19 ソフィ -夢の世界-

 私は、ソフィ・エヴァレット。この『ドキラブフォーチュン』の世界のヒロインに転生した元日本人。

『ドキラブフォーチュン』は、乙女ゲー黎明期に出された作品で、何故かキャラクター達がバンドを組んでキャラソンしたり、ドラマCD等も出されていた。無駄に声優が豪華で、後に大御所になる人の新人時代の作品だ。

私はこの作品が大好きで、家族の目を盗んで夜な夜なゲーム機を稼働させてやっていたものだ。全キャラクリアは勿論のこと、アーネストルートは何度も何度もやり込んだ。


 この世界に転生した事がわかったのは、6歳の時。私が前世の記憶を活かして、『石鹸』『ヘチマ水』『イソフラボン乳液』を手作りしてたら、お父様がこれを王都の商会に売り出そうと言い出して、王都に家族全員で行った時だ。


アーネストルートでよく見たお城と、城下町デートで訪れた場所がそのままの形で目の前にあったのだ。そこで、お父様に王太子様の名前を聞いたら『アーネスト・ラザフェスト』という名前! えー! ゲームの登場人物が存在するんですけど!


 そこで自分自身がヒロインだと気づいたのだった。


 そこからは、学院に入ってアーネストに会った時のために『ヘアアイロン』や『ドライヤー』を開発した。

この世界は、魔法や魔道具の発達により色々と便利なんだけど、イマイチ現代には満たないっていうか……足りないものがあるのよね。

『ドライヤー』は存在してなくて、風魔法で乾かすか、大型の扇風機みたいのに当たるかぐらいだった。これじゃ、ヘアセットができない!


 最初に王都の商人に提供した『ヘチマ水』のヒットで、私のアイデアは原理がわからなくても商会の魔道具師達が何とか実現できる様頑張ってくれた。

もちろん『ドライヤー』は大ヒットで、うちの男爵家も裕福になり王都へ引っ越すことになった。


 ゲーム内では学院が始まる前に王都に引っ越してくるんだけど、ちょっと早まってもいいよね。住んでいた田舎より、王都の方が便利だし何よりお洒落も出来るし。


 お父様は、私の事を「金の卵だ!」と言って持て囃した。ゲームでは貧乏設定だったけど、お金はある方がいいし、前世の知識で楽出来るのって転生特権でしょ。

私も前世での知識を話せば、商人は喜ぶしお父様も喜んだ。結構お金は入って来たが、その度に使った。メイドを雇ったりドレスを買ったり……。お母様も生活が楽になって喜んでいた。


 だって、将来は王妃になるからお金の心配はいらないしね?



 そして、16歳の時にやっとゲームの舞台である『ラザフェスト王立学院』に入学することになった。多少、学力が足りなかったがお金の力で何とかなった。

感動の入学式は今でも鮮明に思い出せる。桜が舞い散る中、アーネストに初めに出会うのだ。桜の花びらを取ろうと、ジャンプした所を転んでアーネストに助け起こされる。


 初めて見たアーネストは、そりゃもう美しかった。日本ではお目にかかれないような美形。金がかった青い瞳が、不思議にキラキラとしていて「私、ゲームの世界に来たんだ!」って実感した。

 その後も次々と現れる攻略対象達は、カッコよくて素敵すぎた。リセット出来ない私は、逆ハールートで全スチルを実際に見る事を目指したのも無理のない話だと思う。


 学院に通い出してからは、忙しく攻略に明け暮れた。何度もやってるからイベントのタイミングはわかるし、どんな会話をすれば良いかもわかる。

実際その通りにしたらゲームと同じように、攻略対象達が簡単に心を開いていった。


 一つ違った事は、最初から同じクラスにいるサポートキャラが居なかったこと。

サポートキャラは、攻略の進行度を教えてくれる大事なキャラなんだけど……。

現実だと、進行度がわからないのかな?と思ったりしていた。


 アーネストの攻略も順調に進んでいた所、ジョゼ・ラーモアがうちのクラスに転校して来た。

ジョゼはサポートキャラで、かつヒロインの親友だ。私たちはすぐに仲良くなり、攻略対象がいない時は、いつも一緒に行動した。



 2学年に上がり、アーネストの夜会イベントが起こる年だ。

アーネストが私をエスコートして夜会に連れて行くと、アーネストの婚約者であるフレデリカが怒ってアーネストが庇ってくれるのだ。

そこから、フレデリカからの嫌がらせが始まり、学院内でもいじめられる展開だ。


 予定通り、アーネストからドレスを贈られ夜会にエスコートされる私。

初めての夜会は、本当に煌びやかでお姫様になったみたいだった。隣にいるアーネストもカッコ良くてすごく素敵で、まわりの視線も常に浴びていて自己顕示欲が満たされる。

しかし、夜会が始まってしばらく経っても、フレデリカが文句をつけにやって来ないのだ。


 周りを見渡すと、フレデリカらしい豊かな紫髪を結い上げて赤いドレスを身に纏った女性が壁際にいた。

アーネストにこっそりと聞くと

「あぁ……、アイツがフレデリカだ。関わらなくていい。嫌味な奴だからな」

凄く嫌そうな顔で教えられたのだった。


 もう既に、壊滅的に二人の仲は壊れてるのかな……?

それなら何も問題は無いけれど、イジメイベントは起きるんだろうかと少し不安になった。

だけど、アーネストからお酒を薦められて飲むと、そんな心配は吹き飛んだ。この世界は16からお酒が飲めて最高よね!


 私は、他の攻略対象に囲まれながらもキラキラと美しい世界を堪能したのだった――。



✳︎ ✳︎ ✳︎


 二学期が始まり、イジメイベントがちゃんと始まった。裏庭に呼び出されて叱られるのだ。だけど、呼び出した人物はフレデリカではなくメアリーだった。

ゲームでは、メアリーはフレデリカの取り巻きだったはず……。でも、イジメイベントが始まったことに安堵した。ちゃんとアーネストルートは攻略出来ていっている。


 メアリーに首謀者が変更したのは、フレデリカに命令されたからなのかな。ゲーム内でもフレデリカに命じられて動いていたし、きっとそう。

この世界のフレデリカは、自分で動かない人物なの? 

夜会でも何も言ってこなかったし、イジメもメアリーを寄越すし。それに学院で全くと言っていいほど見かけない。あんな目立つ容姿をしてるんだから、見かけたらすぐわかると思うのに。



 それからしばらくしてから、エミールが学院に来ることになった。

エミールは臨時の音楽教師としてやってくるのだ。文化祭で、私の歌を聴いて伴奏を弾いてくれることによって、ストーリーが進んでいく。

逆ハーとエミールルート攻略には文化祭での伴奏は欠かせない。


 エミールは、表向き柔和なキャラだけどストーリーが進んでいくと、結構グイグイ来るタイプなんだよね。結構強引というか、最終的には「僕だけのミューズにしたい」とか言って、有無をいわせず自分の隣の国にヒロインを連れて帰るんだよね。

そして、なんといってもエミールの声優さんが今では超有名な刑部さんのセクシーボイスなのだ。


あの声はリアルで聞いてみたい…っ!


ドキワクして待っていたのに、エミールが音楽の授業で紹介されるイベントが起こらなかった……。なんで?


 エミールを探して学院内でウロウロしてると、ヤンネ先生に連れられて歩いているのを見かけた。

まわりの女子生徒もキャーキャー騒いでる。ゲームの登場人物は美形だからね。私もそうだけど。遠目に見たエミールは背も高く、カッコよかった。ゲームだと背の高さとか実感出来ないけど、実際に見ると背高いのはかっこいいよね。攻略対象は全員高身長だけど。


イベントが無かったから、エミールとの出会いイベントを自分である起こさないと!と、詰めかけている女生徒達の輪の中に入った。グイグイ潜り込んでいると、運良く押し出されて上手く転べた。

このゲームは、よく転んで出会いが始まる。アーネストの時もそうだったし、サイモンやウィリアムの時もそうだった。


期待を込めてエミールを見つめると、ヤンネ先生に注意されてしまった。いつもこの先生は私に注意してくるから、ウザイったらない。

しかも、エミールが立ち上がるのに手を貸してくれそうになってたのに、ヤンネ先生に邪魔されたんだけど。本当にあり得ないんだけど!


 ……まぁ、でもこれで顔合わせはしたから、次のイベントよ!


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