東を向いて笑え

膝の骨より細い太ももをひけらかした少女が目の前を通り過ぎた。あの子はきっと長女ではないだろうな。耳障りな高い声で、隣を歩く男と親しげに話して、媚びる姿が板についている。涼しそうなだけのワンピースに、少し背伸びをして買ったアクセサリーを身につけ、日の沈んだ明るい繁華街に酒を飲みに来ただけの女とは、実にたいそうな違いである。


健やかな人間は内省を要しない。そして酒は飲んだ人間に内省の余地を与えない。だから酒に飲まれた私はとても健やかなのだと、ついさっき見た少女のことなど忘れて、声高々に宣言した。するとお向かいさんは、弛緩した喉の筋肉をうまく制御できずに息っぽい発声で、最後に海が見たいと呟いた。なんと脈絡のない、それでいて情緒あふるる言葉だろうか。お向かいさんもそのお向かいさんも火照った顔で二へラと笑って暗くなった繁華街を後にする。


昼に見る海と夜に行く海とはあまりに異質だ。でも今夜の海はどこまでも深く潜っていけそうな気がした。月の夜のバルコニーで踊ろう。普段から少し低い声が、更に低くなって鼓膜を内側から揺らす。身の丈に合わない装飾を外した私をエスコートするお向かいさんは、びしょ濡れの髪を見てまた二ヘラと笑った。互いの顔も見えない夜闇にマリンランプをひとつ燈して、ずっと笑っている彼を見つめる。ねぇ、どうしてずっと笑っているの?お向かいさんは、今度はイタズラっぽく笑ってみせた。


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短編集 @shawn-jkp

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