何年前の話をしているのだ

Z「なるほど、モテるというのは事件なのか。作劇上に必要なのか。魅力的な人物が他人から興味をもたれるのは当然だけど、魅力に乏しい人間が他人から強い関心を寄せられるのは確かに事件ですね」

A「今、思いついたんすけど、なぜこいつがモテるの?は謎ですよね」

Z「その謎に答えは提示されるの」

A「されないんじゃないすか、ミステリじゃないから。するとされても、物語を進めながら徐々になんとなく主人公の魅力が読者に共有されていくとか、男の子を好きになった女の子たちから実はこんなことがあったからあなたのことが好きなんですと打ち明けられるとか、回想的に語られるとかじゃないすかね」

Z「あんたたちは何年前の話をしているんだよ、と笑われそう」



A「前回の続きですけど、もしかしたらなにもしてない、なにもない男の子だから共感を呼ぶのでは?」

Z「それはさみしいなぁ、なんだか」

A「そうですか。ないもないってことは優しさはあるってことですよね」

Z「うーん、わからん、補足を」

A「いやだって優しさって人として標準装備じゃないですか」

A「じゃあマーロウみたいになれますか、と問われたらどうします?」

Z「無理」

A「ですよね? でも、プロ野球選手にもなれない、アイドルにもなれない、ただの中高校生がただの男の子として生きることはできる。スポーツで活躍して一流アスリートになるというジャンルは今も存在するし、根強い人気はありますが、それって自分にはできない話を楽しんでいるわけですよね」

Z「でもサッカー漫画を読んでサッカー選手になってW杯に出ましたという人は結構いるでしょう」

A「努力なんて面倒だ、という普通の高校生がその何倍いると思っているんですか」

Z「否定とまではいかないけれど、積極的な努力を推奨しない感じが増えているのは気のせいですかね」

A「今から身も蓋もないことを言いますよ、覚悟して下さい」

Z「今じゃなきゃダメですか」

A「本格ミステリも探偵、つまり主人公に都合のいい展開を読者が楽しんでいる気がしますが。そこに関してなにかあります?」

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