3 エミール -再会-
この国の研究室とは、魔法省の下に属する機関だ。主に魔法省で働く職員が研究しているが、フレデリカさんのように将来魔法省で働く予定がない者も勉強のため属していたりする。より専門知識を得るためだ。後は僕のように、他国から勉強をしにきた者も受け入れている。かなり審査が厳しいが。
平民から貴族まで能力があるものは受け入れているが、平民は少なく下位貴族が多い。
高位貴族は魔法省でも管理する機関に属することが多いので、研究室に入るのは稀だ。そんな中、高位貴族でしかも女性というフレデリカさんは相当珍しいだろう。
フレデリカさんに会うのは、6年ぶりだ。
フレデリカさんの近況は、こちらの国の友人から聞いていたが楽しみで仕方がない。
どんな風に成長しただろうか。とても綺麗になっているだろうなぁ……。
そして、僕に会ったら嬉しく思ってくれるだろうか。自国で蓄えた知識も早く教えてあげたい。おおよその話は伝わっているだろうけど、裏話や細かな話までは伝わっていないだろうから。
フレデリカさん、喜んでくれるといいなぁ……。
僕もあの当時から、外見が変わっただろうからすぐには分からないかもしれない。
でも、きっとあの時のことを話したら思い出してくれるに違いない。
あの時の約束を果たしに、僕はここまで来たよ……! と早く伝えたい。
待ちに待った研究室に入室の初日
ドキドキと胸の鼓動を高く鳴らしながら、顔に外行きの落ち着いた笑顔を貼り付けて、教授と共に研究室へと入る。
ガチャリ
研究室の扉が開く。
ぷぅんと研究室独特な香りが漂ってくる。
マナの媒介になる薬品や、工具類のオイルの匂いが入り混じった独特な香りだ。
既に研究室には、多くの人がいて各々デスクへ向かって研究に取り掛かっているようだった。
すぐにフレデリカさんを探したい気持ちでいっぱいだったが、努めて冷静に装う。
「あー、ちょっといいかな。紹介したい新たな研究員生がおるので、皆聞いとくれ。」
皆の視線が一気に僕に集中する。少し強張った顔で見られていた。同性からのこういう視線には慣れている。身分と外見で同性からは身構えられる事が多い。
研究室には、ほぼ男性しかいないようだ。皆白衣を着て、眼鏡をかけた身なりを気にしてなさそうな人が多い。
自国でも魔法力学、魔法工学等をやる人は同じような人が多いからどこでも一緒なのだろう。典型的な魔法オタクだ。
「ヴィーヘルト公国から留学に来た、エミール・フィッツジェラルド君じゃ。ヴィーヘルト公国では映像関係の研究をやっていたそうじゃ。皆仲良くな。」
「ご紹介に預かりました、エミール・フィッツジェラルドです。皆さんと勉強できる日を楽しみにしておりました、どうぞよろしくお願いします。」
そう言って外行きの笑顔を最大限に発揮して挨拶をする。研究室を見渡すと、後ろの方にフレデリカさんを発見した。
長い髪を一つに適当にくくって、簡素な白衣という出立ちだが、6年前に見た時よりスラリと背が伸びて、更に美しく成長していた。
感動で涙が溢れそうになったが、内頬を噛んでグッと我慢をする。
「あー、君のデスクはここを使っとくれ。研究室の諸々は、あー……ワシはこれから出なければイカンから、フレデリカ君教えてやってくれるかの?」
指名されたフレデリカさんは、少し戸惑いながらも了承してくれた。
グッジョブ! 教授! 早速フレデリカさんと接点を作ってくれるなんて! 貴方について行きます! と、心の中で教授を讃えていると
「初めまして、私はフレデリカ・ローレンツ。この研究室に来て2年になる。」
フレデリカさんはにこやかに笑って、手を差し出してきた。
「はじ…めまし…て?」
もしかして、忘れ去られている……? まぁ、成長して外見も変わったしわからないのだろうと自分に言い聞かせながら、あの時の説明を簡単にするが、フレデリカさんは思い当たらない様だ。
「んー……、私は人を覚えるのが苦手だから、忘れてしまったようだ。すまないな」
「イエ、ダイジョウブデス……。ヨロシクオネガイシマス……。」
僕はショックでパラパラと風化し飛ばされるようになりながら、笑顔のフレデリカさんと握手をしたのだった。
……フレデリカさんの手は柔らかかった。
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