転生したら世界初の植物魔法使いだったので、ひたすらキノコを育ててみた

なんかイイ感じになりたい

第1話

目が覚めると俺は大森林の真っ只中に立っていた。


先ほどまで会社の休憩時間に昼飯を食べていたんだけど……どうしてこうなった。


いまいち状況が飲み込めないのだが、確かな足元の感覚、圧倒的な緑の香り、風の流れる音で、これが現実だということが分かる。


しかし、見たことのない大木が並ぶ森だな。

上から日が入り込んでいて、森の中が明るいのがなんとも救いだ。


でないと、こんなところ怖くて1分1秒といたくない。


しばらく考えたけど、なぜこんなところに来たのかはわからない。

ただ、なんとなくここは異世界なんじゃないかと思った。


そこらにはえている植物も、10メートルを超す木も見たことのないものばかりだ。


未知の場所に来た恐怖はやはりあったけど、でもどこか解放された気分でもあった。

できればこういう大自然の中でゆっくりと暮らしてみたいと思ったことがある。


ただし、それは安全が確保されたうえでの話。


ここが本当に異世界だというのなら、身の危険性が出てくる。

魔物だっているかもしれないし、危ない人たちもいるだろう。

未知の生物なんて対処の仕方すらわからないぞ。


ぐー。


いろいろ考えていた時、お腹が鳴った。

そういえば、昼飯は食べかけだった。まだ半分以上残っていたな―と名残惜しんだ。


身の危険だけではない。この世界では俺はたった一人、考えてみれば人は食料を調達するのも本来はとても大変なのである。


現実に打ちのめされそうになるが、それでも腹は減っている。

ここは幸い緑豊かな土地だ。

なにか食べ物を探せば出てくるだろう。


そして期待通りに、それはすぐに見つかった。


「おや、これは」

地面の木陰にひっそりとはえているのは、あれはもしやマツタケではないか。

マツタケなんて元の世界でも滅多に食べたことがないぞ。


それをただで手に入れてしまうとは。

いや、まてよ。はたして本当にマツタケなのだろうか。


ぐー。感情とは裏腹に腹はなり続ける。


くっ、背に腹は代えられないか。

ここは安全の確保された世界なんかじゃないんだ。

もう自分で頑張って生きていくしかない。


ならば、このマツタケもしくはマツタケもどきを自分の体で食べて調べてみるのみ。


幸いアウトドアやキャンプは好きだから、火起こしには自信がある。

1からやると手間ではあるのだが、今後この世界で生きていくことを考えるなら最初くらい多少苦労しても仕方ない。


火おこしの道具や材料を集めて、風もしっかりと遮断する環境を整え、火をようやく起こしたのは2時間後だった。


最初の空腹から随分と時間が経ってしまったが、これでようやく食べられる。

お腹が空いたと思っても随分と動けるものだな。

現代人はいかに食べ過ぎていたかが分かる。そしてそのありがたみも今じゃ身に沁みに感じている。


木の棒にマツタケもどきをさして、火の回りに上手にあてながらじっくりと焼いた。

直火焼きだ。これで醤油でもあれば最高なんだが、当然そんなものはない。


じりじりと焼かれたマツタケもどきは水分をある程度飛ばし、焼き目をつけながらその香ばしさを放ってくる。


これは本物のマツタケだ。この香ばしさは間違いない。

そして俺が食べてきたもののなかでも、類を見ないほどの上物。


天然ものだしなー。こんな大森林の真ん中で育ったんだもの、栄養たっぷりなんだろうな。


熱々焼きあがった少し焦げ目のついたマツタケを、ふーふーしながら口に運んだ。

カサの部分からかじりつく。

「あつっあつっ」


はーと上を向きながら高熱となった水蒸気を逃がす。

口の中を少しやけどした。


けれど、これは……。

「うまい!」


マツタケの香ばしさが鼻を抜ける。ちょっと焦げたのもいい具合に香ばしさを引き立てている。お腹が空いていたのもあるのだろう、どこか甘味まで感じた。


触感もしっかりあって、今の空腹にはありがたい。

しっかりと咀嚼して、すべてを胃袋に収めた。


押し寄せてくる快感。思わずにやけてしまう。

まだ柄の部分もあるし、2本目3本目もある。全部食べるのが楽しみだ。


『固有魔法の経験値がたまりました。スキル、キノコ回復を得ました』


俺の脳内に声が聞こえた。

食べる動作が止まる。なんだ、今のは?


びっくりして視線が泳がせていると、俺の首にネックレスがかかっているのが見えた。

なんだこれ。こんなもの身に着けた覚えなんてないぞ。


ネックレスを手に取り、見てみた。

緑の宝石を古い木が覆ったデザインだった。本当に知らないものだ。いつからついていたのだろう。予想するなら、やはりこの世界に来た時だろうか。


ぶるっ。

一瞬ネックレスが震えた気がした。


すると、宝石がひかりだし、目の前に文字が浮かび上がった。


三織 大地(みおり だいち)

植物魔法使い lv1

HP 149

MP 88

攻め 13

受け 24

素早さ 5

魔力 36


使用可能魔法

植物操作lv1

植物品種改良lv1

植物成長lv1


スキル

キノコ回復lv1 』


この瞬間、この世界はやはり異世界なのだと確信した。

しかも剣と魔法の世界だ。

なんだか、わくわくしてきた。


そして、この世界を作った女神がいるのなら、そいつはBL好きなんだろうなとすぐにわかったのだった。


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