発生
「どっちですか?」
「こっちだ! こっちの方向から気配がする!」
店を飛び出したフェルドがエドルフにそう答えると再び走りだし、そのあとをエドルフが追う。
先ほどまで大好きな食事をしていたフェルドだったのだが、突然異様な空気がフェルドの背中のほうから襲いかかってきたのだ。異様な空気というのは、正しい表現なのかどうかはわからないが、先ほどまでなかったはずの得たいの知れない違和感がこつぜんとやってくる。その違和感はクライシスとよばれる存在をしめるものだとフェルドは知っている。
いつからそんなものを感じられるようになったのかは知らない。気づいたら、「クライシス」を感じられるようになっていたのだ。
「フェルド。まだ食べているんですか」
クライシスが迫っているのだから、切羽詰まっていてもいいのだが、真剣な眼差しをしていたフェルドの手にはちゃっかりパンが握られており、モグモグと口が動いていた。
それを真顔でやっているのだから、エドルフは思わずツッコミを入れてしまったのだ。
「腹が減っては戦はできぬ。モグモグ」
本当にマイペースなひとだなあとエドルフは苦笑するしかなかった。
それもなのだが……。
「ちょっと、待ってよ! ねえっ!」
店であった少女たちがなぜか自分たちについてきているではないか。
「あなたたちはなぜついてくるんですか!?」
「あーーほんとうだーーモグモグ」
フェルドは再びパンを口に入れながら、後ろを振り返る。
「どうしたの? モグモグ」
「えっと、なんか気になっちゃって……」
フェルドたちに追い付いたエレナは戸惑いながら答える。
「それって……モグモグ……ストーカーってやつ」
「違うわよ!」
フェルドの言葉にエレナがムッとする。
「そうじゃなくて! なんか急にとびだしたから気になったのよ!」
そういいながらも、さてどうして自分が彼らを追いかけることになったのだろうかとエレナは心の中で自問自答した。
正直、初対面で自分には関係ない人たちだ。旅人なのだから、一期一会といってもいいだろう。
それなのに追いかけてしまった。
「僕たちに興味もつのは……ちょっと……」
エドルフがどうしたものかと困惑している。
「きゃあああ!」
すると悲鳴が響き渡る。
フェルドたちが振り返ると、そこには一匹の大きく赤い獣と旅服をきた母娘らしい女性が二人座り込んでいる姿が見えた。
「妖魔!?」
エレナが声を上げる。
ほぼ同時にフェルドがかぶりついていたパンを投げると走り出した。
エドルフは地面に落ちる前に慌ててパンを取る。
「あぶない。あぶない。フェルドが逆上するところだった」
ホッとすると、エレナにパンを渡す。
「え?」
エレナはキョトンとする。
「落とさないでもっていてくださいね」
それだけ告げるとエドルフもフェルドに続いて駆け出した。
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