星の彼方より来る者
きょうはおかあさまにほめられました。わたしはいい子だったと思います。
きょうはおかあさまにけられました。わたしはわるい子だったと思います。
きょうはおかあさまになぐられました。わたしはわるい子だったのでしょうか?
わたしは、なにがいけないのでしょう?
「???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????」
なぜとどうしてで、頭がいっぱいになる。
思考が混濁する。
どうして怒っているのかが分からない。
どうして怒られているのかが分からない。
「お前が完璧じゃないからだ」
私が言う。
「お前が失敗作だからだ」
母が言う。
「お前なんか、要らない」
母と私が言う。
――うごめく泥がクリカに言った。
「貴女はどうして、ここにいるのですか?」
さあ、どうしてだろうとクリカは思った。
「分からないなら、眠っていなさい。ここには誰もいない。誰も貴女を傷つけない」
泥は言う。
ああ、それなら安心だと、クリカは瞼を下ろす。
独りは安心だ。誰にも傷つけられない。誰も傷つけない。
微睡むほど、幸福が近くなる気がした。
ここは居心地がいい。あの場所と同じくらい、安心する。
あの場所? あの場所ってどこだったっけ? クリカは考える。
「忘れてしまいなさい。その方が良い」
泥は言う。クリカはそうは思わない。
―――僕の友達はクリカさんだけなんだ。いなくなられたら、寂しいよ。
そうだったと、クリカは思い出す。
彼を助けなければいけなかったのだ。ここで眠っているわけにはいかない。
「それは貴女がしなくちゃいけない事なのですか?」
泥が問う。
「そう。それは私にしかできない。彼を巻き込んだのは私だから」
「だからといって、貴女がやる必要はないのでは? もっとふさわしい人が、貴女よりもうまくやれる誰かがやってくれると思いますよ」
「そういうわけにはいかない。確かに私はふさわしくないと思う。きっと私よりうまくできる人はたくさんいる。私よりちゃんと考えている人も。けど、それでも良いって、彼は言ってくれた。私のやり方でいいって言ってくれたから、彼だけは裏切れない」
「なら、どうぞお好きに。出られるものなら出て行って結構です」
泥はいなくなった。
◆
背中に感じていた温もりが消えて、悠が振り向いた時にはもうクリカは居なくなっていた。
「クリカさん?」
クリカの気配が消えた事で、悠は敵の攻撃が始まっていると瞬時に察した。
「っ! シンカー!」
いつもはすぐ現れるシンカーが現れない。
しまったと悠は後悔する。シンカーを呼べないという状況は初めてだ。
悠自身に自営の手段はほとんどなく、常にシンカーの援護があった。その頼みの綱があったからこそ、今回も校舎の内部まで入ってきたのだ。
あまりにシンカーに頼り過ぎていたなと、悠は自身の迂闊さを後悔した。
引き返そうかと背後の様子をうかがい、更なる異常に気付く。
廊下が無限に続いていた。果てが見えない。
振り返り、反対側を見る。同じだった。
「やられた……」
敵の罠にハマったのはクリカではなく自分の方なのだと、悠は悟った。考えてみれば単純な事で、敵からすれば非力な方から潰した方が効率が良いに決まっている。
分断された今、自分はどうするべきか悠は考える。
自分のせいでクリカに迷惑はかけられない。それなら、自力で安全圏まで脱出するしかない。今の悠にできるのは逃走だけだ。
近くの窓を開けた。いつのまにか二階にいるようで、地上は少し遠い。
飛び降りるか? そう考える悠を、少女の声が止めた。
「止めた方が良いですよ。見た目通りに地面はありません。永遠に奈落を落ちる事になります」
聞き覚えのある声に悠が振り向くと、そこに委員長が立っていた。
「やっぱり君だったのか」
悠は委員長から視線を離さずに、ゆっくりと後退して距離をとる。
驚くどころか納得している悠に、委員長は眉をひそめた。
「いつ気づいたのです?」
「確信があったわけじゃない。今日の夕方の事だ。僕は小林って女子に文化祭のスケジュールを聞かれたんだ。君が渡してくれたあのプリントだよ。僕は最初、てっきり君が小林だと思ってたんだ」
彼女と最初に接触した日、悠は彼女を学級委員だと勝手に思い込み、プリントを見てクリカは小林さんだと言った。悠はそれが、この女の名前なのだと勝手に錯覚していたのだ。
「学級委員は男女のペア。小林さんが女子なんだから、君がもう一人というのは変だ。そこで、噂を流した謎の生徒の存在を思い出した」
「それでなぜ私だと?」
「だから、確信は無いんだ。あえて言えば、僕の連れが君に反応したってところかな」
シンカーが悠の前で何かを訴えていたから、委員長に何かがあるのではという疑念を持ったのだ。
「それに、君はこの学校で僕に話しかけてきた数少ない人間の一人でもある。委員でもない君が、あのプリントをわざわざ僕のところへ持ってきた理由を考えたら、僕に対して何かしらの探りを入れに来たという選択肢が浮かんだまでだ」
それは本当に、直感みたいなもの。ぼっちの自覚があるからこそ、向こうから接触してきた相手の事はなんとなく気になるものだ。
相手が自分を探っているなどと、普通なら自意識過剰と捨てるところだが、クリカの協力者という視点で悠の存在を不審に思うのなら、別段おかしい事ではない。
クリカと同様に、異次元人もまた異質な悠の存在を疑問視するのは当然の流れだ。
悠がそう言うと、委員長はきょとんとした顔をする。
「貴方、友達いないんですか? あんなに自分から調査だ捜査だって人に話しかけているのに?」
「ほっといてくれ。僕みたいな内向的な人間にとって事務的交渉と日常会話は別なの」
まったく、異次元人にまでそんな事を言われるとは思わなかったと、悠は内心自分に呆れる。
日常会話は何か会話が無ければ成立しないから大変なのだ。それに比べて業務連絡などは定型文で済むので上手くやろうという不安もない。というのが彼の理屈だ。
「教えてくれないか。君は、何者なんだ?」
悠の問いに、委員長はクスリと笑った。
「言ったでしょう。他人の事情に関わる物ではないと」
声のトーンが少しだけ軽快になる。事務的だった冷めた彼女の雰囲気に、少しだけ感情らしいものが見えた。それが悠には、とても嗜虐的なものに思える。
「ヨグソレイスというのが本来の名前ですが、ここではあえて
名乗ると、彼女は丁寧に辞儀をした。
「空虚さんは侵略者なの?」
「そうだと言ったら、どうします?」
彼方の左目が一つ増えた。瞬間、彼女の背後に巨大な扉が現れる。鈍色の扉が開くと、ぽっかりと開いた虚無から無数の触手があふれ出した。
一瞬にして、少女は邪悪な気配を帯びた怪異へと変貌をとげる。
悠は迷わず背を向けて走り出した。彼方に対話の意思がない以上、彼にできる手段はこれしかない。
彼方はゆっくりとした歩調で悠を追いかけた。
全力疾走する悠と、歩いている彼方。なぜか二人の距離は縮まっていく。
悠は理解する。目の前に続くのは無限の回廊などではないと。
「そう見せているだけか! 僕は最初から、これ以上進めないのか!」
無駄だと悟り、立ち止まる。彼方はすぐ目の前まで迫っていた。
「その洞察力、さすがです。やはり貴方の方が、ふさわしい」
「ふさわしい?」
何かが妙だと感じている。彼方の目的が分からない。彼女は結局、一度も自分の口からそれを話していない。
「君はいったい……」
彼方の触手が悠に迫る。
瞬間、悠の背後からシンカーが飛び出した。シンカーが触手を弾き返すと、彼方はわずかに後退する。
「守護者の霊獣ですか。彼女も意外と……いや、これは?」
威嚇するシンカーを前にして、彼方は何かを思考し始めた。
それを見て、悠は彼方の目的が自分たちを害する事ではないのではないかと、なんとなく感じた。
バージェットの時とは違い、彼女の行動はずいぶんと余裕がある。それは絶対的な強者故のゆとりなのかもしれないが。
「ふむ……よく分かりませんね。貴方を一度殺してみれば、答えが出るのでしょうか?」
撤回。やはり彼方は危険だと悠は判断する。
理由はどうあれ、彼方の言葉には偽りがない。発する全ての事が本気のように聞こえる。
「できれば平和的な話し合いが一番だと、僕は思うんだけど」
悠の言葉に、彼方はにっこりとほほ笑んだ。
「ええ、理想はそうでしょうね。ですが、貴方は虫と対話できますか? 部屋に出たゴキブリに、お願いします出て行ってくださいと言えば、それが通ると思いますか?」
「僕らは言葉が分かる」
「理解はできません。分かるだけです。
上位存在の理屈というのだろうか。根本でかみ合わないものがあるのだと、悠は感じる。
「なら、自分の世界に帰りなよ!」
廊下にクリカの声が響いた。
直後、彼方の頭上からクリカが飛び出す。
腕を振り下ろしながら、クリカは着地した。
彼女の手が届く前に、彼方は後方へと下がる。
目の前に現れたクリカへ、彼方は唐突に拍手を送った。
「意外でした。貴女があれを突破できるとは。意外と芯が強いのですね」
「ふっざけんな! 人の過去を勝手に漁るとか、超悪趣味なんだけど!」
憤るクリカに、彼方は挑発的な笑みを向ける。
「戦えない方から狙うとか、最低」
「まさか。人聞きが悪い。あくまでも厄介な方から潰そうとしたまでです」
「真阿連くんを狙った時点で、私はあんたを許さない」
「それで結構です。貴女はここで死ぬのですから」
触手が円形に広がって、彼方の背後からクリカを襲う。
クリカは前へと踏み出した。
触手が収束する先は一点。その内側に、クリカは飛び込んだ。
間合いは十分。クリカは彼方へと手を伸ばす。
弾ける様な音ともに、クリカの手が彼方のわずかに前で止まった。
「なっ―――!」
見えない壁に阻まれたように、クリカの手は彼方に届かない。
だが、見えない壁は確かに彼女の手によって崩壊させられている様だ。
彼女の手のひらから、キューブ状の泡がいくつも生まれ、消えていっている。壁が破壊されるのと同時に再生しているようだった。
驚くクリカに、彼方は淡々と告げる。
「触れた対象を分解する能力ですか。異空間へのゲートを開くときの波長を対象の中に設定し、空間ごと対象を消滅させる。非常に強力な技ですが、原理が分かれば対処は可能です。私は特に、空間と時間をいじる事には長けているので。まあ、こちらでは私自身の身にしか及ばない力ですが」
「くっ!」
クリカが離れた。彼方も距離をとる。
いつの間にか、クリカは触手の束が作り出したドームの中に閉じ込められていた。
ドームの中では、深界へのアクセスもできないようだった。能力が使えない。
攻撃が封じられたのはこれで二度目。しかも今度は明確な対策としてなされている。明らかに自分に対して対策を練っている相手に、クリカは攻めあぐねていた。
外部から見守っている悠には、触手で閉じられた空間の中で何が行われているのかさっぱり分からない。
ただ、彼には一つ懸念があった。閉じられた空間というのが気になる。初撃の触手は初めからクリカを狙ったものではなく、彼女を中に閉じ込めるための物だったのではないか。
隔離された空間。領域。そんな単語を口にした異次元人を、悠は知っている。
アムリは自分の領域としたビルの中では、完全にクリカの攻撃を防ぐことができていた。
それと同じことを、空虚彼方もやっているのではないかと。
クリカも悠と同じ結論に至る。
「シンカー!」
クリカが呼ぶと同時に、彼女の足元からシンカーが飛び上がる。その体に掴まり、クリカは深界を経由して触手の作り出したドームの外側へと脱出した。
彼女が外側から触手のドームに触れた途端、触手は崩れて消滅する。
「瞬時に看破するとは、お見事です。それともすでに、同種の相手と戦った事があるのですかね」
彼方が触手を引かせた。罠かどうかを判断できないと考え、クリカは警戒しつつも彼方へと迫った。
クリカの放った掌底打ちを、彼方は片腕で受け止めた。
次いでクリカが放った蹴りを、彼方は払う。体勢を崩したクリカに、彼方はすかさず追撃をかける。
クリカの攻撃を、彼方は真っ向から受け止めていた。
触れている感覚がクリカにはある。だが、触れれば起きるはずの分解能力は、やはり見えない壁で遮られて彼方には届いていない。
自身の領域を作らずとも、彼方自身には常に防御機構が働いているようである。
もはや両者の戦いは単純な格闘戦になっていた。
激しい攻防を見守る悠は、クリカだけが一方的に攻めている事に気づいた。
「もうよしましょう。こうなってしまえば終わりはない。それに、私はこういった殴り合いが好きではありませんので」
唐突に、彼方が提案した。
一方的に戦いを仕切る彼方にクリカは反抗しようとするが、彼女が手を出す前に悠が止めた。
「待って、クリカさん!」
「どうして止めるの!」
「彼女は一度も、君を直接攻撃してはいない。何か目的があるんだろう。空虚さん、君はひょっとして、僕らの力を試しているのか?」
彼方は再び悠へ拍手を送った。
「そう思った訳は?」
「最初から不思議だった。クリカさんの話を噂として流す事が、いったいどんな意味を持つのか。守護者である彼女に精神的な揺さぶりをかけるという攻撃手段とも考えたけど、あの程度の話にそんな力があるとは思えない」
彼方は少し不思議そうにクリカを見た。
「攻撃手段としてはあれで十分に強力ですよ。どうやら、話していないようですね」
「むしろ、なんでアンタが知ってんのよ」
二人の間で行われているやり取りの意味が分からず、悠は首をひねる。
「ああ、話の腰を折ってすみません。続けてください」
「……あれがもしクリカさんを追い詰めるための攻撃だったなら、僕らを分断した時に真っ先に僕の所へ来たのは変だと思った。ここは君の作った隔離空間で、僕はここから出られなかった。本来なら戦えない僕をここに閉じ込めて、クリカさんを始末しに行くべきだ。
それに、君は挑発的な事ばかり言うけれど、僕に対しても彼女に対しても、本格的な攻撃動作はとっていない」
「私は割とされたよ」
クリカが彼方を睨む。分断されている間に、彼方がよほどの恨みを買う何かを仕掛けたのだろうという事は悠にも伝わった。
しかし、
「別に、あの程度は攻撃とは言わないでしょう」
なんでもない事のように、彼方は言い切った。それを聞いてクリカはさらに不機嫌になる。
「先生たちをおかしくさせたのは?」
「あれは催眠術の様なものです。目覚めた時には元通り忘れていますよ」
「私への嫌がらせみたいな精神攻撃は?」
「ああ、あんなもの。貴女にとってはなんてことなかったのでしょう? そうでなければここにはいない」
それは逆に、効いていたら何を意味するのか。クリカは、やはり信用できないと彼方を睨みつけた。
彼方は気にせず悠へ話を戻す。
「真阿連くん、貴方の読みはほとんど当たっていますよ。指摘の通り、私はあなた達の力を試したのです。特に、彼女の資質をね」
彼方はクリカを見た。威嚇と受け取って、クリカは再び攻撃態勢をとる。それを彼方は無視した。
「これは私なりの、貴方たちへの助力のつもりです」
「助力? どうして? ―――いや違う。何に対しての?」
「この世界の改変事象。それを貴方達は追っているのでしょう?」
彼方の口からその事が出るとは思わず、二人は身構えた。
「私は二年ほど前から、この星を訪れているのです。当初は原生生物でも適当に観察するつもりだったのですが、貴方たち人類の作る文化がなかなか面白くてですね。つい、長居をしてしまったというわけです。
上位者たち―――つまりは貴方達の雇い主ですが、彼らは観光目的の滞在については大目に見てくれるようでしてね。私がこれまで守護者の対応目標になった事は無いと、ここで言っておきます」
そう前置きをおいて、彼方は本題に入る。
「約二週間前、この都市は突然何者かの手によって改変されました。私はその様子を始終観測していたのです」
「都市? 世界の改変ではないの?」
クリカの問いに、彼方は頷く。
「今はまだ、都市に留まっているだけです。全て完了してしまえば、それは最終的に星全域に及ぶでしょう」
「それは、どんな改変なんだ?」
「それは彼女が知っているはずです」
「えっ?」
悠はクリカを見る。彼女はただ複雑な表情で沈黙していた。
「無意識にでも見て見ぬふりをしているのなら、今すぐやめるべきです。それはただの逃避行動ですよ」
責める口調で、彼方はクリカに言う。
「私は貴女という守護者の存在に疑問を抱いていました。だから今回、このような形で貴女の資質を問わせていただきました」
「どうしてそんな事を?」
「私自身が、この改変事象の収束を望んでいるからです。ですがあなた達は、この期に及んでもまだ核心にたどり着けていない。三週間です。すでにそれだけの時間が過ぎているのに、未だにこの都市は侵略者の手中にある。守護者の能力を疑うのは当然でしょう」
クリカが更に難しい顔になった。悠は落ち着かない。
「君が地球の事を思ってくれている事を、人類として嬉しく思う。ただ、僕らには僕らの事情があるんだ」
「ええ。どうやらその様ですね。なんとなく、今回の事で察しました」
彼方は悠を見る。その視線が訴えるものの意味が、悠には分からない。
「他力本願に思われるかもしれないが、ここまでするならどうして君は自分で解決しようとしなかったんだ?」
「私にとっては、それが一番の悪手です。そうしたい気持ちはあります。あなた方の文明に価値は見出せませんが、文化は大変面白い。思想、言論、精神。そういった文化の土壌を抑制するような行為を、私は容認できません。それが余所者の仕業であればなおさらにです。
ですが、私自身余所者であるために、この件に直接介入するわけにはいきません。すれば上位者たちが私の事も地球で暴れている存在と認定し、討伐対象にしてしまうかもしれない。それは避けたい。結局、貴方たちの行動を静観するほかに道は無かったのです。協力しようにも、貴方たちが動かなければ私はどうする事もできないのです」
「だから、僕らの動きを監視したのか」
「おや、気づいていたのですか」
「気づいたのはついさっきだよ。君は僕らの事情に詳しすぎる」
「ええ。そうです。そして、私の目的は果たされたと認識しています」
彼方が指を鳴らす。途端に、周囲の景色が元に戻った。彼方の姿も異形から人に戻っている。
「私はまたおとなしくしていましょう。事件の件は、貴方たち守護者に任せます」
「ああ、そうしてくれ。それと、頼みを聞いてほしい」
「頼みですか? 何でしょう」
「もう、こういうやり方は止めてくれ。学校のみんなにも、クリカさんにも、危害は加えないでほしい。それは君も本望ではないはずだ」
「ええ。分かっています。お約束しましょう」
「ありがとう」
彼方に礼を言って、悠はクリカを見る。意外としっかりとした様子で、彼女は彼方を睨みつけていた。
「次何かしたら、今度こそ容赦しないから」
「ふふっ。できるものなら」
彼方はじゃれ合いのつもりなのだろうが、そういうのやめてほしいなと悠は思う。できれば平和が一番だ。
悠はクリカと共に、そのままシンカーで部屋に戻った。
道中、クリカが言った。
「真阿連くん、今日はなんていうかありがとう」
「どうしたの突然」
「いや、さっきさ、心配してくれてたでしょ。私があいつの言葉でまたヘコまないかって」
「ああ、うん。ちょっと心配だった」
彼女を気遣って控えめな悠に、クリカは強く意志を持って告げた。
「大丈夫。私はもう、迷わないから」
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