送り人

 ここは朝のない、深夜の世界。

 俺はぼんやりと、暗闇の道路を眺めていた。

 頻繁に誰が来るようなところでもないし、来るにしてもボンクラどもばかりで、これといって何も面白いことはない。


 今日もつまらない仕事になる。

 そう思っていた時、道路の奥から足音が聞こえてきた。


 小さい影がゆっくりとこちらに歩いてくる。しばらくして、その影の正体があらわになっていった。

 まだ幼い男の子だ、こんな通行人は珍しい。


「おい、坊主。こんな時間に何の用だよ?」

「……」


 俺の耳には聞こえなかったが、何かを言っていた。

 その子が、わずかに口を動かしていたからだ。


「何だよ」

「……ううん、なんでもない」


 その男の子は、小さい笑みを浮かべて言う。

 それは、隠と陽が混じり合った、何とも中途半間なものだった。


「そうもいかねぇ。覚悟のねえ奴はここを通せねぇんだよ。訳を話しな」

「……」


 男の子は何も言わない。

 ただ真っ直ぐ前を見て、ゲートの先の真っ暗闇の先を見据えている。


「……そうかよ」


 俺はスイッチを押し、ゲートを開ける。

 男の子は、少し驚いた表情で俺を見上げた。


「いいの?」

「ここを通る事ができるのは、何かデケェ覚悟を決めた奴だけだ。だからいい」

「わかるの?」

「まあな」

「そっか」


 その男の子は、開いたゲートへと進む。

 そのまま突き進んでいくと、俺は勝手に思っていた。


「……」


 男の子は、ゲートを越える直前に立ち止まる。

 そこで初めて、俺はその子のはっきりと躊躇っている表情を見た。


「怖いか?」

「……ううん、いってきます」


 男の子は、再び足を進めていく。

 すぐに見えなくなってしまったその子に、俺は小さく、久しぶりに祈りの言葉を添えた。


「貴方の勇気に、幸運があらんことを」

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