オーロラとレグルス(いっそ異世界転生の方がよかった)…暁の女神と孤独の王…

@ju-n-ko

プロローグ

第1話 ノストラダムスの申し子達

 人は、生まれたその時に運命が決まるという話をご存じだろうか?

 ……

 いや、占いでは無い。至極科学的な話だ。

 分かりやすい例えで、国が戦争をしている最中、食うや食わずの母親の胎内で育まれ、生を受けた子供がいたとする。

 その彼または彼女は、結構な確率で太りやすくなるという。

 母親の胎内で常に飢餓状態に置かれたわけだ。少ない栄養から効率よく大きくならねば生き残れない。通常より少ないカロリーで、他人より大きくなろうとする体の防衛本能が働くのだ。

 結果、よく言う『水を飲んでも太る』体質となる。

 この体内での経験がその後の人生に影響を及ぼすのは、なにも食べ物の話だけではない。胎児は母親を通して、生まれる前10か月の社会情勢を学んでいる。好景気真っただ中の生まれなら、将来に希望を持った人間になる確率が高く、不景気真っただ中閉塞感の中の生まれなら、厭世的になるかもしれない。

 あくまで一説、しかし、存外納得出来る説に思う。

 そして彼らは皆、1999年の夏以降生まれた。具体的には1999年の8月と、9月と、10月だ。

 1999年7の月、世界は滅びると言われていた。高名な預言者、ノストラダムスだ。テレビはこぞって特集したし、本気で信じる人も多々存在した。みんなどこか投げやりだった。未来を語りながら、一方でその未来を馬鹿にするような、奇妙な空気間の中育まれた青年達だ。

 2020年初頭、東京近郊の居酒屋にて、

 「カンパーイ‼」

 「祝成人‼」

 「おめでとーっ‼」

 生ビールがなみなみ入った大ジョッキを打ち合わせるのは、成人式を終えたばかり(当時は20歳成人だ)、8月生まれの中井中(ナカイアタル)と、9月生まれの名前だけなら女の子みたいな、しかしれっきとした男である小林小夜(コバヤシサヨ)、10月生まれの大木大樹(オオキタイジュ)だ。

 3人は小学校のクラスメイトで、誕生日の近さと韻を踏んだような変わった名前を共通点に、以後途切れることなく親交を続けてきた。

 「うめぇ‼」と、口元に泡をつけて笑う8月生まれの中は、高校を出てから気の向いた時だけアルバイトをして暮らしている、いわゆるニートだ。 

 親と一緒だから生きていける。この飲み会の軍資金も母親に無心してきた。チャラい金髪、背は高いが細身過ぎる20歳。

 「やっぱ冬でもビールだよな‼」と答えたのは、10月生まれの大樹。芸術系大学の写真科に在籍する1年生だ。

 子供のころから写真が好きで、絵画の才能もあった少年は青年になり、自信満々で受けた本命大学に拒否された。1年浪人ののちまた不合格、実は現役の時も受かっていた第2志望の現大学に通うこととなった。身長平均、体重平均、容姿も十人並みで、何もかも平均的な20歳。

 「まあ、店内あったかいからね」と、穏やかに笑ったのが9月生まれの小夜、体育系の大学に通う1年生。

 足の速かった彼は推薦で大学に行ったが、途中大きな怪我をする。リハビリやなんやで1年留年、普通に歩き走ることに問題はないが、第1線の選手としては戻れなかった。今は陸上部のマネージャーをしている。小さめの背だが引き締まった、無駄のない体つきだ。髪は短髪の20歳。

 彼らはみな、ノストラダムスを背負って生まれた。

 母親が信じていたかどうかではなく、終末預言に投げやりだった、社会の空気を感じた筈だ。

 しかも現実に生まれた世界は、もちろん記憶など残っていない乳児期の話ではあるが、ミレニアムに浮かれていた。

 2000年だ、2000年だと、根拠なく喜ぶ世界を…

 経済的には瀕死だった、停滞しつつも喜ぶ滑稽さを…

 感じ取っていた筈である。

 あと少しでコロナ騒ぎが勃発する。東京オリンピックは延期となる。

 2020年初頭の事だった。

 


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