第3話パラディン『セブンス・ドラグニティ』

『ドラグニティ学園正門前』


「ドラグニティ学園新入生の方、入学式会場はこちらです!」


正門前には如何にも先生らしき人が立っていた。


「おはようございます!リーフ・マウンティと言います。これからよろしくお願いします!」


先生と出会った瞬間リーフは自ら率先して挨拶を行った…いつもこうだ。


リーフは誰だろうと先に挨拶を行う、僕には絶対にまねできない。


「あら!礼儀正しいわね。こちらこそよろしくお願いします。入学式会場はこの道を真っすぐ行ったあの大きな教会で行われるわ」


「ありがとうございます。失礼しました」


リーフは最後に深くお辞儀をする。


「あんなに礼儀正しくしなくてもいいんじゃないか…」


「何言ってるのハンス!人は第1印象が1番大事なんだから。もしかしたら私たちの先生になる人かもしれないでしょ」


――まぁ、0%ではないか…それにしても、どれだけ多くの人がここに居るんだ…。


僕が見える範囲だけでも、既に400人くらい居るんじゃないだろうか…まだあの教会の中にいるとすると…どれだけ多いんだ。


「なぁ、リーフ、今回入学する生徒って何人くらいいるんだ?」


「そうね…確か1505人だったと思うけど。私たちを含めた中等部全員で4150人、高等部全員で8040人、全校で12190人の生徒がいるわ」


「12190人!多すぎだろ!どうなってるんだ」


「そりゃあ、このドラグニティ学園はジャパニ王国で有名な進学園だもん。まぁ生徒はいっぱいいるけど、お金持ちの家の子とか、権力者の子も大勢いるし、貴族の子だっているのよ。噂では、ジャパニ王国、国王の子供も入学してるって。他国からの留学生も大勢いるらしいわ」


「なんでそんなすごい学校に僕なんかが入ってるんだよ!場違いにもほどがあるだろう!入学試験だってほとんど分からなかったのにどうして僕は入学できたんだ!」


「そりゃ…ドンカーさんの息子だからなんじゃない。でもこれはチャンスでもあるのよ!自分を変えることのできるチャンスをドンカーさんはハンス!あなたに与えたかったのよ。その気持ちを汲み取ってこの学園の先生たちもハンスを入学させてくれたんじゃないの?」


「…僕はそんなこと頼んでないよ…」


僕よりもはるかに強そうで頭のよさそうな人たちばかりが…歩いている。


しかし、ここまで来て引き返すのも情けないので僕は、教会に向って歩いていく。


「前の人からこちらの教会内に入って行ってください!1人1つ、ちゃんと椅子がありますから、急がなくて大丈夫ですよ!」


他の先生たちが僕たち新入生を先導する。


「それにしても大きいな…いったい何人は入れるんだろう」


「ハンス!早くいくわよ、後ろが詰まっちゃう」


バカでかい教会に入って行き、綺麗に陳列された椅子に座る。


教会の壁にはいろんな人の肖像画が飾ってある…のだが…。


「あ…曽爺ちゃんだ…」


「ほんと、ハンスの曾お爺ちゃんもこの学校に通ってたのね」


肖像画の中に僕の曽お爺ちゃん、『ヨハンセン・アンデシュ』の肖像画が飾られていた。


随分カッコよく書かれている。


大分若いけど何歳くらいの時描いてもらったんだろうか。


「ハンスの曽お爺ちゃんってすごく強い魔法使いだったんでしょ。大戦でも活躍したって、そんなすごい人のひ孫が…はぁ、遺伝子…て残酷ね…」


リーフは僕の事を可哀そうなものを見る目でそう言った。


「うるさい…」


――僕だって出来るなら魔法をうまく使いたいよ。


椅子に座ってから、10分ほどたち、周りを見渡せば人、何処を見渡しても人、いや…人間じゃない生徒もいる。


目を凝らせばいろんな国の人たちがこの場にいることが分かった。


長い耳…ふさふさの尻尾…ウロコの付いた尻尾などを特徴的な部分を持つ生徒たちが僕の眼に映る。


「ハンス!入学式、始まるわよ」


祭壇の前にお年寄りの先生が立った。


真っ黒なローブを着込み、頭部にはこちらも真っ黒なエナンをかぶっている。


右手には杖型のマギア『ロッド』を持っているのだが…どうやらマギアを起動する気らしい。


「マギア…起動、『フロウ』」


お年寄りの先生は右手に持っているマギアを前に突きだし起動させ、同時に風属性魔法の1つ浮遊魔法『フロウ』を発動した。


会場にいる生徒たちの椅子が浮かび上がる。


「マギア起動『ピクチャー』」


他の先生がマギアを起動し、雷属性魔法の1つ映像系魔法『ピクチャー』を会場の前後ろ両脇に展開した。


そして、何処からでもお年寄りの先生が見える状態にしたのだ。


突き出しているマギアを園長台の上に置き、お年寄りの先生は話始めた。


「え~、皆さん、落ち着いてください。今浮いてもらっているのは、魔法を肌で感じてもらおうと思い、儂が勝手にやっていることです。落ちそうになったら、他の先生たちが必ず受け止めますので心配しないで。え~今浮いていない生徒もいると思いますが、その生徒たちは事前に高所恐怖症であると伺っておりますので、浮いていないだけです。あ、自己紹介が遅れてしまったな…え~、儂の名前は『セブンス・ドラグニティ』、この学園の学園長をしておる」


「凄い…本物の『セブンス・ドラグニティさん』だ!この世界で7人しかいない『パラディン』の1人、セブンス・ドラグニティさんに生で会えるなんて…」


マギア、魔法士オタクのリーフは既に興奮状態に入っている。


「え~、儂はあんまり話すのが得意じゃないんでな、簡単に済まさせてもらう。ようこそ、ドラグニティ学園へ、皆を歓迎する!この学園で多くを学び、大きく成長していってくれることを儂は願っておる!皆が目指す目標は1人1人違うじゃろう。だが、ドラグニティ学園は全生徒の目指す目標を達成するために重要なことを教えてくれるだろう。学べ!自ら目指す目標を手にするために!遊べ!人生を謳歌するために!苦しめ!人、生物として成長できるように!話は以上だ!…儂からのささやかな祝いの品としてこの花を贈ろう!」


校長先生は園長台の上に置いてあったマギアを手に取る。


再度マギアを前に突きだし、ゆっくりと杖の先を上に向け…呪文を唱えた。


「『開花!』」


土属性魔法の1つ自然系魔法『開花』を発動し、多くの生徒の胸あたりに、一輪の花が咲く。


「この花は…サザンカ」


「儂の1番好きな花じゃ」


そう言って、校長先生はその場から消えた。


「す…すごい、まだ父さんが新型マギアで試行段階中の『転移魔法』も使えるなんて…さすがはパラディン」


浮いていた椅子が少しずつ下りていく。


ふと隣を見ると…リーフは相当感動したのか輝くエメラルドグリーンの瞳からサファイア色の涙を滝のように流していた…。


僕はそれを見て、ちょっと引いてしまった…ごめんリーフ。

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