2022年8月28日 覚えられてなかった…
人には、何をしても目立つタイプの方と、あまり目立たず気配の薄い方がいると思うが、私は完全に後者の方だ。そんなだから、私は街中を歩いていても知り合いに気づかれることが少ない。もしもこの世の中に「世間の溶け込む選手権」があったら、けっこういい線いけるのではないかと思う。たまに街中で知り合いを見つけて、私から声をかけたときの反応は、たいてい「あれ~全然気づかなかった!!」である。
取引先にお邪魔する仕事が多いので、(いつでもさぼれるように)いくつか行きつけのカフェや飲食店があって、だいたいどこも5年以上通っているけれど、いまだに常連さん扱いをされたことは一度もない。突然「いつものください」って言っても100%「誰やあんた!」と思われるだろう。
気配が薄いことが幸いする場面はたくさんあって、自分のポジションが嫌いではないのだが、たまに「この人にだけは覚えておいてほしかった」という方に覚えてもらえない時は、ダメージを受ける。
先日、私は最寄りのデパートに行った。以前から素敵だなと思っていた洋服屋さんが期間限定でわが町のデパートにポップアップショップをオープンさせていたからだ。仕事合間だったけれど、時間も充分あったので、ちょいとのぞいてみようという軽い気持ちでそのお店を覗いてみた。
平日の昼過ぎということで、お客さんはまばらで、ゆっくり店内を見ることができた。その中で、とっても素敵なグリーンのシャツに目が留まった。生地が柔らかく、オリーブグリーンのような色味も気に入って、私が手にとっていると、お店の方が話かけてくださった。
「うちのブランドは初めてですか?」
「はい、以前から気になっていたので来ました」
というところから会話がスタートした。
声をかけてくれたお姉さん(といっても私より10歳くらいはお若いであろう)は、小柄で顔が小さくて、びっくりするぐらい色白さんだった。そこから、生地の織り方やこだわっている点などを優しくふわふわしたお声で教えて下さった。そして、私がたまたま持っていたハンカチを指さして
「あっ、もしかしてアーミーさんですか?」と言ってくださった。
*ここでいうアーミーとは、BTSのファン名のことです。良ければ以前書いた「推し活変遷」を読んでくださいな。
この時、私は我が推しであるBTSが作ったlineキャラのハンカチで、汗をぬぐっておりそれに反応してくださったのである。
(私)「はい、そうです!!ってことはお姉さんもですか?」
ってな具合で、同じ推し活仲間に出会えたのだ。
そこから、BTSの話もしつつ、お姉さんとはどんどん打ち解けていき、最終的には
・出張で来ており、お住まいは関東の方だということ
・熱心なアーミーであるということ
・1週間くらいはこの町に滞在するので、おいしいパン屋を教えてほしい
というような話題で盛り上がった。
その時点で20分近くお店に滞在しており、「ええ加減買えよ」という気もしたので、シャツを購入しようかと思ったのだが、そのシャツの値段がまさかの2万円越えだった。それぞれ価値観があると思うが、私にとってシャツ1枚に2万円以上はなかなか出せぬ値段である。さらに、少し色味の違うカーキのようなシャツも出して来てくださり、どっちにしようか迷ってしまい、いったん持ち帰ることにした。
お姉さんは「あと1週間はお店やってますので、また絶対きてください~お話しましょう!!」と言ってくださり、後ろ髪をひかれる思いでお店を後にした。
その後は仕事だったので、取引先で打合せをしつつ、頭の中はそのシャツのことで一杯!!打合せが終わったのが夕方17:00。この時私はすでにあの最初にみたオリーブグリーンのシャツを買う決心をしていた。正直に言うと、シャツそのものが欲しかったのはもちろんなのだか、あのお姉さんにまた会いたいという思いもあったのは確かだ。
ルンルンな気持ちでデパートを再訪してお店へ急いだ。後から考えたらめちゃくちゃ恥ずかしいのだか、お店に行った時に、件のおねえさんは別のお客さんを接客中であり、私は気を利かせるつもりで、他のお店で時間をつぶしたりした。(恥)
そしてお客さんが途絶えたところを見計らってお店に入った。お姉さんが声をかけてくださるのをちょっと待ってみたけど、一向にお姉さんからお声がかからないので、私は先ほどのオリーブグリーンのシャツをもってお姉さんのところに行き、
「やっぱりこの色にします。」と笑顔満載で言った。
お姉さんからかえってきたのは、
「ありがとうございます。うちのブランドは初めてですか?」
であった。
―—あれれれれれ?!
そしてお姉さんは、先ほど聞いたはずの<生地の織り方>や<こだわりポイント>を滑らかに教えてくれる。
――どうやらというか、確実にこのお姉さんは私のことは覚えていないようだ。
私は迷った。「先ほど来た者です!アーミー仲間の!」と言うべきか、それとも初めて来たお客さんを演じるべきか。私がもじもじしているうちに、お姉さんはあっという間にシャツをきれいに畳んでくれ、支払い方法を聞かれた。
「カッ!カードで支払います…」と言いつつ決断した。ここは初来店のお客さんを演じようと。ここから話をほじくり返したところで、お姉さんも私も気まずいだろうし、そもそも私と話した内容もどこまで覚えていらっしゃるかわからんし、シャツが素晴らしい工程を経てできているということは、1000%理解できたし…。
お姉さんはとってもかわいらしい笑顔で
「来週まではお店やってますので、また来てくださいね~お待ちしてます!!」と言われ、私はひきつる笑顔でお店を後にした。
その日は、ノベルティとしてもらったペットボトルのおしゃれなお水の重みをずっしり感じながら帰った。
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