「元々、遥か昔、西洋で中世の時代に作られた魔法使いの町なんだ。

 それを電脳世界にデータ化して移転したんだ」


「そんな時代からこんな町あったんすね。

 で、この町の誰かに聞くんすか?」


「ああ、昔からの知り合いがいてね。

 まあ、向こうは会いたくはないかもね」


 そういうと、ヒミコさんは町の奥の方の野路裏へと向かう。

 人通りのない暗い場所に、

 小さな店らしきものがあった。


「何してる......

 用があるんだろう入んな......」


 店のなかからしわがれた声がした。

 なかに入ると、紫色のローブを被った、

 何歳かもわからないような老婆が、

 丸い水晶をおいた机の奥に座っていた。


「ふん、来たね......

 さっさと座んな」


「えっ?」


 オレは戸惑いながら老婆の前の椅子に座る。


「金......」


 そういうと老婆は、

 オークションでみた獣の皮のような紙を出した。

 オレは手を置く。


「哀れな姿だね......

 あんたもついにヤキが回ったのかい」


「まあね。

 長く生きるとこういうこともあるさ」


 そうヒミコさんが老婆に話す。

 

(このおばあちゃん、すぐにわかったのか......)


「身体は......七つ。

 囚人プリズナー王国キングダム

 錬金術師アルケミスト法務士ローヤー

 収集家コレクター道化師クラウン

 教会テンプル、そしてアナザーさ......

 さっさと帰んな」


 それだけいうと最後に一言。


「万物に永遠などないよ......」


 そう哀しそうにいった。


 オレたちは店をでる。


「僕は七つに分けられたのか......」


「ですが囚人プリズナー王国キングダム

 錬金術師アルケミスト法務士ローヤー

 収集家コレクター道化師クラウン

 教会テンプル、アナザー、

 あの方は八人いわれましたが」


 ラクリマがいった。


「七つなのに八人?

 よくわからないっすけど、

 なにかこれでわかることがあるんですか?」


「ふむ、いくつかは何のことかわからないが、

 囚人プリズナー法務士ローヤー教会テンプルは、

 なんとかアタリがつけられそうだ。

 だが、そこにいくまでに...... タイガくん」


「はい?」


「ここで少し魔法の訓練をしようか」


「えっ?

 まあ、それはいいすけど、

 そんな時間があるんすか?

 もっと相手に対策をたてられるんじゃ」


「それは大丈夫だよ」


 それからオレはここに出てくる化物たちと、

 戦いながらヒミコさんに戦いかたと、

 魔法の操作を教えてもらい、

 桃源郷シャングリラから肉体へと戻った。


「ふう! 戻った。

 でも一ヶ月はいましたよ。

 本当に大丈夫っすか」


「モニターをみてごらん」


 パソコンモニターにはオレたちが、

 桃源郷シャングリラにいった時間から、

 一時間もたっていなかった。


「えっ!?

 日付が変わってない!」


「あの桃源郷シャングリラは時間経過が遅いんだ。

 意識と魂だからね」


「そうなんだ......

 まあ、食事もとならなくてよかったし、

 おかしいとは思ってたんすけど、

 でこれからどうするんすか?」


「ふむ、そうだな。

 まずテンプルだろうな」


「テンプル?」


「つまり教会さ」


「キリスト教とか?」


「いいや、彼らとは違う。

 それにたぶん相手はイカれたカルト教団、

 真なる使徒オルトアポストルだ。

 僕たち魔法使いを神への反逆者と呼び、

 見つけたら殺しまわってる狂信徒たちだ」


「そんなやベーやつらが持ってるんすか身体」


「ビルラードという教祖は膨大な魔力を持つからね。

 使いこなせるなら彼だろう」


 それをきいてオレは、

 これから面倒なことが、

 起こることを予感してうんざりした。


「ですが魔法使いを嫌っているのならば、

 魔法は使わないのでは」

 

 そういってラクリマは紅茶を持ってきてくれた。


「なるほど!」   


「ほう、ラクリマはお茶といれるのもうまいな......

 僕の好みだ。

 ああ、彼らは自らがつかう魔法は、

 奇跡とよんでいるのさ」


「ずるいっ!

 自分たちも魔法を使うのに、

 魔法使いを悪とするなんて!?」


「ふふっ、まあそういうものさ。

 自分が善だと信じる者は、

 自分以外は悪にしがちだからね」  


「どうするんすか?

 教会に乗り込むんすか」


 ヒミコさんは目を閉じて考える。


「まあ、その前に。

 ......何者かが侵入したようだね」


「これは!?」


 その時、書斎が神殿のような場所に変化していく。


「これはあのオークションと同じ......」


 その時白い大きな柱の向こうから、

 背丈より大きな十字架のようなものを持った、

 白人の少女が現れる。  

 

「見つけましたよ《永遠の魔女》」


 そうシスター姿の少女は凛とした顔でオレと目が合う。

 

「?」


「?」


「えっ? 誰?」


「えっ? 誰?」


 オレと少女は互いにそういった。

 少女はキョロキョロ辺りを見回しラクリマをみる。


「?」

 

 そして頭を抱えた。


「どういうことですかこれは!?

 《永遠の魔女》がいるのではなかったのですか!

 少年と少女がいるだけではないですか!」 


 そして少女はオレが見ているのに気づく。


「ご迷惑をかけすみませんでした!」


 そう頭を下げ謝った。

 そしてそのまま前のめりに倒れた。


「お腹へりました......」


 少女はそういってこと切れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る