第2話
「はふっはふっ、うめっ」
アツアツのマツタケの2本目を齧りながら、おそらく俺のステータスと思われる画面を見ていた。
ネックスレスに触れながらこの画面を見たいと思うと、表示されることまで分かった。
いかにも異世界らしくてとても好きだ。
次に内容だ。
俺は植物魔法使いらしい。レベルは1だ。一番最初からスタートって訳ね。
ステータスの意味もある程度わかる。
攻めと受けの表記が気にはなるが、理解はできた。受けがちょっと高いのか……。
素早さは遅いが、植物魔法使いって言うくらいだし、自分が動けなくても問題はない気がする。
魔法使いとして肝心の魔力が高いし全然良いのではないだろうか。
比較基準がないので、ステータスに関しては自己満足しておくしかないのだが、使える魔法に関してはとても嬉しい限りだ。
日本にいたときは、常々田舎でスローライフを送りたいと思っていた。
しかし、技術も体力もなければ、将来への不安もあって半ばあきらめていた。
それがこうしてなんの因果か異世界に連れてこられて、魔法という力を与えられたのだ。
正直言って先行きは明るくないのだが、なんだかやる気だけは湧いてきた。
使える魔法は、植物操作、植物品種改良、植物成長か。
まだレベル1だが、どれも非力な自分にはありがたい。
一体どうやって使うのかはまだ分かっていない。
魔物が出てきたときに戦えそうな魔法がないのは少し気がかりな部分ではある。
スキルのキノコ回復は、俺がたった今マツタケを食べたから得たスキルみたいだ。
もしかしたらだけど、植物魔法に影響のある行動をとるとスキルを得られるのかもしれない。
魔物に襲われたら、現状使えそうな能力ではこの回復スキルが一番役に立ちそうな気がした。
「あと1個、大事にとっておくか」
3個焼いたマツタケがあと1個になってしまった。
マツタケ2個で結構お腹が膨れたのだが、これはもしかしたらスキルの回復効果のおかげかもしれない。
アツアツのうちに食べるのが一番うまいんだろうけど、貴重な回復アイテムであり、食料だ。先を見据えるなら確保しておくべきだろう。
水分をあまり通さない葉をあたりの木から見つけて、マツタケを包んだ。
スーツの右ポケットにしまう。
こんな大森林だというのに、俺はスーツ姿だ。
そりゃいきなり異世界転移したから文句は言えないが、あまりに場にふさわしくない格好だった。
ここは幸い寒くない。
スーツの上着を抜いで、シャツの裾をまくった。
これで少しは動きやすくなっただろうか。
上空を見上げると、大木たちの枝葉が広がり、空をところどころ隠している。
それでも日差しがちゃんとこの地上まで届くだけのスペースはある。空も青いのがしっかり確認できた。天気も良さそうだ。
今日の目標は、食料の確保と、寝床の確保だろうか。
やらないと命にかかわりそうなことなので、自然と体は動き出す。
いつ以来かな、こんなに精力的な気分になったのは。
マツタケ狩りが始まる。
いや、マツタケだけに限らず食べられそうなものはなんだって食べてやる!
しかし、気合とは裏腹に、俺が見つけたのはやはりマツタケだけだった。
まあ、あっただけいいんだけどね。
ほら、甘い果実とか欲しかったし。まあ、いいんだけどね……うまいし。
しかも食料調達の最中に川を見つけられたのはでかい。
喉が渇いていたので、川に頭ごと突っ込みがぶがぶと飲んだが、あれは良くなかった。
結果的にきれいな水で腹を下すことはなかったのだが、今後は過熱もしっかりしていこう。
となると調理器具や食器も必要になってくるな。
サバイバル生活は思ったよりも大変だ。
そうそう、俺の植物魔法について少しわかってきた。
使い方が分かっていなかったのだが、食料調達の途中で段々と判明した。
マツタケを採ったときだった。
マツタケに触れる前に、一瞬違和感を感じ、直に触ると更に違いが分かった。
マツタケに流れるオーラと、俺のオーラが呼応したのだ。
このオーラが魔力なんだと思った。実際魔力なのだろう。
そして植物操作の魔法を使ってみると、マツタケは思った通りに動いてくれた。
直に触れるとより顕著に動くが、手をかざすだけでもすいすいと横に震えたり、カサをぶるぶると振るわせたりした。
なんともかわいい光景だった。
この植物操作は花や小さな草にも使うことが出来た。
同じように手をかざすと、ふりふりと横に動いて楽し気な光景が見れたりする。
鼻が自分で踊りだすなんて、まるで童話の世界だ。
しかし、木のような大きなものは結構植物操作が難航した。
木の幹を動かそうにもピクリともしない。おそらくだけど、ここを動かすにはレベルが足りないのだと思う。
具体的には植物操作のレベルとステータスの魔力の数値を伸ばせば行けるんじゃないだろうか。
攻めのステータスを伸ばせば物理的に操作できそうだが、それでは植物魔法使いの名折れである。
木の操作は現状、枝を動かすくらいか。
素早く動かしたりはできない。ずずずっと、細い部分をしならせるくらいの動きだ。
いろいろやっていくうちに、一番操作性良いのが、マツタケだということに気づいた。
最初は大きさによって操作性が変わると思っていたが、どうやら他にも条件があるみたい。
もしかしたら食べたからなのだろうか?
他にもいろいろ条件がありそうだが、食べたことは理由の一つに思えた。
ネックレスに触れて一度ステータスを確認してみると、MPが残り25だった。もともとが88あったので、だいぶ消費した。
一回あたりの植物操作がどれほどのMPを消費するかはまだ分かっていないが、やはり木の枝を操作したときに一番大きくMPを持っていかれた感覚があった。
大木を思うがままに操り、たった1日にしてログハウスなんかを作ってやろうという妄想はすぐに消えた。
まさか枝を動かすのが精一杯とは……。
とりあえず食料は確保したので、こんどは寝床が欲しい。
若木の細い木の集まる場所を見つけて、植物操作を始めていく。
まだしなやかで細い枝同士を結び付かせて、若木2本の枝で簡単なハンモックを作ってみた。
枝では固いので、辺りから枯葉を集めて中に落とす。
若木の幹がまだ細く、中に入ると揺れるのがまたなんともハンモックらしくて良い。
うむ、今できる範囲内ではとてもいい寝床を確保したんじゃないだろうか。
MPを見ると残り10となっていた。
やりたいことがまだまだあるのに、体はだんだんと疲れてきていた。
先にやっておきたいのは、植物品種改良のほうだ。
新しく拾って来た松茸を地面の上に敷いた大きめの葉の上に乗せた。
昼間散策して5本だけ見つけた。これがしばらく俺の命をつなぐものとなる。
既に日は落ちかけている。
暗くなるとやりづらいから、少し急ぎ目に行動を起こした。
魔力でマツタケを包み込み、植物品種改良の魔法を使う。
詳しくはわからないが、おそらくなってほしい姿を想像すればいいのではないだろうか。
目を閉じながら、魔法の使用を続けていく。
品種改良、品種改良。
マツタケよ、醬油味になってくれ!!
なんて念じながら魔力を注いでいく。
昼に思ったことをそのまま実行してみた。
味があったらいったいどれほどうまかっただろうかと。
魔力を注ぎ続けること3分ほどして、マツタケが光はじめた。
来た!やはりやり方はあっていたみたいだ。
『毒キノコが出来ました』
脳内に声が響いた。
俺が醬油味のキノコを作ろうとして頑張ったのは、毒キノコになってしまった。
「……」
言葉が出ないとはこのことだ。
大事な食料が。
ステータスを見ると、MPが残り5になっていた。
今日はここまでかな。無念である。
昼に火を起こした場所でもう一度火を起こす。
葉に包みポケットにしまっていた加熱済みのマツタケを、もう一度焼いて食べた。
昼ほどの感動はなかったが、やはりうまい。体が回復していくのも感じる。おそらくMPが戻っている。
地面の上に敷いた葉の上を見る。
まだ手をつけていない新鮮なマツタケが4本。
一本毒キノコになってしまったものは、遠くに投げておいた。
あんな危ないもの近くにはおいておきたくない。間違って食べたら大事である。
マツタケたちは葉に包み、焚火の近くに保管しておいた。
焚火から歩いて10歩ほどのところにハンモックはある。
横になると、存外悪くない寝心地だ。疲労が大きいからそう感じているのかもしれない。
スーツの上着掛け布団代わりにする。悪くない気持ちだ。
ゆらゆら揺れる焚火を見ながら、うとうとし始める。
寝る前に一度ステータスを確認しておこう。
いじるスマホもない。今気になってみるものといえばステータスくらいなのだ。
『
三織 大地(みおり だいち)
植物魔法使い lv1
HP 149
MP 35/88
攻め 13
受け 24
素早さ 5
魔力 36
使用可能魔法
植物操作lv2
植物品種改良lv1
レシピ一覧 毒キノコ
植物成長lv1
スキル
キノコ回復lv1 』
あっ、植物操作のレベルが上がっていた。
そして、品種改良のレシピに毒キノコが追加されていた。
んー、きっと念じると簡単に毒キノコが再現できちゃうんだろうな。レシピって言うくらいだし。
ただし、再度作ることなどあるのだろうか?
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