第9話
レオナルドとルーシェの結婚記念日となるはずだった日の翌日、神託により罪人と認められたルーシェの死刑が執行された。その亡骸を、レオナルドは決して誰にも触れさせなかった。
深い失意の中で、レオナルドはルーシェと交わした約束を一つずつ確実に叶えていった。
庭に一輪の薔薇を植え、自ら毎日世話をし大事に育て、枯れたらその種をまた植えて、少しずつ少しずつ、増やしていった。
ルーシェが大好きだと言った国を、景色を守るために尽力し、オベリスク王国はめざまし発展を遂げ、大国と呼ばれるほど立派になった。レオナルドは民から英雄王と慕われ、長きにわたって平和な治世が保たれた。
この国が私の妃であると主張し独身を貫いたレオナルドはその後、王位を弟へと譲り退位した。その頃には、庭園には溢れんばかりの薔薇の花が咲き乱れていた。
年を取って足腰が弱り、握力が衰えても、レオナルドは一日たりともその庭園の世話を欠かさなかった。一輪一輪に愛情を込めて、大切に育てていた。そうして最期の時まで薔薇達に囲まれて、生涯を閉じた。とても穏やかな顔をして眠りについた英雄王の口元からは、幸せそうな笑みがこぼれていた。
──お迎えに上がりました、レオナルド様。貴方の犯した罪も、罰も、これだけで許されるわけではありません。なのでこれからは私と共に、地獄で償っていきましょう。
──ルーシェ、お前と共に居られるのなら、たとえ地獄だろうが俺にとっては楽園だ。
約束通り、ルーシェはレオナルドを迎えに行った。約束の一つでも反故にしていたら、行かないつもりだった。だが悔しい限りに全てを果たしたレオナルドの姿を見守ってきて、ルーシェはやっと自分の気持ちを理解した。そして、レオナルドの抱えていた想いも。
──私もです、レオナルド様。たとえ地獄から出れずとも、貴方の隣が私にとっての、唯一の楽園です。だからずっと、そのお心は返して差し上げません。
こうして、狂愛王子に囚われていた少女は、逆にその心を捉え返して復讐を遂げた。
──貴方の犯した罪も全て、今はただ愛おしいと思ってしまう狂った女に捕らえられて、レオナルド様はとても可哀想なお方ですね。
──フッ、何を言う。俺にとっては願っても無い幸運だな。
ただしそれは狂愛王子にとって、ただの御褒美にしかならなかった……のかもしれない。
狂愛王子に囚われた少女の、強かなる復讐譚 完
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【後書き】
ご拝読いただきありがとうございます!
所謂、メリーバッドエンドと言われる部類に入るのかなーと思いつつ、あの二人が本当の意味で結ばれるには、それだけのけじめと時間が必要だったと思っております。
補足として、ルーシェが地獄に落とされる罪状は「神託を欺いたこと」です。レオナルドが地獄に落とされる罪状は言わずもがな「度を越えた処刑をやりすぎたこと」です。
シンデレラストーリーの覗いてはいけない裏側をコンセプトに、ヤンデレが究極進化したらどうなるんだろう……って、疑問から生まれた作品です。
当初は、ルーシェが最後までレオナルドを欺き処刑されたとみせかけて、奇跡の生還を果たした協力者アンドリューとともに幸せになる──はずだったんですが、どうしてこうなったのか……( ̄▽ ̄;)
悪役を悪役にしきれない、悪い癖が出てしまったようです。
何はともあれ、このお話をずーっと書きたくて、隙間時間にちょこちょこ書き足しながら、やっと完成まで持ってこれました。
人を選ぶ作品だとは思いますが、フォローや☆をいれて頂けたら嬉しいです!
レオナルド視点のお話を、後二話ほど投稿予定です!
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