20 ソフィ -ルート変更-

 エミールのイベントは、裏庭でヒロインが歌に感動したエミールが「一緒に文化祭のステージに出ましょう」と誘う所から始まる。そして、歌の練習をしながら仲を深めていくのだ。


エミールの音楽教師という設定は、後々発売されたキャラソンCDによく活用された。攻略対象キャラ達にギターやらベース等を教えて、バンドを組ませたりするので非常にご都合的な便利キャラだったのだ。

ちなみに、アーネストがギター兼ボーカル、ウィリアムがサブギター、ナサニエルがベース、サイモンがドラム、エミールがキーボード担当だった。


 放課後裏庭で歌って張っていると、そこにエミールが現れた。でもなぜか、そそくさと逃げようとするので強引に話を進めるしかない。


「ま、待ってください、今の歌どうでした?」

「ええ……? あまり聞いてなかったもので、すみません。では、これで」


エミールは、私と目を合わせようとせずにさっさと帰りたそうにする。おかしい……。

ゲームだったら、『今の歌は貴女が……?』と感動して自分から文化祭の事を言ってくるはずなのに。


 話が進まないので、自分から伴奏が決まってない事を告げる。

「なぜ、私に伴奏を……?」

「え、だって、エミール先生は音楽の先生じゃないですか」

「は……? いえ、私は高等数学を教えていますが、誰かと間違えてるのでは?」


エミールが数学教師……?

どういうこと……!?


なんで、設定が変わったの。これじゃあイベントが起こせなくて攻略不可能になってしまうじゃない! 慌てて私はエミールにピアノはやってないかと確認する。


「は? いえ、幼い頃にやっていましたが、今はとても。頼むなら、受け持ちの先生に頼む方がいいですよ?」


ええ!? おかしい……! 文化祭イベントはどうしたらいいのよ……。エミールが音楽をやってない……? どこで狂ったのよ……。

文化祭イベントがこなせないと、逆ハーは達成出来ないじゃない……っ!

でも、この場所にエミールが現れたという事はイベントは発生してる……?


そんな事を考えてると気がついたら、エミールは目の前から居なくなっていた。



 次にイベントが発生するのが『音楽室』だ。エミールと一緒に歌の練習をする事で仲が深まっていく。その終わりには少しエッチなドキドキスチルがあるのだ。

音楽室で待っていると案の定、エミールが現れた。やっぱり、イベントは起こるのね。


少しでも親密度を上げたくて、喜んで抱きつくと引き剥がされてしまった。エミールは、結構ベタベタしてくるキャラなんだけどな……。

攻略対象は、全般的にボディタッチを多めに選ぶと好感度が上がりやすい。ナサニエルなんかは、ボディタッチを繰り返すだけで攻略出来る。ファンの間ではチョロメガネと呼ばれていた。


 エミールが、私の頭に虫が付いていると言ってきたので「イベントキタ!」と思って目を瞑って待っていると、ブチっと髪の毛を抜かれた。ナニコレ……凄く痛かったんだけど……。

イベントだと、虫を取った後に「消毒です」って、頭にキスしてくるハズなんだけどな……。


なんだろ……エミールの裏庭でのイベントが終わってないから、イベントがバグってるのかな?


 とりあえず、このイベントではピアノを弾いてもらって練習しなくちゃいけないから、無理矢理にでも楽譜を渡そうとしてると――。


「そこで何をしている……」

 不機嫌な声をしたアーネストがいた。なんでアーネストが登場するのっ!?

え、逆ハーでの嫉妬イベントはあるけど、エミールとのこのイベントでは起きなかったハズ……。

じろじろとエミールを睨みつけるアーネスト。嫉妬イベントは大好物だけど、今は困るんだってば!


 慌てて、アーネストに事情を説明すると、エミールがアーネストに「伴奏も生徒に頼むべき」とか言い出して、アーネストもそれに賛同しちゃってる……っ!

ヤバイヤバイ……このままだとエミール攻略できなくなっちゃうよ!


「ピアノなら俺も弾ける。俺ではダメか……?」


 アーネストが私の手を取り、少し悲しげな瞳でお願いしてくる。顔面偏差値が高いと……こうも破壊的……っ! 一瞬、グラっと来てしまった。でも、アーネストはピアノを弾けるんだろうか? キャラソンではギター担当だったけど。そのことを聞いてみる。


「そうだ。お前のために弾きたい……」

「アーネスト様……」


 ぎゅっと手を握って、その瞳で請われたら断れないでしょー! はぁぁぁ……たまらん……っ!! 鼻血でる!


「お話がまとまったようですね! 殿下の伴奏楽しみにしております!」


エミールはそのまま、音楽室から去り行ってしまった。え、エミールイベントが、アーネストに変更になっちゃった……? 逆ハーはここから不可能なのかな……?


 その後は、アーネストと毎日歌の練習をする。完璧にエミールイベントと同じことがアーネストで果たされてしまった。最後の練習で、楽譜を取ろうとして覆いかぶさり、事故チューをしてしまうというイベントもアーネストで起こった。


事故チューイベントも、アーネストから抱き締められたりして、すっごくドキドキしたんだけど、これって完全にエミールルートと、逆ハーは潰えたって事だよね?


 文化祭本番でも、アーネストと出場したからか優勝は逃した。その後はエミールに全く会えなくなったから、本格的に逆ハールートはダメになったっぽい。



✳︎ ✳︎ ✳︎



「はぁぁ……逆ハールートダメになったっぽいんだよねぇ……ヘコムわ」

親友のジョゼにそう漏らす。


「なんでダメになっちゃったの?」

「エミールルートがさ、アーネストに変わっちゃって……。その後も会えてないんだよね」

「えっと……アーネスト殿下じゃダメなの?」


 ジョゼは転生者じゃないみたいなんだけど、私が素で話しても付いて来てくれて話しやすい。サポートキャラだからかな。


「逆ハーが狙えなくなっちゃったからねー」

「アーネスト殿下でも良いんじゃない?」

ジョゼが、アーネストで行けと押してくる。これは、アーネストの好感度が一番高いからかな。逆ハーは出来なくなったのかも。


「元々、逆ハーでもアーネストと結婚して王妃になるしね。アーネストルートでも王妃になるのは変わらないから、アーネストルートでも良いかも」

「王妃になるの?」

「そうだよ?」


 ついついジョゼも展開を知ってると思って、話してしまったけど、ジョゼはサポートキャラなだけだから知らないもんね。


「フレデリカ様はどうなるの?」

「フレデリカは、アーネストルートだと夏のサマーパーティで断罪かな」

「断罪って?」

「私をイジメて階段から突き落とすんだけど、その事をアーネストに言うと怒って皆の前で婚約破棄するんだ」

「ええっ! その後はどうなるの?」

「えーっと、確か虐めをした事実と、それにローレンツ侯爵も悪事に関わっている事がわかって破滅するよ?」

「ローレンツ侯爵も?」

「だから、侯爵家が無くなるんじゃなかったかなぁ……エンディング前に、チョロっと書いてあっただけだったから詳しい事は忘れちゃった」

「えー、忘れちゃったの?」


 ジョゼが口を尖らせて残念がる。

「ごめんって。あまり重要な事じゃないし」

「知りたかったなぁー。でも、アーネスト様は正妃にしてくれるの? 聞いてみた事は?」


 そういえば、アーネストに聞いた事は無かった。普通に正妃になれるものだと思ってたから。


「え、正妃ってなれないの?」

「身分が男爵だと……言いにくいけど、側妃じゃないかなぁ……」

「側妃ってなに!? 他に正妃がいるってこと? フレデリカがいなくなっても?」

「だからさ! アーネスト様にお願いした方が良いよ。私を愛してるなら正妃にしてくれる? って」


 アーネストの親密度は、ジョゼがこう言うくらいだから、もう100までいってるんだろう。この間エミールの代わりにキスもしちゃったし。

今度それとなく言ってみようかな……エミールのイベントが変わってたから、アーネストのまで変わっちゃうことありそうだし!


「うん……そうだね。今度何かの機会に言ってみる。ジョゼありがとう」

「どういたしまして!」


 ジョゼがニカって笑うと同時に、ジョゼのネックレスも光った気がした。ジョゼって、あんなアクセサリーつけてたっけ?

ジョゼは化粧っ気が無い子だから少し珍しいと違和感を抱いたけど、その違和感はすぐジョゼの言葉によってかき消されたのだった。


「それより、今からパフェ食べに行こっ!」

「うん、行く行くー!」


 女の子の友達もいて、イケメンに囲まれて本当に幸せ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る