続編 オープニング



 王都が火の海に沈む。

 悲鳴が、怒号が、建物の崩れる音にかき消されながらも耳に入ってくる。

 それを一人の男が冷たい眼差で見下ろしていた。


「……何故だ」


 そんな男の背に一人の少女を守りながら少年が詰問する。

 

「答えろ! プルトン・ハイデス!」


 少年が口にした名に、男は反応し、振り返る。

 

「貴様が、軽々しく、その名を口にするな」


 バルコニーの手すりに立っていたその男は、少年の前に音も無く降り立つ。


「私の妹を犯罪者だと処刑し、父と兄を国賊とし処刑したのは誰だ? 母を監獄に入れたのは誰だ?」

「処刑……? どういう事です? それではまるで……」


 少年の腕の中に居た少女が驚いた様に呟いて、怖々と少年を見た。

 少年は、気遣うような笑みを少女に見せた。


「君は気にすると思って、伝えていなかったが、プルトン・ルビアンはあの後、処刑された」

「そんな!」


 少女は目を大きく開けて、少年を見た。

 その判断を少年が行ったと思ったのか、反射的に少年を押しのけ、床に座り混む。


「そんな、どうして……。いつか、仲直り出来ると思っていたのに……」


 少女は顔を両手で覆い、嗚咽を零す。

 少年は、涙を零す少女に寄り添おうとしたのだろう。だがそこに空気を切り裂くような、冷たい声がかかる。


「白々しい。私の妹は、お前達の真実の愛とやらのせいで殺されたというのに」


 男の言葉に、少女は少年を見た。少年は慌てて首を横に振る。


「私はそのような卑怯なことはしていない! きちんと彼女は裁判にかけられて法の下処刑されたのだ!」

「法の下か。よく恥ずかしげも無くそのような事が言えた者だ。その裁判を執り行った者の養女になる事に、何の疑問も浮かばなかったのか?」

「……お養父様? お養父様が裁判を?」

「…………何も知らない、愚かな娘というわけか。傀儡としては最適というわけか」


 パチン。と男が指を鳴らすと上空からドラゴンが落ちるように現れ、男の少し斜め後ろで留まる。


「何も知らなかったらしい、其方に十秒間だけ与えよう。逃げ切って見せよ」


 男の言葉に少女は顔を上げる。

 少年を見て、男を見て、ドラゴンを見上げる。

 そして、数を数え始めた男の声に少女は立ち上がり、歩き出す。

 男の方へと。


「……貴方の手で、わたくしを処刑してください。その方がより、貴方の心も晴れるでしょう?」


 そう言って少女は胸の前で手を組んで、顔を上げて首筋を晒す。

 神に祈りを捧げるように男を見つめた。


「さぁ、どうぞ」


 少女はゆっくりと目を閉ざした。






 当時は思わなかったけど……。なんで、首筋なのかしら? 普通、頭を下げてうなじを晒すんじゃ無い?


 ぼんやりと天蓋を眺めながら、先程見た夢を反芻して、最初に浮かんだ感想はそれだった。

 乙女ゲームの続編。

 その中で、1のファンのために作られた隠しルートのオープニング。

 1のデータを使って、より1のキャラと真実の愛を育むか、2のラスボスと改めて新しい愛を育むか。

 その分岐点。

 夢の内容は2のラスボスと改めて新しい愛を育むの方だった。

 1のキャラと真実の愛を育む場合はヒロインが1の攻略対象の元に歩き、共にドラゴンを倒しましょう。と、恋愛から何故か冒険ものが始まるのか、という内容だが。

 まぁ、その後、どちらを選んでも面白がった男に攫われてしまうのだが。


「……何はともあれ、消えた未来だわ……」


 そう。消えた未来だ。

 わたしはあのパーティー以降もお家で過ごす事が出来た。

 地下牢の地の字とは無縁の生活を送っている。

 そして、明日には王都から領地へと旅立つのだ。

 友達と一緒に、卒業旅行を兼ねながら。

 そう思ったら口元がにやけ始めた。

 卒業旅行。なんて素敵な響き!

 あれもしたい、これもしたい。と幸せな想像を楽しみながらわたしはまた夢の中へと落ちていった。





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