紙山
「ああっ! もう!」
もう何度目になるだろう。
万年筆を放り投げ。私はくしゃくしゃに丸めた原稿用紙を、ゴミ箱に投げ捨てた。ゴミ箱から溢れた歪な紙の球体は床にポトリと落ちた。
あれから何年目になるだろか。
誰にも読まれることのない物語を作り始めてから、毎晩のようにペンを走らせている。
きっかけは、生まれた初めて出会った、あの紙芝居だった。
広場で行われていたその紙芝居に、私は心を惹かれていた。
紙芝居そのものを気に入った訳じゃない。
私は、そんな物語を描ける人に憧れたのだ。
服作りや物語なら、誰にだって描ける。
そんな無限に広がる可能性には、私は惹かれていった。
しかし、そんな私の気持ちは物語が完成に近づくにつれ変化していく。
描きたい、作りたいという気持ちから見て欲しい、評価して欲しいという自己承認欲に姿形が変わっていく。
べつにそれを悲観しているわけではない。むしろ、そういうことに私は成長を感じている。
しかし、もとはといえば自己満足で始めた創作活動だ。
誰かに読んでもらうために作る作品は、どうも私の肌には合わず。そしてそんな気持ちから作られた中途半端な作品は、誰の目にも触れることはなかった。
まあ、その辺は私が広告下手だからというのもあるだろうが。
以前、ある少女から何故誰にも相手にされていないのに執筆を続けられるのかと質問をされたことがある。
その答えは、未だに見つかっていない。
やめ時を見失ったからと言うべきなのか、執筆の達成感が欲しいからと言うべきなのか。
しかし、やめようとは思わない。
それに最近になってきっと、答えが見つかりつつあった。
私は筆を走らせている間の、この時間が好きなのだろう。
誰にも邪魔されず、拒まれることのないこの時間が。
「サァて、やったりますか!」
私はもう一度、万年筆を持ち、世界を染め上げていく。
この瞬間、私は自由になれた気がしていた。
こうして私は、またしても紙の山を築き上げていく。
かつて出会った彼らから教わったことを、忘れないように。
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