ソリスト

チョコチーノ

布のオリ

 暗く、深い布の海。

 ここに陽の光は差し込まない。

 その全てを私は拒んだからだ。


 私の世界の全ては、この暖かくも冷たい海の底だ。

 何をするでもなく、何をしないでもなく、ただウゾウゾと這いまわっている。


(……)


 もう、長い間口を開いていない。

 最初から喉なんてなかったんじゃないかと思うほど、もう私の口からは声は吐き出されなくなっていた。


 そして、いつも同じことを考える。

 いつからだろうか。私がこの海に閉じこもるようになってしまったのは、と。

 いつの間にか、自然と私はこうなっていた。


 何をされたわけでもない。何をしでかしたわけでもない。

 キッカケと呼べるものも、特にないはずだ。

 でも、今の私は道端で死んでいる虫のように、こうして布団にくるまっている。


 電気を消して、カーテンを閉めて、鍵をかけて。

 そうして外の全てを遮断して。

 いつの間にか用意されている食事を、ただゆっくりと貪っているだけ。


 私はもともと、他人が苦手だったはずだ。

 何を考えているのかも分からず、何を思われているのかも分からず、ただただ気味の悪い違和感だけが募り続けていたのだろう。

 それが嫌で、私はいつの間にか閉じこもるようになったのかもしれない。

 今となってはもう、そんな記憶すらおぼろなのだ。


 あなたわたしが言いたいことはわかっている。そんなことは理解している。

 こんなものは、子供の駄々よりも醜い逃避行だ。

 あなたわたしは絶えず、こんなことを続けてちゃいけない、と声を荒げている。


 そんな声を私は無理やりに封じ込めて、心を殺してでも海に漂い続けている。

 私は、ただ漂っているだけ。

 漂っているだけだ。

 それだけなのに。


 どうしてこんなにも涙が出る?

 どうしてこんなにも胸が痛む?

 どうして、こんなにも呼吸が乱れる?


 解らない。

 いくら考えても、答えなんて浮かぶことはない。

 当然だ。何かを求めるには、この布の檻はあまりに狭い。


 解りたいと願うだけの傲慢な死体が、鍵を握り締めたまま、未だにその脆い呪縛から逃れられずにいる。

 

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