レストランローズマリー
エレナたちが向かった店はメインストリートから外れた民間の並ぶ通りの一角に存在していた。レンガ造りの二階建てで二階は住宅となっているこじんまりとしたレストランだった。
「レストラン・ローズマリー」とかかれている看板がある以外は入り口も一般的民間の玄関と同じ作りをしているのだから、地元の人でなければ、なかなか気づきにくい店だ。
それでも、昼時にはお客さんで溢れ変えるほどのこのあたりでは一番評判のある店である。
エレナたちも学校の同級生に連れられて来た以来、すっかり常連になってしまい、街に繰り出すたびに立ち寄るようになっていた。
「いらっしゃい。 エレナ ビスマユル」
昼をずいぶんとすぎているために店内の客はまばらだ。
店の扉をあけるとすぐにあるカウンターの中で皿洗いをしていた店員らしき女性が彼女たちに気づいてそう尋ねる。
「こんにちわ。ナリー。いつもの席あいているかしら?」
「大丈夫よ。いつものメンバーが集まっているけど、ちゃんとあなたたち二人分の席は確保されているわ」
「エレナっ! ピース!」
エレナたちが振り返ると店の奥の方からひとりの少年が無邪気な笑顔を浮かべながら、こちら側へ駆け寄ってきていた。
年はエレナたちよりも五つほど年下の十歳。青い髪と青い目が特徴の少年だ。
「あらっ、ラトラスじゃないの~」
「あなた、こんなところでなにしているの?」
「昼御飯食べにきたに決まっているじゃん!」
エレナの質問に少々釈然としない表情を浮かべながら応える。
「仕事は?」
「今日は午前中だけだよ」
「そうなの」
「それよりもさ! あっちの席みてよ」
ラトラスは店の奥にある窓際の席を指差した。
なんだろうとそちらのほうへと視線をむけるとなにやら旅人らしき姿をした人物が二人、向かい合わせに座っている姿が見えた。
奥に座っているのは金髪の長い髪が特徴の中性的な顔立ちをした人物で年はエレナたちとさほど変わらない十代半ばといった感じだ。その向かい合わせに座っている人物の顔はエレナたちに背中をむける体制であるために見えないが、金髪の人物がどこか高貴漂う雰囲気があるのとは真逆にいかにも下町で育ったような雰囲気を漂わせる服装と無造作に切られたであろう茶色い後ろ髪が見受けられる。
「珍しい客よ」
カウンターの中にいたナリーがいう。
「珍しい客?」
エレナが尋ねる。
「珍しいわよ。ここの店に旅人が来るなんてめったなことではないわ」
たしかにそうかもしれない。
この街にはアメシスト王国以外にも外国からの旅人が立ち寄ることが多い。しかし、その大半は表通りの繁華街を観光するぐらいでそこをぬけた住宅街まで足を伸ばすものなどめったにいない。
表通りにもレストランがいくつもあるのだから、そちらのほうで食事を済ませることが多い。
要するにこの店は穴場中の穴場で地元の人でなければ知らないのだ。
それなのに旅人がやってきた。
「どこからきたのかしら?」
「それよりもあの金髪の人、結構イケメンじゃないの」
首をかしげるピスマユルの横でエレナが目をキラキラさせながら明るい口調で言う。
「えっ?」
それを聞いていたラトラスが顔を歪めた。
「話しかけてみようかしら」
そういうとエレナは意気揚々と旅人らしき人物のほうへと近づいていった。
「まてよ。エレナ」
ラトラスは慌てて止めようとしたのだが、エレナはすでに旅人たちに話しかけているところであった。
「あー」
ラトラスが情けない声を出しているとピスマユルとナリーが顔を見合わせながら肩をすくめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます