青い空の中、僕はただ一つの雲になって漂っていた。

 ぼんやりと、何も考えることなく緩やかに流れる。

 上に、下に、時には左右に揺れ『ム』を味わっている。


 そのムが良いことなのかは、正直問われても分からない。

 何せ、ムは意識して捉えられるものでもないからだ。


 ただ、僕はこのムを気に入っている。

 どうしてかは、はっきりとは分からないけど、好きに理由はいらないというのはこういうことだったりするのかもしれない。


 ムは、どこにだってある。

 授業を受けている間だって、家にいる時だって。

 それこそ、こうして雲になっている時でさえもムは顔を出してくれる。


 こちらから行ってはダメなんだ。

 ムをつかもうとしても、そう思ってしまった時点でムは遥か遠くへ逃げていってしまう。

 いつの間にか、腕の中に収まっているもの。それがムだ。


 どこにだって、誰にだって、人はみんなそれぞれのムを持って生きている。

 いくらムを忘れ去ろうとしても、少し離れたところで静かに見守っている。

 それがムなのだから。


 ムのない生活は、僕にとってどうも忙しい。

 幸せがあったり、災難があったり。歓喜があったり、苦悩があったり。

 悪くはないが、ずっとこれでは疲れてしまう。


 時には僅かな過去が今を大きく左右したり、時には運に全てをひっくり返されたりする。

 こんな振れ幅の激しい時間ばかりを過ごしていると、いつかは倒れ込んでしまう。


 そして僕がやっと見つけた唯一の逃げ場がムだった。

 ムは人を救うわけではない。慰めるわけでもない。ただ、僕に得体の知れない暖かいものを与えてくれるだけだ。


 その暖かい世界の中では、何も揺れず、動かない。ただ、漂うだけで良い。

 でも、それが僕にとって居心地が良かったりするのかもしれない。

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