第3話
「おーさむっ」
少し冷えた朝方に目が覚めた。
ちょうど日が昇っている最中みたいで、森がわずかに明るい。
植物たちの上に朝露が乗って、どこかとても新鮮な気分だ。
空気が新鮮でうまい。鼻から大量に吸い込んで深呼吸してみた。とても気持ちがいい。
ただ、少し問題もある。俺の掛け布団代わりのスーツが少し湿っていた。
これは屋根も必要になってくるな。
壁と屋根、これが当面の目標かな。
『植物魔法使いのレベルが上がりました。ステータスが上昇しました』
朝の気持ちの良い空気の中、伸びをしていると頭の中に例の声が聞こえてきた。
一晩寝たらレベルがなぜか上がったんだが?
もしかしたら光合成で経験値が上がったのか?植物魔法使いだからか?
いーや、もっと合理的に説明できるものがある。
昨日偶然出来上がった毒キノコである。
危ないからと遠くに投げ捨てたのだが、あれをもしや魔物か何かが食べたのか?
『固有魔法の経験値がたまりました。スキル、キノコ毒殺を覚えました』
予想は正解だったみたいだ。
ていうか、やはり魔物いたのか。
そんな中寝ていたのか?
なんという危機感のなさ。俺は実は昨晩命の危機にあったのではないだろうか。
毒キノコが偶然出来上がったのは、今に思えば僥倖だった。
植物魔法使いとして使える魔法に、現状まともに戦えそうなものはない。毒キノコは立派な武器となりえる。
『
三織 大地(みおり だいち)
植物魔法使い lv1
HP 160(+11)
MP 97(9)
攻め 15(2)
受け 28(4)
素早さ 6(1)
魔力 41(5)
使用可能魔法
植物操作lv2
植物品種改良lv1
レシピ 毒キノコ
植物成長lv1
スキル
キノコ回復lv1
キノコ毒殺lv1』
ステータスの伸びも基準となるものがないので、これが良いのか悪いのかもわからないが、受けと魔力の伸びがいいのはありがたい。
身を守る術が少ないので怪我しにくくなるのは非常にメリットが大きい。
起き上がって、焚火の消し炭に近寄る。
まだ若干火が残っているようで、助かる。
湿った枯葉は使い物にならないので、朝露でぬれた下に隠れた枯葉や枯れ木を集めてきた。
こういうものもストックしておきたいな。
火をつけると随分と体が温まる。
あったかい森ではあるのだが、流石に朝方は冷える。
4つとっておいたマツタケの2つを焼いておいた。
じりじりと焼いていく。焼き方も随分とうまくなったものだ。
2つは別の活用方法があるので、今は手元に置いている。
焼きあがったものを食べると、一気にお腹が満たされて幸福感に包まれる。
それと同時に、先ほどまで感じていた寒気もなくなった。
スキル、キノコ回復が作用しているようだ。
食べ終わったら、さっそくやってみたかったことを試していく。
まずは栽培に適した場所探しだ。
キノコの繫殖に相応しい場所を見つけていく。
日の当たりづらい大木の根っこ付近で湿っている場所。
探しているとすぐに見つかった。
これだけの大森林だ。環境はいくらでもあった。
マツタケを一つ手に取り、植物操作を使いカサを盛大に震わせる。
キノコの胞子をこれでもかというくらいに、地面に振りかけた。
ここからが本番だ。
まだ試していなかった植物成長の魔法を使っていく。
先ほど胞子を落とした土に魔力を注いでいく。
使い方があっているのかはわからないが、今は試すのみである。
すぐに結果は出た。
にょきっ、と可愛らしいキノコのカサが見えた。
これは、思ったよりもだいぶ早い。
植物成長の魔法は他の2つと違ってかなり実用的な気がしてきた。
特に今食料が不足している状態では、最大限に活用できそうな可能性が出てきた。
そのまま魔力を注ぎ続けると、マツタケがみるみると大きくなっていく。
その成長はとどまるところを知らず、もとの大きさの2倍ほどの大きさまで成長した。
そこでようやく成長は止まり、その後魔力を注ぎ続けても成長することはなかった。
実験は成功である。
限界まで胞子を落としてもらったところから、新しく5本のマツタケが収穫できた。
しかもサイズは今までの倍である。
これは非常に大きな収穫だ。
これでまだ数日生きていられる。そう思うとグッと拳を握り笑みがこぼれた。
使えるマツタケはこれで7本に増える。
まだまだやりたいことはある。
植物品種改良、レシピ毒キノコを使用して毒キノコを三本制作する。
危ないものだが、護身用になると分かった今、積極的に作っていくべきだろう。
次に植物品種改良で新しいキノコの制作を試みた。
魔力を注いでいく。
『痺れキノコが出来ました』
この段階で分かったのだが、おそらく植物品種改良は現状ランダムで新しい品種が決まる。
しょうゆ味のキノコを願ったところで無駄であった。
レベルが上がると今後一体どういうことが出来るかは不明だが、現状は運に頼るしかないだろう。
出来上がったのは痺れキノコだ。
またも物騒なものが出来てしまった。
残るマツタケは3本。恐れずもう一本品種改良しておいた。
『火炎キノコが出来ました』
一見意味の分からないものができたが、これはもしや当たりなのではと思えた。
実際に使用してみないとわからないが、これから火をつけるときにも楽になりそうだし、もしかしたら直接的な武器になる可能性も秘めている。
品種改良はこれから余裕があればどんどんとやっていくべきだな。
2個残ったマツタケは胞子拡散からの植物成長コンボで更にマツタケを10本回収しておいた。
大事なローテーションだ。
おおっ、これで食糧問題が一気に片付いてしまったぞ。
栄養面や飽きの問題はあるが、生きていけることの安心がどれだけ助かるか。
朝からこんなことをしているとMPが既に残り三分の一となっていた。
まだやりたいことあるので、いったんセーブである。
森を探検していく。
昼頃になって暖かくなった頃に、川で水浴びをしておいた。
涼しくて気持ちいいし、喉も潤う。過熱して飲みたいのだが、まだ調理器具が揃わないのがなんとももどかしい。
ぬれた体は拠点に戻り、焚火にあたって乾かした。
服もだいぶ汚れてきたし、替えが欲しくなる。
拠点となっている場所から円形に散策を再開して、毒キノコを3つとも設置してきた。
毒キノコは護身用かつレベルアップのためのダブルの効果を期待してのものだ。
もう一つの痺れキノコは拠点の南側の近くに置いておく。何か獲物が取れればいいのだが、それは運任せだ。
設置を済ませた後、ハンモックがある場所まで戻ってきた。
拠点には現状焚火とハンモックしかない。
昨日はこの状態で寝てかなり寒かった。
レベルも上がったことだし、植物操作で辺りの木を操作してみる。
まだまだ動かしづらいのだが、やはり昨日よりはだいぶスムーズに動く。
若木の周りにある高い木の枝を、ハンモックの上であみあみに結びつかせて何列か並べて屋根とした。
昨日ではできなかった複雑な動きができた。
これも魔力が上がったおかげだろう。
これで朝露からは守られる。
次に壁の制作に入る。
屋根に使った木の枝はそのままで、他の木の枝に植物操作を行っていく。
枝を地面に向けてしならせ、綺麗に一本一本隙間がないように枝を並べて設置させていく。
木にはダメージを与えそうな行動だが、寒いんだ。致し方ない。
風を遮る壁として四方に同じような枝で作られた壁を作り上げた。
「こんなものだろう」
完成したものを見て満足した表情で俺は行った。
MPも尽きてきた。
今日はこの新しい寝床で寝るとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます