爪噛み唾飲む僕は犬

ココアが不思議そうに僕の足元で鼻をひくつかせている。

飼い主に似たこの愛くるしい小動物は、僕に撫でられることを頑なに拒む。尻尾を振るのも、ちょうど今みたいに飼い主がそばにいる時だけ。

きっと舐められているのだろうが、事実、僕はこの犬には敵わない。

もてなしに出された酸味が強すぎるコーヒーに口をつけながら、小さな茶色いそれを観察する。

それは、それと同じ色に塗られた飼い主の足の爪を舐め、念入りに匂いを確認し、納得したような、満足したような、あるいは10分でテストを解き終えた学生のような、そんな顔で僕を一瞥してきた。

冷えたコーヒーは、その酸味を深め、飲んだ唾が通る喉よりもずっと奥の底にまで染み込んで行く。

行き着く先は、右足の小指のさらに先。脱げぬ首輪が僕を縛る。

端から脱ぐ気など、毛ほどもないけれど。

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