第25話

完璧な室内で目が覚めたのは初めてで、はやり快適度が全く違った。

この世界に来てからは外で寝たり、ハンモックで寝たり、木の上で寝たりとサバイバル続きだったから。


昨日完成させたログハウスと木のベッドは新品ピカピカの仕上がりで、新鮮な香り漂う空間を提供してくれる。

木の窓を開け放っていたので、朝日もしっかりと差し込んで俺の目を快適に覚ましてくれた。


掛け布団が欲しいところだが、贅沢は言うまい。今は木材の香りだけでも十分ありがたい。


目が覚めるとかなりお腹が空いていた。

昨日で食料が尽きているので、今日からまた森の恵みを分けて貰わないとならぬ。


『植物魔法使いのレベルが上がりました。新しい魔法、植物合成を覚えました』


ほうほう。今朝も毒キノコ+くん、ご苦労様であります。

これでレベルは11。結構強くなったな。しかも新しい魔法まで覚えた。


試合する予定の親衛隊長はいかほどの強さなのだろうか。


相手の強さが分からないうちは、レベルを上げ続けるしかない。

うむ、目標は15以上で彼に挑もうと思う。

俺は受けのステータスが高いので、相手が格上でもなんとか身を守ることはできるだろう。


さてさて、益にならに事ばかりを考えてはいられない。

貴族のやつらとかどうでもいい、大事なのは肉だ!


朝の恒例となりつつある、もう一方のキノコにも期待だ。


8番の区画の更に南側に仕掛けた痺れキノコ+のもとへと走っていく。

区画の横に整備した通路を通るとき、8番と7番の様子を見た。


7番では既に寄生キノコがチョコッと顔を出し、小さく育ち始めている。

可愛い。


8番では簡単に用意した木の柵の中で黒羊ちゃんがすやすやと寝ていた。

いつもなら起きている時間だが、昨日の人化の疲れがたまっているのだろうか。

ゆっくりさせておこう。


久々の獲物はなんだろなー。

楽しみでスキップしながら痺れキノコ+ポイントへと向かう。


本日、プルプルしていたのは、カニっぽい魔物でした……!


「え、カニ……」

ヤシガニも陸上に生息するし……。

でもカニがキノコ食べるなよ、とか思っちゃった。


グロイのじゃなくてよかったと喜ぶべきか。

興味本心で触ってみると殻が固くなくて、ぷにぷにしている。

軽く触ると凹むくらいのもち肌だ。……食べやすそう。


ありがとう、恵み!

森に感謝。今日も新鮮なお肉が食べられそうです!


巨大なハサミにハマれないように気をつけながら、両手で頭の上に持ち上げながら拠点まで持ちかえった。

「ひょー、カニ鍋じゃー」


拠点に戻って、ログハウスから鍋、調理器具、塩コショウをとってくる。

飯は外で食べる派なので、ログハウスの外に急ぎ素材化した木材でテーブルを作った。


テーブルの上にカニを置いておき、俺は鍋に水をくむために川へと走る。

拠点から川は地味に距離がある。

水を毎回汲みに行くのはちょっと面倒である、と最近感じ始めていた。


水道をひければいいのだが、植物魔法で水道を整備するのは難しそうだ。

土地を削って川をここまで拡張するのも現実的ではない。


土って結構固いからね。


ただし、一つやれそうなことはある。

新しく覚えた魔法が使えそうだなと思った。


帝キノコ+を一つ持って、川へと向かう。


川についてまずやることは、風呂である。

汚れ切った体を数日ぶりに洗うと、汚れが落ちる、落ちる。透き通った美しい川の水が俺の周りだけ泥水のようだ!きったね!


頭も結構痒くなっていたので、しっかり洗った。俺の周りだけ水が下水のようだぜ!きったね!


シャンプーまでとは言わなくても、石鹸とか欲しい。

どうにかならないものか。


川から上がって、顔を勢いよく振って水を払う。

体の水はそのうち乾くので気にしない。


鍋にたっぷりと澄んだ水を汲んでいく。

俺が体を洗った部分より、もちろん上流で水を汲んだ。


尻とかも洗ってるからね。

水は止まることなく流れているとはいえ、下流じゃ汲めないよ。尻の穴とかも洗ってるからね。


鍋の中の水と、隣に帝キノコ+を並べて、俺は新しい魔法を使うことにした。

植物合成の魔法である。


失敗したら、失敗したでいい。

成功すれば俺のイメージしたものが出来上がるはずだ。


魔力を流して、魔法を行使していく。


植物合成――


『植物合成の結果、水キノコ+が出来ました』


「よしっ!」

拳を握って、笑みがこぼれた。

狙っていた通りの結果だ。


植物鑑定して、効果を確かめる。


『水キノコ+ 成長、素材化、品種改良、植物操作可能。魔力を流すと水を出す。

植物操作で胞子拡散が可能。飛ばしか胞子は雨粒となり降り注ぐ』


こちらも予想通り。

これで水キノコ+を増やしていけば、川に水を汲みに来る必要がなくなる。


木を簡単に加工できる今となっては、拠点にて五右衛門風呂みたいなことも可能だぞ!

この世界に来て、ずっと川の冷たい水で体を洗って来た。


お湯が恋しい!


さっそく今晩にでも試してみようと思う。

いずれは黒羊ちゃんの人型姿と一緒に入りたい……とか思ったりしていない。本当に。


水キノコを得たからには、もう川に来ることは減るかもしれない。

今後は魚釣りで使うくらいでしか来ることはないだろう。


いや、釣りは楽しいので、明日には来てしまいそうだ。

結局、川最強である。


鍋に水キノコ+を入れた状態で、拠点に戻った。


1,2,3番の区画を通る際、キノコたちの様子も見る。

どのキノコたちも凄い成長スピードである。

逞しい生命力に感激しながら、すぐにログハウスにたどり着いた。


「あっ」

「グアッ」


俺は魔物と目があった。テーブルの上に凛々しい姿で立つ魔物見つめあう。

お互いの時間が一瞬止まる。


今まで見た魔物とは威圧感が違った。


威圧感だけでいうと、ドラゴンとかに近いか。流石にそれと肩を並べる程ではないが、黒羊ちゃんよりはかなり強そうだ。


そこにはワシの頭と獅子の体を持った魔物がいた。

今まではなんちゃって魔物ばかり出現していたが、拠点に現れる魔物はなぜ毎回こうもしっかりした魔物なのだろうか。


こいつは俺の知る知識でいうところの、グリフィンではないだろうか。


翼も体も全て白いところが少し知識と違っているが、他は全て知識内のグリフィンと一致する。


神秘的であまりにも強そうな魔物。

そいつが俺に危害を加えようとはせず、翼を羽ばたかせて立ち去ろうとしていた。


もちろん、そのまま行かせるのがいい。

危険なことに敢えて手を出すのはよろしくない。


けどな、あいつ……口に俺のカニをくわえてやがる!!


俺の朝飯を!

返せよ!


たった一匹のカニなんだよ!……なんかこのノリやった気がするのでもういい。

完全に空に飛び立たれる前に、俺は痺れキノコ+を一本手に取った。


植物操作の魔法で胞子を飛ばして、白いグリフィンに吸わせてみるがびくりとも反応しない。

翼を羽ばたかせて、既に体が浮いている。逃げられる!?


今こそ進化のとき!


植物成長魔法で痺れキノコ+をぐいぐいと成長させた。

以前やった時とは違い、MPの消費は激しくない。

しかし、少ない消費量とは言えない。


「足りてくれ……」

俺は願った。

そして、願いは通じた。


『痺れキノコ++へと成長しました』


ときは来た。痺れキノコ++を植物操作して胞子を白いグリフィンにまとわりつかせる。

今度は反応があった。


体制を崩し、ふらふらと地上に舞い戻るグリフィン。

口に加えたカニも地面に落としていた。


しかし、完全に痺れさせることはできていない。

まだ四肢でしっかりと立ち、意識もはっきりとしていた。


この体の痺れの原因が俺にあるとわかったグリフィンが、こちらを睨む。凄まじい殺気が飛んできた。


こいつは明らかに格上だ。

手に持った痺れキノコ++をグリフィンの嘴めがけて投げつけた。


口元に届いたキノコを、グリフィンは獲物をパクリと食べるかのように反応し、飲み込んだ。

きたっ!狙い通り。


グリフィンがばたりと倒れた。

胞子じゃ仕留めきれなかったが、直接痺れキノコ++を食べさせれば動けないみたいだ。


目の前で倒れて痙攣するグリフィンを見下ろす。

美しい白い毛並みだ。

痺れて動けなくなった今も、その目つきは凛々しく美しい。俺とは違い、気高き生き物なのだろう。


……これは食べないでしょ。

食べる食べない判定は、珍しい食べない判定でした。


いかにも肉食っぽい魔物だ。肉食はうまくないと聞いたことがある。

それに。こいつは寄生キノコで味方にするべきだ。


「乗ってみたい」

こいつがいれば空を飛べそうだ。


痺れキノコ++を作った要領で、新しく寄生キノコ++を作った。

グリフィンに食べさせると、すぐに効果を発揮してヒョコッと頭からキノコが生える。


仲間になったからだろうか。痺れの効果が切れて、グリフィンが好意的な目で俺を見つめた。


頭を近づけてきて、頬擦りして懐いてくる。

片手を添えて、首を撫でてやった。


「おっおう……一緒にカニ鍋食べるか?」

「グワッ」

食べるみたいだ。かわいい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る