2022年7月26日 最悪で最高な旅行 後編

 *前編からの続きです。


 占い師から集中砲火を浴びた友人Cはすっかり落ち込んでしまい、その占いを予約した友人Bも「私のせいだ、もっと調べてから行けばよかった。ごめんね」と涙を流し、私はただどうしてよいかわからずオロオロしながら宿に帰った。

 

 宿に戻ると、休んでいたAも体調が回復してきたようで、「温泉につかって嫌なことを忘れよう!」という話になり、温泉につかって、夜のごちそうも堪能した。(旅らしいことをした唯一のシーン!)

 友人Aは、胃腸が最悪な状態なので、宿の方が「おかゆにしましょうか?」と言ってくださったのだが、意地でも食べたかったようで、普通の食事を食べていた。


 いつもなら、お酒もしこたま飲む私たちだが、その日はなんとなく飲まなかった。飲んでしまえば、先ほどの占いの話をせずにはいられなくなり、なんだが後味が悪くなってしまうから。そしてもう一つは友人Aの体調が夜中に悪化するんじゃないかという心配から。誰も口には出さないが、こういう時はお互いの気持ちが透けて見える。


 こうして私たちは小学生のように夜10:00には布団に入り、就寝した。予想通り、夜中にAの体調は悪化してトイレと布団を行き来していたけれど、「病院に行くほどではない」と言い張るので、B、C、私の3人で順番に介抱した。どうでもいい話だけど、私は一晩で3回も金縛りにあった。占いを馬鹿にしたからであろうか。



 翌朝、外は雪が降っていた。普段あまり雪が降らない地域に住んでいた私たちは、それがとてもうれしくて、朝風呂に入りながら雪を眺め、朝食を平らげながら雪を見てはきゃあきゃあ言っていた。昨晩胃腸が荒れ狂っていたAもようやく落ち着いてきたようだ。


 いよいよ今日は4人そろって湯布院観光である。どこにいこう、どこでお土産を買おうなどと話をしながら、チェックアウトへ。そこで宿の方から衝撃の一言を言われる。「お客様、現在大雪で九州地方は高速が通行止めになっています。中国地方へお帰りの場合は、早めにお帰りの方がよろしいですよ」と。


 雪の加減がわからないもんだから、ただはしゃいでいたけれど、その日九州から中国地方にかけて降った雪は記録的な大雪だった。観光するところもすべて臨時休業になっていることがわかり、私たちは何も観光することなく、名物を食べることもなく、一般道で帰ることになった。


 宿を出発したのが朝10:00ごろ。ナビゲーション登録をしたところ、22:00頃には我が家へ帰れるということだったが、出発直後から渋滞が始まり、昼になってもまだ湯布院にいる。おかしい、どう考えてもこれでは今日中に帰れない。そこで友人Bが気づくのだ。(ナビゲーションを指しながら)「これ…今日の22:00じゃないよ。明日の朝10:00の到着ってことだよ」と…。


 4人全員の顔色が変わった。


 今日は12月31日なのだ。それぞれ実家にも帰らなくてはならないし、レンタカーも返さなくてはならぬ。しかし高速は止まっているし、車はレンタカーだから置いていくわけにもいかない。とにかく車で進むしかないのだ。打開策は…ない。全員が何とも言えない苦い顔をしながら、とりあえず落ち着こうとコンビニ休憩へ。


 今思えば、偶然にもこのコンビニにたどり着いたのが良かったのだが、ここで友人Bがすばらしいコミュニケーション能力を発揮したのである。コンビニで駐車していた関西ナンバーのトラックのおじさんに、Bはしゃべりかけた。この先関西へ行くのか?だとしたらどうやって行くのか?この一般道を行くしか方法はないのか?と。

 するとおじさんは言った。「大分から山口までフェリーがあるから、それに乗る。これ以上風が強くなったらおそらく欠航だろうから急いだほうがいいよ。」と。そして本当にあっという間に出発してしまった。

 

 これこそ神の声!!我々もすぐにケータイで調べたら、確かにあった。大分竹田津港から山口徳山港行き。通常なら2時間程度でいけるらしい。もちろん大雪や風で欠航する可能性もあるけれど、とにかくこのフェリーへかけてみようと4人の意見は一致した。どうにか夕方に竹田津港に到着して、無事にフェリーに乗れた。自宅へ帰れる道が開けたことに、ほっとして私たちは半分泣きながら笑いあった。


 しかし私たちにはまだ、船酔いという試練が残っていた。乗船して5秒で4人全員が船酔いスタート。そりゃそうだ、欠航になる寸前のフェリーなんだから揺れまくった地獄の2時間。前日から吐き続けている友人Aは、なぜか達観した表情で「フェリーの天井のシミを見ていたら落ち着く」といい始め、本気でやばいと思った。

 

 徳山港に到着した時は、喜びよりも疲れが勝っており、誰も口を開かなかった。そこからどうやって帰ったらあまり記憶がない。とにかく我々はもう少し東へ帰らねばならなかったので、私が運転してそれぞれの自宅へ送り届けた。結局レンタカーはすでに営業時間が終わっていて、延滞料金を払ったっけ。


 観光することもなく、お土産もなく、訓練のような旅行になってしまったけれど、4人の絆な深まった。それぞれの良いところを改めて感じることができたし、こんなに濃ゆい思い出が作れたことは奇跡だ。


 ちなみに、占い師にボロボロに言われた友人Cだが、その後、7つ年下のやさしい彼氏とゴールインして幸せな日々を送っている。彼が言うには、友人Cが化粧もせず、髪も振り乱して、仕事に邁進する姿に惚れたらしい。


 占いはあてにならない。





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