七章 雌雄
案内された先は例の商店だった。
実家なのだという。
騒動があった場所から近いため、時間的に道中の会話はそれぞれの軽い自己紹介にとどまった。
二階の居間に招かれ、ソファを勧められる。
「飲み物用意してくるけどぉ、あったかいのでい〜いぃ?」
「はい」
私は勧めに従いソファへ腰掛け、彼女はキッチンへと…とはならず、二人は手を繋いだまま立ち尽くしていた。
特別な事情は無い。
ただ手を繋いでいたかったからだ。
状況証拠からすると彼女も同じ気持ちでいてくれているのだと思う。
握力が弱まる事も私から離れる事もなかった。
「動けないねぇ」
「そうですね」
「我慢しなきゃ、だよねぇ」
「他に致し方ありません」
同時に力を抜き、同時に互いの顔を見合う。
「へへへぇ」
「フフフッ」
彼女の顔は赤く、私の顔は熱かった。
数秒見合ってからやっと踏ん切りをつけ動き出した二人。
予定通りソファに腰掛け待っていると、程無く盆を持った彼女が戻ってきた。
「ど〜ぞぉ」
「いただきます」
テーブルに置かれたカップを取り、
ココアだ。
甘くて濃厚で、
隣に腰掛けた彼女に感想を伝えるべく目を向けると、私はカップを落としかけてしまった。
「どおしたのぉ?」
「え、っと…」
彼女は凄絶な巨乳の持ち主だったのだ。
今日一日で大量の女(の顔以外)を見てきた私史上において確実に一位。
虹の街の係員がスイカなら、彼女は胸で小熊でも育てているのかと思うほどである。
その巨大な質量に比して引力も凄まじく、私の目は為す術無く吸い寄せられ…。
いかんいかん!
元議員の助言を忘れたか!?
今度こそ刑務所送りになりかねんぞ!
何でもいい、とにかく目を隠さなくては!
私は乳を見ながら距離感の記憶だけでテーブルへカップを戻し、何か道具を求めて懐を探った。
あったぞ…頼りないが、これしかない!
「わぁ、懐かしいなぁ〜。
小さい頃やったよねぇそういうのぉ〜」
「そうなのですか?」
元議員から預かった硬貨を一枚ずつ両目にあてがうと、予想だにしなかった反応。
まあ楽しんでもらえたならこの滑稽な努力も昇華されるというものだ。
10秒ほど硬貨の裏を眺めて落ち着くと、ようやく正面に向き直る事ができた。
これでやり過ごせるならいいが…。
「でも急にどうしたのぉ?
もしかしてぇ、おっぱい見てたのと関係あるぅ?」
女神は無慈悲で正しかった。
「申し訳ありません…私は巨乳を見つめずにいられない病気のようなのです…。
それで目隠しをと…」
「あらぁ〜。
正直重くて出っ張ってて困りものだったんだけどぉ、これで報われたわぁ〜」
「私を罰しないのですか?」
「まさかぁ。
見てくれるだけで喜んでもらえるなんてぇ、こんな誇らしい事ってそう無いわよぉ〜。
私の体に魅力があってぇ、それを好きになってくれてるって事だものぉ〜」
良かった。
獄舎を宿とせずに済んだ事も、彼女を悲しませずに済んだ事も。
「でもぉどうして急に…あ、そっかぁ。
さっきまでローブ着てたもんねぇ」
「ローブ?」
言われてみれば、キッチンから戻った彼女は五人組との対決中着ていた黒い
確か初めに商店内に立つ姿を見た際も着ていなかったので、外出用なのだろう。
「あれはねぇ、乳隠しなのぉ。
巨乳の女の子は外に出る時あれを着てないとおっぱい切り落とされちゃうのぉ。
法律で義務付けられてるのよぉ」
「えぇ……」
呆れのあまり、体のパーツがボロボロ崩れ落ちていくような脱力感に見舞われる。
この国は自国民に対してさえその扱いなのか…。
兵士長の説明だと男に勘違いさせないためという話だったが、そこで勘違いを正す方向でなく巨乳そのものへの攻撃に走るのはあえて巨乳を攻撃したい理由があると自白してるも同然だ。
しかしその理由まではわからない。
私が男だからか?
彼女に問うてみた。
「妬みじゃな〜いぃ?」
「妬み…そんな私的な悪感情で法を設定するなんて事が…」
有り得ない、と言いかけて止まる。
有り得るだろう、あの女王なら。
「人間ならたぶん大抵誰でもそうなんだろうけどぉ、特にこの国の女には自分しか無い人が多いのよぉ。
自分しか無いから必然的に自分が絶対善になってぇ、その自分を否定してくる者は絶対悪になるのぉ。
そういう人にとって世界とは自分だからぁ、自分が気持ち良くなる事は必然的に世界全体を救う良策になってぇ、自分が気持ち悪くなる事は世界全体を悪くする愚策になるのぉ。当然錯覚なんだけどぉ、その錯覚に気付かないおバカさんや錯覚を容認する悪党がめちゃくちゃするってわけぇ。
あのおばさん達ぃ、めちゃくちゃだったでしょお?
私達の喧嘩、だ〜れも気に留めてなかったでしょおぉ?
あの場のみんな自分以外はどうでもよかったのよぉ。
だって世界の外のお話なんだものぉ〜」
精神的に隔絶された自分の集合…。
それは果たして社会と呼べるのだろうか。
結果論から言えば、あの時あの路上は個人という異世界の交差点でしかなかった。
「でぇ、自分が手に入れられないものを他人が持つのは世界に存在しないはずのものを持つ卑怯なルール違反って事になるからぁ、違反を辞めさせる妬みは寧ろ的確な法整備だと思ってるんじゃないかなぁ〜」
「巨乳もまた何者かのルール違反であると?」
「推測の域は出ないけど、ねぇ〜。
まぁなんにしてもぉ〜、その手の人達の建前が矛盾だらけの的外れなのは事実だしぃ、そうやって的外れをゴリ押しする主張を
「女王と面会しましたが、確かに我儘という言葉がしっくりくる人物でした。
…法と言えば、気がかりな事があるのですが…」
「わたしのおっぱいなら生で見てもいいのよぉ」
「あ、いえ、そうではなく…いや、見たいのですが、今は、いや今はというか、えと、いいです。
それより、あなたは五人組の一人を暴行しましたが、あれは罪に問われず済むのでしょうか?」
悪いのは相手だ。
暴言にしろ暴行にしろ、先手は五人組の側だからだ。
しかしこれは私の認識に過ぎない。
恐らくこの国の書に理不尽という言葉は無いのだ。
もしあったとしたら意味は『女に責任を問う全て』とでも記されているだろう。
彼女も女ではある…が、司法に合理的判断は期待できない。
それが怖い。
私のせいで彼女が罪人となってしまうなんて…。
「だ〜いじょ〜ぶよ〜お。
小さい揉め事なら殴り合いでも示談成立するからぁ」
「えぇ……」
「昔は違ったらしいけどぉ、わたしが生まれた時にはそうなってたわぁ。
この国の裁判ってぇ、男は絶対悪い〜女は絶対正しい〜なのねぇ。
でも当然女同士だと矛盾するのよねぇ〜。
証拠は要らないしぃ、出されても無視していいしぃ、証言は後出しで何度変えてもいいしぃ、っていうのをやり合うからまるっきり成立しなかったんだってぇ〜。
それでぇ、女同士ならよっぽどでない限りは現場決着する事になりましたとさぁ。
いまわしいまわしぃ〜」
何ともはや…呆然とさせられる。
それが、そんな国が人間の社会なのか。
女王の国だけではない。
肉の街も、虹の街も、私の想定していた世界とはかけ離れていた。
問題はその離れ方である。
元来盗賊などの無法者でも不正義と外道の自覚を持っているだろうに、私が旅した地は無法こそを法として尊んでいるのだ。
実家の書庫にあった歴史本が創作された夢物語に思えてくる。
厳しい旅を覚悟していた…しかし世が軒並みこの有様だと厳しいというより不毛な旅ではないか。
逃げずに生きるために地下を出た…しかしこの世で自立を試みるのはただただ汚泥に埋没していく自殺行為ではないのか…。
ふと両親の顔を思い出す。
旅に出ると告げた時の悲しげな顔を。
あれは私の現状を予想してのものだったのではないか?
きっと両親は世界を知っていたのだ。
そして両親もまたこの世の理不尽を嘆き森へ隠れ住む事を選んだ…。
真相は不明だが確信できた。
同じ立場に置かれたら私もそうしたろうから。
「どうして世界はこんな風になってしまったんだ…」
「女が嘘つきで男が雑だからじゃないかなぁ〜」
無意味な独り言のつもりで小さく
「いったいどういう事でしょう?」
「あのねぇ〜、大昔はぁ〜、女は絶対悪い〜男は絶対正しい〜だったのねぇ。
なんでかって言うとぉ、たぶんそうしないと治まらなかったからよぉ。
今でも尊敬されるような天才さんとか名君さんとかまで
「その必然性とは?」
「さっきのおばさん達と話してて思わなかったぁ?言葉の意味無いな〜ってぇ」
思った。
他ならぬ五人組自身が言葉の意味をまるで無視していたからだ。
男の理屈は女の口を塞いではならない、と明確に対話放棄する宣言をしていたからだ。
「あ〜いう嘘つき達が何回事実に論破されても無視して暴れ続けたらぁ〜、そりゃあ家父長制でも男尊女卑でもして力で支配せざるを得なくなるでしょお〜?
猪を止めたいなら百万の哲学より一個の鉄檻だものぉ〜。
大昔からず〜っとぉ、世界中どこででもぉ、女は嘘をつきまくる危険な存在だったからこそぉ〜、嘘つきから社会を守りたい天才さんや名君さんたちは女の皮を被った猪を力でシメろぉ〜って周知させてきたんじゃないかなぁ〜」
「なるほど…しかし、あの五人組のような存在が女全体を絶対悪とする根拠というのはかなり…」
「そうねぇ〜雑よねぇ〜。
そりゃあ女はみぃんな嘘つきだしぃ〜嘘つきおばさん達が女の代表ヅラして『我こそは真の女なりぃ〜』って大嘘ついてるけどぉ〜、女全員を一律害獣処分はひどすぎるわぁ〜。それでぇ、近代に入ってぇ、ちょっと改めよっかぁ〜ってなったのねぇ。
それは良かったんだけど〜お、ま〜た男が雑にやらかしちゃったのぉ」
「というと?」
「本来ならぁ『女だからってだけで内容が上等な意見を葬られない社会』に直さないといけなかったのぉ。
社会が必要としてるのはぁ〜男の意見でも女の意見でもなくて上等な意見だからねぇ。
ところがどっこいぃ〜。
男どもは『女だからってだけで内容の等級と関係なく意見を生かされる社会』にしちゃったのぉ〜。
女を尊重しろぉ〜って言われたからってぇ、尊重しちゃいけないダメ人間でも女でさえあれば尊重されるようにしちゃったのぉ。
女の声に耳を傾けろ〜とか言われたからってぇ、狂った妄想で駄々こねられても聞くようにしちゃったのぉ」
「結果、女王や五人組のような者が無理を通す世が出来上がった…?」
「そういう事ぉ。
当時の政治家ったらんもぉお〜バカバカおバカさんなんだからぁ〜。
連中がバケモノを檻から出したせいでぇ〜普通の女の子達までバケモノ扱いされるようになっちゃったのよぉ〜?迷惑千万だわぁ〜」
確かに私も最初は彼女自身に見るハラ?の咎を追求されるものと考えていた。
見た目で思想を判別できない以上、男は自衛のために全ての女を敬遠しなくてはならなくなるからだ。
それは男との交流を望む女にとって甚だ不本意な濡れ衣であろう。
五人組に言わせれば、男との交流を望む事自体哀れみを誘う恥らしいが…私には五人組の意見に上等な部分を見出せなかった。
「ん〜、ん〜!
あ〜許せないったら許せないぃ〜!
女王に負けた政治家見つけたら絶対ぶん殴ってやるんだからぁ〜!」
元議員が聞いたら何と言うだろうか…。
彼なら或いは進んで頬を差し出すかもしれない。
「当時支配者層にあった男が雑だったというのはわかりました。
嘘をつく女が数多く存在したと推定できる事もわかりました。
しかし女の全員が嘘つきというあなたの評が確かであるなら、あなたまで嘘つきになってしまうのでは?」
「ん〜?ふふっ、嘘つきじゃなかったらぁ、こぉんな喋り方にはならないのよぉ〜」
艶めかしく言いながらにじり寄ってくる。
どこまで来るのかと見守っていたら尻が三回浮いた時ふよよんと密着した。
「この喋り方ぁ〜、好きぃ?」
「好きです」
「んふふぅ」
彼女は満足げに吐息を漏らしつつ私の肩に頭を乗せ、軽くもたれ掛かった。
通常であれば息詰まるほど蜂蜜に沈んだろうが、好奇心の浮力を得た私は溺死を免れていた。
「文脈からすると、その口調は事実ではないと?」
「キミ自身〜、こぉんなトロットロ間延びしてないでしょお〜?
あえてこうしようと思わないとこうはならないのよぉ〜。
わたしも元々は違ったんだけどぉ、やってみたら思いの外わたしのペースに合ってたからぁ〜今となってはやめろぉ〜って言われてもやめられないけどねぇ〜」
「褒め言葉になるかどうかわかりませんが、とてもお似合いです」
「ありがとぉ〜。
なんのかんの言っても
やり始めてから劇的にモテだしたからぁ〜。キミにも通じて良かったわぁ〜」
「口調が演技という名の嘘だとしても、私にはあなたがあの五人組と同類だとは思えないのですが」
「もちろんアレと一緒にされたら困るわよぉ〜。
う〜んとねぇ、女の子にはぁ、嘘が好きな子とぉ、嘘がだ〜い好きな子とぉ、嘘が大大大大だ〜い好きな害獣がいるのぉ。
わたしはぁ〜嘘が好きな子ぉ〜」
「全員が嘘を好んでいるのですか?」
「ん〜思い切って断定しちゃうわねぇ。
もれなく余さず
自分しか無い女が〜の話したじゃない?
あれはぁ、言い換えるとぉ、女は自分大好きって事なのぉ。
自分以外をどの値に置くかの使い方に差があるだけでぇ、みんな百の値に自分って刻まれた同じ物差し使ってるのぉ。
現実世界より自分が大事だからぁ、事実とか論理とかぁ、現実のルールに従って傷付くくらいなら嘘で守るほうを選べちゃうのぉ。
ためらいなくぅ、当たり前にぃ、正義としてねぇ〜。
だからぁ〜化粧も加工も詐称も日常だしぃ〜正論突きつけてくる相手を極悪人としてやっつけようとするのよぉ〜」
「なるほど。
私も…行く先々で事実や論理を提示するたび拳を向けられてきました。
ただ、私を取り囲んだ人垣の中には男も大勢いましたが」
「あらぁ〜、じゃあぁ、女だけじゃなくて男にも嘘で守られる自分がだ〜い好きな子が結構いるのねぇ〜。残念だわぁ〜」
「あなたの嘘とは何を守るためのどのようなものなのですか?」
「あのぉ〜…先に謝っておくわねぇ。
ごめんなさいぃ」
「そんな、謝られるような事などありません」
「あるのよぉ。
わたしが来た時ぃ、遅れたって言ったでしょお?あれ嘘なのぉ。
ホントはもっと早くに、キミが土下座させられてるあたりでもう近くまで来てたのぉ。
見るハラなんて無かったってさっさと言えばすぐ助かったのにぃ、黙って見ててごめんなさいぃ」
「うむぅ…説明されてもやはり謝られるような事とは思えないのですが…。
あれは私の落ち度ですから。
それより、一旦は見物を選んだのに助けてくださったのは何故ですか?」
「キミがちゃんとした人だったからぁ。
様子見てぇ、ヤな奴だったら見捨てるつもりでいたのぉ。
そういう品定めなんかしませんでしたよぉ〜ってしらばっくれてぇ、いい人装ってわたしを守ったのがぁ、わたしの嘘のひとつぅ」
「そうですか」
「怒ってるぅ?」
「とんでもない。
今こうしていられるのはあなたの眼鏡にかなったからと知って感激しているくらいです。私の思想を確認していない状態で迎え入れられたのだとしたらむしろ恐ろしい。
後で死刑にされるかもしれないのですから」
「苦労してきたのねぇ〜。
じゃあぁ、わたしも後が怖いからぁ〜早めに種明かししてくわねぇ。
他にもぉ…攻めの嘘があってねぇ?」
「攻め…」
「今とかぁ…ね」
囁きつつ私の太腿を撫で、同時に私の片腕を抱きかかえ、子熊の胴体部にめり込ませた。
今ほど父母の教育に感謝した瞬間はかつて無い。
もし私が現実より自分にしがみつく男だったならこの
「普通は初対面の男の子にこぉんな事しないのよぉ。
そもそも家に連れ込んだりも自分から話しかけたりもしないのよぉ。
ただのド淫乱みたいで恥ずかしいしぃ〜、引かれたらぁ〜って思うと怖いしぃ〜。
でもぉ、キミが喜んでくれるならぁ、恥ずかしくないぃ〜って事にできるのぉ。
キミを落とせるならぁ、怖くないぃ〜って頑張れるのぉ。
…ど〜お?喜んでくれてるぅ?」
「はう、あい」
「良かったぁ〜」
心底安堵した表情だった。
女神ではなく娘のような妹のような、年相応のか弱い笑みだった。
私がたびたび蜂蜜プールに突き落とされるのは彼女の故意によるものだったようだが、この表情を見ると恨む気には到底なれなかった。
しかし気にはなる。
「なぜ私に攻めを?
品定めに満足されたお話は聞きましたが、そも品定めのために接近する理由は無かったのでは?」
「引かないって約束できるなら教えてあげるぅ」
「未熟者ゆえ約束はできかねますが教えて頂きたい」
「んもぅ。…えっとねぇ、理由はぁ、キミを見た時にできたのぉ」
「それは…もしや私が五人組に絡まれるきっかけになった時の?」
「うん。
わたしこの人の子供産むぅ〜って、あの時直感してぇ〜、ちゃんといい男かどうか知りたい調べたいぃ〜逃がしちゃおけねぇ〜って勝手に覚悟決まっちゃったのよぉ〜」
まさか彼女もそんな風に想っていてくれたとは。
一体感が私を蜂蜜の中で呼吸できる超人類に進化させつつあった。
「自分がそんな一目惚れの妄想で突っ走る病み女だなんて未だに信じられないしぃ、止めたいんだけどぉ、どうしようもないのよぉ。見ただけで動いちゃうくらいなのにぃ〜中身まで好きになっちゃったらもぉ…どうしようもないのよぉ〜。
こうやってくっついてるだけで幸せになっちゃうのぉ〜。
お願いぃ、引かないでぇ〜」
「ありがとうございます」
「ふぇ?」
「私を好いてくれてありがとうございます。私も初めて見た時からあなたと一つになるのだと直感していました」
「んまぁ〜エッチぃ〜」
「そういう意味では…いや、そういう意味です。男として断言します」
「はふぅ〜ん…報われるわぁ〜」
「報われる、とは?」
「わたしはずぅっとメスになりたかったのぉ。
オスを支えてぇ、オスに支えられてぇ、子を産み育てたかったのぉ。
言い換えるとぉ、原理原則に従いたかったのよぉ。
わたしのお腹もぉ〜おっぱいもぉ〜赤ちゃんのためにあるっていう事実が愛おしくて誇らしいからぁ〜、事実の通りに生きたかったのぉ〜。
というか〜、拒絶する正当な理由が無い事実なんだからぁ〜、仮に嫌で誇らしくないのだとしても従って当然だと思うのぉ〜」
「正論だと思います。
しかし、この国で正論を唱える者は…」
「わたしも小さい頃からよく殴られてたわぁ〜。ハブられてたわぁ〜。
出産育児って女の機能を使うより男の職場で働くのが女の権利向上だぁ〜とかぁ〜、女が家庭に入るのを強制されるのは悪い事だから女は絶対社会で活躍しろぉ〜とかぁ〜、一文で破綻してる屁理屈で責められたわぁ〜。
夫を無賃でこき使って金入れさせといて家事は奴隷労働だぁ〜とかぁ〜、女は女であるだけで男と同じ権力を持っているべきだぁ〜とかぁ〜、社会は女の自己実現の場であるべきだぁ〜とかぁ〜、算数も競争も連帯も知らない妄想で怒られたわぁ〜。
女を性的存在として扱うのは侮辱だぁ〜とかぁ〜、神をも恐れぬ虚無主義教団に勧誘されたわぁ〜。
それでぇ〜、んだコラなめくさりよってぇ〜こんクソガキャア〜、ぜってぇいい男捕まえて万全の家事で尽くして子供ドッカンドッカン産んだるわぁ〜ボケがぁ〜って逆に決意固まってぇ〜、嘘ついてでも男に好かれる事にしたのぉ〜」
「それでその口調や大胆な誘惑が生まれたのですか」
「はいぃ〜。頑張って良かったわぁ〜」
「ちょっとした疑問なのですが、モテていたのに独身を保っておられるのは何故でしょう?」
「簡単よぉ。
この国の男の子ったらぁ〜もぉ〜フニャフニャのちんちくりんだからよぉ〜。
おっぱいぃ〜おしりぃ〜あへへぇ〜ってすり寄ってくるだけでぇ、わたしが女と喧嘩しても知らんぷりだしぃ、知識はあっても信念が無いしぃ、不真面目で根性無しの可愛げ無しなのぉ。
男なら誰でもいいわけじゃあないのよぉ〜」
「目的の相手は発見できずにいたし、周りは敵だらけだった…。
逃げようとは考えなかったのですか?」
「だってぇ…悔しいでしょお。
自分が絶対一番正しい〜なんて思ってはないけどぉ、あからさまにとんでもなく間違ってる奴らに追い出されるなんて納得いかないでしょお。
せめて戦っていたかったのよぉ。
負けを約束された勝負だとしてもぉ、社会が壊されていくのを黙って見ていられなかったのぉ。
わたしの子供が生きていく場所を一瞬でも長く守りたかったのよぉ」
眩しい。
なんと高潔な人なのだろう。
この国で今まで生まれ育ってきたのにまだ正義を諦めていないのだ。
たかだか数日の冒険で絶望していた自分がたまらなく恥ずかしい。
一目見た時から惹かれてはいた。
しかし今や私が愛したいのは運命の人ではなく正義を志す女だった。
「結婚してください」
「はいぃ♡」
「即答ですね」
「待ってましたからぁ」
「私は弱い男で、人間不信になりかけています…。
あなたの事は信頼に足ると思えますが、それでも補強して頂きたい」
「ど〜すればいいのぉ?」
「口約束を下さい。
私と、私の子の為に生きると」
「キミ、ううん、あなたとぉ、あなたの子のために生きますぅ♡」
「ならば私もあなたとあなたの子の為に生きましょう」
「こっちからもい〜いぃ?」
「どうぞ」
「お前って呼んでぇ」
「お…ン、ンンン!…お前…」
「あなたぁ♡」
「慣れるまで時間がかかりそうです」
「頑張れぇ〜。あとね〜え?
ベロベロチュッチュとぉ〜、ナデナデぎゅ〜とぉ〜、おっぱいシャララランとぉ〜、お尻パーンパーンとぉ〜、ズッコンバッコンしてぇ〜」
「どれが何だかわかりませんが、満足してもらえるよう頑張ります」
私は彼女を溢れ出るまで満たしきった。
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