二人の旅人

「うめえ!」


 フロンティアの街へたどり着いたフェルドたちはさっそく食事を摂ることにした。エドルフは食事を後回しにして、フロンティアにある騎士団の事務所に向かいたかったのだが、食べることがなによりも好きなフェルドがそれを良しとしない。


「腹が減っては戦はできぬ」のだといって、飲食店を探し始めたのだ。繁華街にいけばいくつも飲食店が並んでいる。けれど、そのほとんどが観光客向けであるためにそれなりに値段が高い。


 まだこの仕事につきて間もないふたりにしてみれば、食事にあまりお金を使いたくないものだ。ならば、安くてそれなりに大量摂取できるところを探すべきだとフェルドが主張する。


 食いしん坊でありながらも、お金には結構シビアなフェルドのどちらかにしてほしいのだとエドルフは思う。


 どこか安くてたくさん食べられる店はないものかと繁華街にある八百屋に訊ねてみた。すると、八百屋の店主は気前よく「うちのお得意先の店なら旅人さんたちが求めるのにあっているかもしれん。うまくて安い! 地元では評判の店さ」と教えてくれたのだ。


 そういうわけで八百屋の店主の案内で繁華街からはずれた住宅地にある食事処へ案内された。


 中に入るとかなり混んでいたのだが、さほど待たずに店の奥の席へと案内される。メニュー表をみるとたしかに安い。銀貨一枚でもおつりがくるほどの安さだった。


「店員さん! ここにあるメニュー全部ください」


 フェルドが意気揚々というと店員さんは目を丸くして「全部ですか?」も聞きかえす。


「そう!ぜん……」


「いえいえ、ズワイガニのパスタとダッサドリのソース炒め、キーマライス、ジャカルビーフ、ソバンでお願いします!」


 エドルフはフェルが次の言葉をいうよりも早くそう告げる。


「はい。かしこまりました」


 それでも、店員さんはたくさん食べる人たちだなといわんばかりの顔をしながら、メモをとるとさっさとカウンターのほうへと戻っていった。


 それから、大量の食事が届けられるとフェルドは一目散に食べ始める。その様子に周囲の客たちが物珍しそうに視線をむけていたのだが、エドルフは気になりながらもどうにか冷静さを保ちながら自分の前に差し出されたズワイガニのパスタを食べ始めた。


 やがて昼下がり、客たちがずいぶんと減っていき、フェルドたちも食事を終わろうとしたいたときだった。


「ねえ、あなたたち~」


 突然ひとりの少女が話しかけてきたのだ。


 フェルドは食べ物を咀嚼しながら振り返り、エドルフはしずかに握っていたフォークをさらに起きながら少女をみる。


「あなたたち、 旅の人でしょ? どこからきたの?」


 自分達と同じ年頃の少女だった。


「だれ? 」

 

 フェルドがさらにダッサドリを頬張りながら尋ねる。


「私はエレナよ。 エレナ=マーファ」


「ふ~ん。 それで、そのエレナてのがなんの用?」


 フェルドはいかにも興味なさそうにエレナと名乗る少女に背を向けてさらにダッサドリの肉を頬張る。



「フェルド。その態度あまりよくないですよ」


 エドルフが相棒の態度に困惑する。そのうしろでエレナも少し不機嫌に顔を歪める。


「すみません」


「こちらこそ、ごめんなさい。食事中に話しかけたりしたから」


 彼女は自分の好意の浅はかさを恥じるかのように慌ててあやまる。


「だって、話しかけたくなるよ。旅人がこの店にくるなんて珍しいじゃん」


 すると彼女のすぐ後ろから青い髪の少年がひょこっと顔をだしていった。


「あっ」


 その姿にエドルフは思わず口を開く。そんなエドルフの態度の変化に気づいたフェルドもまた少年のほうをみるとようやくもっていたスプーンを皿に置いた。同時に口腔内にあった食べ物をごくりと飲み込む。


「おっ、まさかの青の民?」


 フェルドが興味津々に少年をみると、たちまち少年はエレナの後ろに隠れた。


「ラトラス? どうかした?」


 エレナが不思議そうに尋ねると、ラトラスと呼ばれた少年ははっとするとエレナから離れた。後頭部をなでながら困惑する。


「なんかびっくりしただけだよ。青の民っていわれるのあまりないからさ」


「確かにね。いまではめずらしくないもの」


 すると、もうひとりの少女ピスマユルがいう。


 その姿にもフェルドとエドルフは「あっ」と声をあげた。


「エルフもこの街ではめずらしくないわよ」


 フェルドたちが口を開くよりもはやくピスマユルが自分の正体をつげる。


「この店はね。エルフも青の民も珍しくないのはここいらにはそんな種族が入り交じっているからなんだよ。だけど、他所からやったきた旅人がこの店に立ち寄るのは珍しいことなのさ」


 すると店員であるナリーがそう説明する。


「もちろん、観光客は多い。だけど、基本的に表通りで済ませることが多いんだよ。なぜなら、こちらの通りはあくまでも住宅街だし、そんな観光するようなものはないからね」


 確かにそうだろう。


 フェルドたちも最初表通りのほうばかり食事処をさがしたいた。あの八百屋さんに案内さらなければ、裏通りに入ろうとは思わなかっただろう。


「それよりもあなたたちってもしかして………」


 ガタン


 ナリーがなにかを言い終わる前にフェルドが突然立ち上がった。


「びっくりした。どうしたの? 急に」


 エレナが尋ねるもフェルドはそれに答えることもなく真剣な眼差しをどこかへと向けている。やがて、エドルフを振り返る。


「エド!」


 エドルフもまた立ち上がりフェルドにうなずく。


「店員さん。お勘定です」


 そういいながら、財布からお金をだすもそのままナリーに渡した。


「たぶん、足りるはずです。おつりはいりません」


 エドルフがナリーとのやりとりをしている間にフェルドはすでに店を出ていってしまった。


 ナリーがお金を受け取ったことを確認したエドルフも足早にフェルドを追いかけていく。


「なんなの? 急に……」


 エレナが呟く。


「なんだか、ものすこく……ものすごーく、気になるじゃないの!」


 そう叫ぶなりエレナも彼らを追いかけて店を飛び出す。


「まてよ。エレナ」


「ちょっと! エレナ、ラトラス」


 ラトラスとピスマユルもそれに続く。


 ナリーがただ呆然とその様子をみていたが、「なんか、あわただしかったわねえ」とのんびりとした口調でつぶやきながら先ほど受け取った金貨一枚をみる。


「うーん。ちょっと足りないかしら。まあ、サービスしておくか」

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