第4話
わき上がる恐怖に震え上がる。自分と親しくしている者達がこうも次々と亡くなるなど。もしかすると、自分は呪われているのかもしれない。知らず知らずに関わった人を不幸にしてしまうのだとしたら。
しかしそれならば、何故一番親しい間柄であるレオナルドは無事なのか。真っ先にレオナルドが危険な目に遭ってもおかしくないのに。
──まさか……いや、そんな事は……
脳裏によぎった答えをルーシェは必死に否定した。証拠もないのに疑うなど、あってはならない事だと自分に言い聞かせて、王城で王妃教育を受けていた。
そんなある時、レオナルドが部屋を去った後、手帳が落ちているのに気付いた。大事な予定が書かれているのかもしれない。早く届けてあげなければと急いだせいで、誤って手帳を落としてしまった。
たまたま見開いてしまったページには、ぎっしりと文字が書かれていた。しかし奇妙な事に、全てバツ印で一つ一つ丁寧に消してあるのが目に付いた。
何となく気になって消された文字を読み上げてみた。ミカエラ、ヘンリー、シャーロット。どうやら消されているのは人名のようで、親しみのあるその名前達を見て背筋がゾッとする感覚に襲われる。
──まさか、そんなはずは……
そう思いながら、ページを遡る度に懐かしい名前が増えていくのに手が震えた。最初のページの初めに書かれた名前を見て、ルーシェは思わず絶句する。
アンドリュー
それは、幼い頃結婚の約束をした幼馴染みの名前だった。続くのはその幼馴染みの家族、そして自分の家族。孤児院の兄弟達に先生……全て事故死した者達の名前だ。まさか、そんな……気が動転しそうになった時、激しいノックの音が聞こえた。慌ててルーシェは手帳を元あった場所へ戻してドアへ向かう。
「ルーシェ、手帳を見なかったか?」
開口一番、珍しく焦りを滲ませながら立つレオナルドがそこにはいた。
「手帳、ですか?」
「すまない、部屋を確かめさせてもらっても良いか?」
「ええ。構いませんよ、どうぞ」
平静を装って、レオナルドを部屋へ招き入れる。レオナルドはすぐに自身の手帳を見つけたようで、慌ててそれを拾い上げた。
「まぁ、そんな所に。気付きませんでしたわ。見つかって良かったですね」
レオナルドは内ポケットへさっと手帳をしまった。まるでやましい何かを隠すかのように。
「手間を取らせたな。名残惜しいが今度こそ行くとしよう」
「はい。いってらっしゃいませ」
お見送りをするルーシェを自身の方へ引き寄せたレオナルドは、いつものように唇に軽く触れるだけのキスを落として去って行く。レオナルドが去った後、洗面台まで走ったルーシェはあまりの気持ち悪さに戻した。
──気付かれてない。何とか誤魔化せた。けれど、あの焦りようはやはり……
不整脈を起こしたかのように、心臓が尋常ではないほど脈打つ。全てを黒だと言い切るには材料がたりない。しかし考えれば考えるほど、そんな芸当が出来るのは彼以外にあり得ないと考えてしまう自分が居ることに気付いた。
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