任務

ここには、二人の若きクライシスハンターがいる。


癖のある明るい茶色の髪とあどけなさを残す人懐っこそうなコバルトブルーの瞳。フェルド=ニートと呼ばれる少年はいつもお腹をすかせている。


「腹減った」とフェルドがぼやいている隣を困惑気味に歩くエドルフ=ファイはいかにも育ちのよさそうな端正な顔立ちと金髪の長い髪にスカイブルーの瞳をした少年である。


まだ十代半ばほどの見た目が真逆な印象を受かる二人の少年たちはこれでも立派な“クライシスハンター”と呼ばれる魔法騎士団の一員だ。


その組織は魔法大国であるアメシスト王国を中心に同盟国により結成され、本部はアメシスト王国首都クリスタルに存在している。


それを束ねているのは、アメシスト王国第一位王位継承権をもつ王子ティラシェイド=アーク=アメシストであり、この世界を危機から救った英雄のひとりとされている。


「二人ともよく来てくれたね」


クライシスハンター本部のある施設の執務室に呼び出されたフェルドたちは部屋に入るなり一瞬動きを止めてしまった。


いつもなら、フェルドたちの直属の上司であるアキナオ=シンゴウのはずだった。彼はおらず、クライシスハンターの総括であるティラシェイドの姿があったからだ。


「なんで? 王子さまがこんなとこにいるんですか?」


フェルドは気負いすることなく尋ねる。その態度にエドルフは顔色を変えて、一国の王子にしかも年上に何て態度をとるんだすか?といわんばかりにフェルドをみている。


そんなことお構い無く、フェルドはティラシェイドの金色の瞳を見つめた。


「相変わらず、君は遠慮がないなあ。俺は次期王さまだぞ」


「一応敬語使ってますよ。それに王子が王子らしくないのが悪いんですよ」


たしかにそうだ。立ち姿や服装においても自分達とさほど変わらぬ容姿をしている。


どうも王子としての威厳を感じないのだ。


ゆえに名乗らなければ、彼が王族であることさえも気づかないことが多く、普通に国民に溶け込んでいたりする。


そこにはそれなりに複雑な事情があるようだが、あいにくのところフェルドもエドルフも知るよしはない。


「それよりも団長はどこですか? オレたちは団長の呼び出されてきたんですけど」


「アキナオは急用だ。代わりに俺が君たちに任務をつげることになった」


そういいながら、右手にもっていた依頼書を高々と見せびらかすようにあげた。


「それでどんな任務ですか?」


「もちろん。君たちに向いている任務だ」


そういいながら、ティラシェイドはもっていた書類をフェルドに差し出す。。フェルドはそれを受けとるなりすぐにエドルフに渡した。


「ん?」


ティラシェイドは一瞬怪訝な顔をするが、なにかに気づいてポンと自分の手のひらを叩いた。


「そうだったな。フェルドは文字が読めないんだよな」


「少しは読めるようになったぞ。でも、こういうみっちり詰まった文章は頭いたくなる」


そういいながら、顔を歪めるフェルドを一瞥するとエドルフは書類に目を通す。


それをみて、頭いたいほどに詰まった文章とは思えなかった。


こんなもので頭いたくなるのかと内心エドルフは思いながらも依頼書を読みはじめる。


「フロンティアにてクライシスらしきものを確認。ただちにクライシスハンターの派遣を要請する。依頼主ミニル学園学長ヘレン=ミニル」


「学校?」


エドルフが読みあげる言葉を聞いていたフェルドは思わず振りかえる。


「ああ。どうやら、クライシスはミニル学園関係で確認されたらしい」


「へえ。そうなのか」


「ああ。そこで君たちには学園へ潜入してもらおうと思っている」


「潜入?」


「学園関係なら当然の任務ですね」


エドルフは書類に目を通しながらいう。


「学園かあ。そこって飯くえんの?」


「おいおい。君は飯食べられるかで判断するのか?」


「当然! 飯食わないと動けないじゃん!」



「学食があるみたいですよ。それだけじゃない。フロンティアといえば海の幸の宝庫ですからね。魚介類もおいしいらしいですよ」


「魚!? 食いてえ」


エドルフの言葉にフェルドは目を輝かせる。


「魚が好きなのか?」


「ああ! 肉も好きだけど魚も大好物だ!」


フェルドはよだれを垂らしながら目を輝かせる。


「よしっ! さっそく行こうぜ!」


突然張り切りだしあっという間に執務室を出ていく。


「フェルド! 待ってください」


エドルフはティラシェイドに一礼すると慌て フェルドを追いかけた。




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