5・それぞれのエピローグ

第1話 チャート一位

 コウキ達の作業は連日に渡り、何とか締切までにマスタリングを行って、音源データをレーベルにメールで添付することが出来た。

 そして後日、CDジャケットデザインも送ることが出来た。

 後は宣伝・流通は向こうに任せるだけ。


 そして何事もなく“斑鳩・フォーチュン・チルドレン”のファーストアルバムが、ドイツレーベルから届いた。

 ファーストアルバムのタイトルは“IKARUGA”

 正直コウキは「何で?」と思った。リキに聞くと契約書を交わした際に、アルバムタイトルはレーベルに任せる形にしていたらしい。

「土地名で本当にあるんだから良いんじゃねえか? それにすぐに日本・ジャパニーズってわかるだろ? だったらこれで良いんじゃね?」

 リキは適当に誤魔化した。

 一年契約だからこれから音源を渡しても、せいぜい『ミニアルバム』が妥当。

 この一年は様子見だとリキは言った。

 ちなみに流石に世界で流通することは難しく、ドイツとフランスのみで流通することになっていた。

 それでもドイツとフランス。

 どちらにせよ、コウキは実感はないが発売されたのだから、ある意味スタートラインに立てた、と思うようにした。


 しかし発売から数日たたずにレーベルから、メールに電話も掛かってきた。

 全てリキが応対したのだが、驚愕の知らせであった。


「俺らのアルバムが一週目のチャートで一位になったらしい」

 コウキは目を丸くして、リキのノートPCを開いて、添付されたチャートを見てみた。

 確かに添付された記事、要はチャートなのだがそこには“IKARUGA”と載っている。しかもその名前の横には一位と思われる表記。


 Erster Platz IKARUGA


 検索で調べてみるとドイツ語で“一位”という意味だった。

 コウキとリキは全く実感がなかった。

 はたまた何かのドッキリだろうと思った。

 しかし自分たちの音楽が少なくともドイツ、フランスでウケて突然、一位を獲得した事実は曲げられない。


 そして翌週。

 また“IKARUGA”のアルバムが一位。

 これで二週連続一位になった。

「先輩…」

 コウキは未だに信じられない表情。

「何だよ」

 リキの表情も強張って、新手のドッキリにしては上手すぎる、などと呟いていた。

「僕たちの苦労って何だったんでしょう…」

「俺に聞くな」

「先輩が前に言ってましたよね? 『俺たちの音楽は日本に向いていないんじゃないか?』って。これ、ホントだったんですね」

「いやぁ、まさか…。とりあえずもう少し様子を見ようぜ。来週も一位なんて流石にないと思うし」


 更に翌週。

 またしても“IKARUGA”首位のまま。

 リキはドイツのレーベルに連絡を取ったが、捏造ではなく事実だと。君たちが今日本にいる。それぐらいしかこちらでは情報を解禁しておらず、ラジオ局やテレビ局、様々なメディアが“IKARUGA”とは何者なんだと話題になっている、と。

 そしてついにドイツとフランス二ヶ国ライブツアーが企画されていると、レーベルのマネージャーから聞かされる。

 ここで初めて二人は、


「本当にチャートのトップを獲ったのだ」


 と実感したのだった。

 様々な思いがコウキの中で駆け巡る。それはコウキだけではなく、リキも同様である。

 コウキはユイにチャットメールを打った。


『僕ら、やったよ! ついに海外でライブだ! 次はユイの番だよ、そろそろ留学だよね』

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