第4話 コウキの過去(前編)

「あんだって?」

 聞こえていないような、ふざけた態度であおるるリキ。

「いや、だから。志村けんのモノマネは間に合っているんで」

 コウキは溜息をつくが、もう一度同じ質問をリキに投げかけた。

「何故スコルピオは解散したんですか? 先輩のボーカルさえあれば、メジャーなんて夢じゃなかったはずなのに」

 詰め寄るコウキ。

 何としてでも聞き出してやる。そういった態度だった。

「メジャー? ケッ! 最初ハナからそんなものに興味はねえよ」

 意外な答えだった。

 コウキはメジャーに固執こしつしていた。

 しかし目の前にいるリキは、それをあしらうかのように真っ向から否定した。

「メジャーで何するんだよ? 俺の歌を聴け! って全国に押し売れっていうのか? 馬鹿馬鹿しい」

 本気なのか、ふざけて言っているのかコウキには分からなかった。

 しかしリキはさっきコウキにこう言った。

 俺と組め、と。

「ふざけないで下さい! こっちは真面目に聞いているんですよ。いい加減、ちゃんと答えてくれませんか?」

 コウキは生歌を聴いてしまった。

 今まで強く封印していた音楽が、溢れる様に沸き上がった感触は間違いなかった。

 そして強く思った。

 やっぱり自分には音楽しかないと。

 目の前にいる天才と組んでみたいと。

 だからこそ聞いておきたかった。

 何故解散をし、今まで沈黙をし続けていたのかを。

「そんなに聞きたいか?」

「はい、聞きたいです。組むからには聞いておかないと気が済みません!」

「…ったく。お前は機材オタクの、根っからの音楽バカなんだな」

 少し呆れた様な台詞。

 何を言われようと構わない、聞いておかないと後悔する。

 コウキはいつでも聞ける準備が出来ている。

「話す前に二つだけ確認しておきたいことがある」

「二つ? 何です?」

 ピザ配達のアルバイトを黙って辞めたことだろうか? 

 コウキの頭に最初に浮かんだのはそれだった。

「コウキ、ユイちゃんとちゃんと連絡を取っているか?」

 コウキは黙り込んでしまった。

 あの公園の一件以来、全く取っていない。

 首を横に振るしかなかった。

「だろうな。まぁ、俺が逐一ちくいち報告してるから安心しろ」

「えっ? 先輩と? 何で?」

「何だよ、いけねえのか? あっ! さては俺がユイちゃんを寝取ろうと勘違いしやがったな? これだからドーテーは妄想家で困っちゃうよなぁ」

 再びふざけ倒すリキだったが、すぐに真剣な表情になり、

「安心しろ、ユイちゃんの貞操ていそうは俺が保証する」

 と、腹を抱えて笑い始める。

 完全にからかわれている。

 オモチャにされている。

 苛立ちが募ってくる。

 いつ爆発してもおかしくない状況。

 普段は大人しいコウキでも、流石にキレそうになった。

 怒号を浴びせようとした瞬間だった。

「っていうのは冗談でよ。マジで大事だってんなら離しちゃいけねえよ。お前がまだ心の中で整理付かないのなら、ちゃんと悩んでそれからユイちゃんに直接伝えたらいい。答えが出たら、その時俺もちゃんと協力する。約束だ。でもあまり待たせんなよ、女心は何とやらって言うだろ?」

 それはリキなりの励ましだった。

 今までふざけ倒していたのが、まるで嘘だったかのように心に突き刺さる言葉をコウキは感じ取った。

「二つ目、いいか?」

「え、あ、はい」

「俺に聞く前にまずは自分からじゃねえか? コウキは何でそこまで音楽に拘る? 夢を追い掛けることが悪いとかじゃなくてな。」

 コウキはリキを見つめた。

 あの悪ふざけはなくなり、ただ真っ直ぐ真剣にコウキを見つめている。

「お前が所属していた社長から何となくは聞いているが、やっぱり直接本人から聞いたほうがいいからな」

「何を聞いたんです?」

「“まるで音楽という亡霊に取り憑かれている男”って。簡単に言えば音楽バカって言えばいいのか?」

「亡霊って…」

 コウキは呆れてしまう。

 だがあながち間違ってはいないとコウキは思う。

 ゆっくりとコウキは語り始めた。

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