第3話
「俺達の門出を祝う日だ。素晴らしい結婚式にしよう」
国中の名だたるドレス職人を呼び出して、レオナルドはウェディングドレスを作らせる。結婚式でルーシェに似合う最高の一着を仕立てるために。装飾品や靴にまでこだわりを持ち、金に糸目もつけず。
ルーシェも女だ。一生に一度の結婚式を綺麗に着飾りたいという願望がないわけではない。でもあまりにも湯水のごとく国庫の財源を使うレオナルドの姿に不安が募る。
元々庶民の子であったルーシェは、両親が税金を支払うのに四苦八苦していたのを知っている。毎日朝から晩まで汗水垂らして働いた。貯めたお金のほとんどを税金として持って行かれ、毎日生活していくので精一杯だった。そんな苦労して払っていた税金の使い道が、たかが一度しか着用しないそのドレス代として消える現実を目の当たりにして、大きな感覚の違いを思い知る。
そうやって浮き彫りになる感性の違いに戸惑いながらも、ルーシェは必死に自分を落ちつかせる。しかし、一度抱いてしまった疑念はそう簡単には消えない。
思い返せばルーシェに辛く当たった貴族の令嬢達は、いつの頃からか夜会に来なくなった。ダンスに誘ってきた貴族の子息も、そういえば最近顔を見ない。
恐る恐るルーシェは彼等が今何をしているのか調べると、その結果がさらに恐怖を募らせることになった。
家が没落していたり、行方不明になっていたりと結果は様々だったがとても悲惨な末路を辿っていたのだ。
思わず絶句した。
ルーシェの前ではいつも微笑みを絶やさないレオナルドだが、よく観察してみるとそれ以外の所ではあまり表情が変わらない。そして彼に付き従う者達は、どこか怯えたような目をしている事に気付く。
目の前で使用人が粗相をしても、レオナルドは怒らない。怪我はないかと、まずその使用人を気遣う言葉をかける程に優しい人のはずなのに何をそんなに怯えているのか。
ルーシェは気付かれないようにレオナルドを観察してみることにした。そこで衝撃の事実を目の当たりにする。
新しく入った新人の執事が、誤ってレオナルドの前で花瓶を落としてしまった。ルーシェが知っているいつものレオナルドなら、「大丈夫か?」とその新人の執事に怪我がないか尋ねるだろう。
しかし現実は違った。苛立ったように舌打ちをした彼は冷たくこう言い放つ。
「明日から来なくていい」
「申し訳ありません、殿下。今後二度とこのようなことは致しません。どうか今回だけは……っ!」
必死に謝り許しを請う執事の悲痛な訴えに耳を傾けることなく、興味は失せたと言わんばかりにレオナルドはその場を立ち去った。
偶然を装ってルーシェはレオナルドに会いに行く。回廊でたまたま絶望に打ちひしがれる執事を見かけて声をかけた。話を聞くと粗相をして首になったのだと言う。深く反省しているようだからその処遇を改善してやれないか、遠回しに訴えるとレオナルドはルーシェの言葉に耳を傾けてくれた。
執事の処遇は改善され、王城でたまたま会う度に執事はルーシェに笑顔で会釈してくれるようになった。
しかし、ある時を境に王城で全くその執事を見かけないようになった。他の執事に彼は元気かと尋ねると、つい先日に不慮の事故で亡くなったと聞かされた。
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