赤い獣
赤い獣は咆哮すると、母娘に襲いかかろうとする。
「きゃあああ」
母娘は抱き合いながら目を瞑る。
「ガード!」
フェルドが母娘と赤い獣の間に立ちはだかると両手を赤い獣のほうへとかざしながら呪文を唱える。
すると爪を尖らせて襲おうとした獣が何かに弾かれて地面へ叩きつけられる。
「大丈夫か?」
「はっはい」
「いますぐにげろ! すぐに襲ってくるぞ」
フェルドがいうよりもはやく赤い獣は立ち上がるなり次の攻撃を仕掛けようと飛び跳ねる。
そのままフェルドたちの真上までくると投下する。
「きゃああ」
「ガード!」
再び結界を張ると赤い獣は弾き飛ばされることなく結界の上に乗り込むなりガシガシと結界を解こうとする。
「今のうちだ! はやくにげろ!」
「むっ無理ですううう」
「腰が抜けて動けません」
旅人風の母娘はただお互いに抱き合うばかりで震えて立ち上がろうとしない。
「くそつ! 仕方ないなあ。エド! 変わってくれ」
いつの間にかフェルドの隣に立っていたエドルフがさきほどのフェルドと同じ呪文を唱える。
するとフェルドの結界の内側に新たな結界が生まれる。同時にフェルドの結界が溶けていく。
それを見届けたフェルドは完全に動くことができなくなった彼女たちの襟足を掴むなり猛スピードで走り出した。
「ほええええ!」
「きゃああああ」
母娘が悲鳴を上げるのも気にしている暇はない。とにかく安全な場所に運ばないといけない。
やがて先程まで食事をしていたレストランローズマリーの前までやってきていた。
「とりあえずここまで来れば大丈夫だな」
そういいながら彼女たちを離した。
その反動で彼女たちは倒れ込む。
「いたた。なにするのよ! 助けてくれたのは嬉しいけど乱暴じゃないの!」
母親らしい女性が声を荒げる。
「悪かった。緊急事態だったもので……。ここまで来れば大丈夫だ。とにかく店にでも入って身を隠しておけよ。じゃあな」
そういうとフェルドは来た道を戻っていく。
「ちょっと! 何なのよ! 助けてくれたのはありがたいけどあんまりじゃない! そう思わない? ペルセレム?」
フェルドに文句を言っていた母親が娘の方を見る
なんと娘の目がハートになっていたのだ。
「すっすてき♡ 」
「おーい。ペルセレム? おーい」
母親が娘の名前を呼ぶもすっかり虜になってしまった彼女の耳には届いていない。
「あの方はどんな方かしら……」
そのつぶやきに母親は娘から自分たちを助けてくれた少年の向かった方へと視線をむける。
かなり離れてしまっているが彼らがあの獣と戦っている様子がかすかに見えた。
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