[連載中!!] ソラノキ ―Puppet of Cocoon― 異能と繭と双刀の人形。
手嶋柊。/nanigashira
1.soranoki
第1話 触れられない敵
緋色の人形が双剣を担い、そのひと振りが正面の透明な蜘蛛に直接触れる。
そのはずが、刀身はすり抜けるのだ。
小刻みに背部や関節近くのスラスターやホバー機構を用い、後退、そして再び前進した。
彼は進まなければならない。
「本当に、こちらからの物理接触は通らないんだな」
意識的に、握った刀身へ集中すれば、そこへ波動が収束する。
間合いに入ってきた、全長一メートル大の群れを、彼は信号のような無機質に、呪詛を吐く。
「『穿て』」
切っ先に波動が収縮し、正面から三体を圧倒する。
人形の肩先は斬撃の反動にぴくりと肩を揺らしたが、彼の呼吸についてきている。
だがそれは彼の目論んだほどの成果を出していない、というか、
『切原くん、誰が
死にたくなければ、あなた自身の異能を使いなさい。
あなたはそこに「立っている」だけで特別なの』
「特別なのは人形がでしょう、虫のいいことを言いますね!」
水瀬はスピーカー向こうの大人へ、そう吐き捨てた。
あの人は自分の言うことに逆らわず、それどころか熱心についてくるご子息をお持ちなのだ。
切原水瀬は、常に比較に晒される。一歩遅い、後手だと後ろ指をさされ続け、でもやらなければ、食い扶持に困るだけ。
最悪、死に至る危険を承知で、人形で異形に立ち向かう。
(やってしまった……)
金髪巨乳色白で時たま煙管をふかす、外見ばかりくせの強い研究者。
ビジュアルだけならどっかのギャルゲから無個性に飛び出してきたんじゃないかってぐらいだが、水瀬からすれば、それだけのひとだ。
水瀬だって愚痴りたいつもりなんてない、ただ人形の搭乗、作戦での実働は初めてで、時間の経過とともに、この作業がいつになったら終わるのか、気が遠くなりながら、神経がひりひりしていた。
一瞬謝ろうかと想うも、口ごもる。
……終わってからにしよう。
自分が言ったように、そう思ったのは本当だろう。
心にもない言葉、なんて時折言うが、愚鈍と恐怖、そして焦りのなかで出た言葉というやつは、どれだけ浅ましくとも、理屈とやさしさで固めたおためごかしな言葉より、一周回ってよほど誠実だと、水瀬は半分本気で思っていた。
そんな言葉を、自分が他人に投げかけられて、耐えられるかは別として。
制服のカッターシャツが、汗と湿気でよれよれになっている。
第二ボタンまで外して、乱雑に仰ぐ。
操縦桿を握りなおすが、これは武装に同期しての脱着や装填に発射、もしくはスラスターを軽くふかすなど補助動作用。
操縦、自律的な二足歩行は、レバーやペダルに依拠していない。
従来のパワードスーツと違うのは、補助脳と呼ばれる特殊な演算領域、これはパイロットと“同期”することで、一時的にその肉体を強化し、全長七メートルある人形との一体化を促す。
重力や平衡感覚にも耐性が備わり、理論上、補助脳との
耐性がつくのは「いいこと」には違いないだろうが、むろん、それだけの耐性を有さなければいられない
ある青年は言った。
「『人形だけでも、異能だけでも辿りつけない』……これがそうだと?」
水瀬はそんなことを思い出しながら、苦い顔を作る。
足元には白く透けた広大な楕円、直径四キロはあろう『繭』。
その下に、全長634メートルの電波塔がある。
人がその周辺直下に立って、肉眼で見上げることができないほどの高さのそれを、こんな形で見下ろすことになるなんて、変な気分としか言いようがない。
大体電波塔に繭なんて言うなら、赤い方の根元にへばりついて蛾みたいのが出てきてへし折れるまでがお約束ではないか? ……とは、またあの天才の妄言だ。なんでも昔の怪獣映画がそうらしい。
怪獣――そうさな巨大な蛾とやらの代わり、透明質な蜘蛛がうじゃうじゃと不気味に蠢き、繭の上に空いた漏斗状の穴からあふれているのが、いまこの世界。
全長40メートル大の某光の巨人の世界なら、群れに対峙することも少なければ、大抵はプロレスと超常的な光線技でなんとかしてくれるようだけど、お人よしの宇宙人がこの現実に飛んできてくれるではない。
だから水瀬のパワードスーツは、実体剣を握る。
また単に絨毯爆撃やらの火力で押し切れるなら、人形なんていらない。
「不定形、元来観測できない力場、触れられない敵――」
先ほどひさめは、『立っているだけで特別』と言った。
繭やそこから現れる抗体蜘蛛は、いわく「不定形」で、平時、物質としてそれに触れることはできない。
だが今、水瀬の乗る『
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