第1章-3 出会い3
とりあえず、彼を抱き止めたまま、レナートへ電話をかける。
数コールのうちに電話が取られた。
『いきなり出て行ったかと思ったら、どうしたんだ?』
『お前の研究室から出て行った彼は何者だ?』
『オーガミ君か?』
『そうだと思う、アジア系の小柄な!彼は人狼か?!』
『いや、人狼だとは感じなかったが…彼がどうかしたのか!?』
『今、俺の目の前で倒れて…彼はオーガミというのか?』
『シロウ オーガミだ。再来月からうちの研究室に入る予定の子だよ。お前にもそのうち紹介しようと……何があった?』
『俺にもわからん。……ただ、彼は俺のメイトだと思う』
『なんだって!?』
『とりあえず、目が覚めるまで、責任を持って介抱するよ』
『わかった』
電話を切り、彼を抱き上げる。
(なんて軽いんだ。顔色が真っ青だ。とにかく、どこかで休ませなくては。)
シロウを抱きかかえたまま、その場を去った。
リアムは自宅に着くと客間のベッドにシロウを下ろし、服をくつろげさせた。
桜の香りの甘い匂いがいっそう部屋に立ち込める。
とてつもなく良い匂いだ。股間のものが痛いほどいきり勃つ。気を抜くと目も狼のものに変わり、牙がぬっと伸びてきた。
(クソ、どうなっている。メイトってのはこんなにも良い匂いがするものなのか。)
しかも、レナートは人狼では無いと言っていたがこれは微かだが人狼の匂いがする。訳がわからない。
このままここにいては、彼をどうにかしてしまいそうだと思い、リアムはとりあえず、シロウの急を要さない様子に安堵しつつ、部屋を後にした。
シロウは目を覚ますと薄暗い部屋のベッド寝ていることに気がついた。
どこだここは……頭が働かない。身体も動かない。熱のせいか熱くて全身が動かない。耳を澄ますと微かな音が聴こえた。
「あぁ…いい……もっと……」
「奥……奥にちょうだい……」
「あ、あああん…… あぁ、あ、あぁー」
甘ったるい女の喘ぎ声と肌のぶつかり合う音。
シロウは自分の耳に聴こえてくる痴態に全身がカッと熱くなった。微かな性の匂いも感じとり、全身がドクンと脈うつ。
訳がわからない。ここはどこだ?なんでこんなものが聴こえてくる?
身体を起こそうと試みたが、失敗に終わった。身体が熱い。何がなんだかわからない。
再び意識を手放し、シロウは深い眠りについた。
リアムは適当な相手を呼び、この昂りをおさめようと女を抱いていた。しかし、いくら出しても、股間のものはおさまることはなく、女を抱き潰しただけだった。
女を部屋から帰した後、シャワーを浴びて自身のそれを処理してから、シロウの様子を見に部屋に入る。
シロウは苦しそうに眉を寄せ、微かなうめきをあげながら、寝ていた。一向に目を覚ます気配が無く、心配になる。
もう、まる一日目を覚さない。
仕事は家で出来るが、近くにいると自分の欲望を狼をコントロール出来ない。だが、心配でシロウを一人部屋に残して、出かけることも出来なかった。
タオルで額や首筋の汗を拭ってやると一瞬だけ、表情が和らいだ。
なんて可憐なんだろうか。
会った時には人狼の匂いがしなかったのに、どんどん人狼の匂いも濃くなる。人狼の匂いが増すと同時にシロウのフェロモンもどんどん濃くなるようだった。
(医者に見せるべきか?いや、もう少し様子を見よう。)
そう思い、部屋を後にしようとした瞬間、一際大きなうめき声をあげた。
「うぅ、あーーーーーう」
気づくとベッド寝ている青年の身体が狼に変化していく。
「嘘……だろう……」
リアムは自分の目を疑った。シロウが目の前で狼に変化したのだ。それも、シロウの意思とは無関係に。
狼に変身し終わると、シロウはくぅーんと鳴きながら、また動かなくなった。
リアムはとりあえず、絡まっている洋服を脱がせてやる。
身長は3フィートほど、今まで出会った狼の誰よりも小型だ。白い毛並みは毛の先にむかって濃い灰色になっている。初めて見る種類の狼の姿だった。
なんて綺麗な毛並みだろう。目は何色なのだろうか。
狼の毛並みを優しく撫でてやると少し落ち着いたような寝息に変わった。
彼は人狼だったのだ。だが疑問が湧く。何故自分もレナートも彼を人だと思ったのだろうか。
「レナート、彼は人狼だよ。目の前で狼の姿に変身した。」
『なんだって?彼は目を覚したのか?』
「いや、まだ寝ている。寝たまま狼に変化したんだ。こんなことってあるか?」
「わからない。こちらでも調べてみるよ。」
リビングでレナートに電話をかけていると、叫び声がした。
「彼が起きたようだ。とりあえず切るから。」
そういうと彼の眠る部屋へと駆け込んだ。
「あ、あ……なんで?なんで裸なの?」
「人に戻ったのか。」
そう声をかけると、驚いた様子でこちらに顔を向ける。
淡い茶の瞳が不安げに揺れる。
「え、なに?どういうこと?」
「すまないが、英語で話してくれないか?」
混乱している…というか、母語で話しているのだろうと思い、リアムは優しく話しかけた。
「あなたは…何で?」
シロウは混乱する頭を振って英語で答える。
「自己紹介はしたが、覚えているかな?」
「ミスターギャラガー。これはどういうことですか?」
「大学校内で話していたら、急に君が倒れたものだから。君の家もわからないし、俺の部屋に運ばせてもらったよ。」
「それは……失礼しました。ありがとうございます。でも、家に帰して……」
ガタガタと震えながら、シーツを掴みベッドの端で蹲る。
「それは構わないが、もう少し具合が良くなってからでも……」
「嫌だ。家に帰りたい。」
「君は……人狼だったんだな。」
「?」
シロウの顔に疑問符が浮かぶ。
「人狼?」
「大丈夫、俺も人狼だ。心配するな。」
リアムは人狼であることがバレたく無くて、怯えているのだと思い、安心させようと自身も人狼であることを告げた。
「何を言っているのですか?人狼って?」
リアムは己の過ちに気づいた。
「君は…自分が人狼である自覚が…もしかして無いのか?」
「わかりません、どういうこと?」
不安でいっぱいの顔は青いを通り越して真っ白だ。少しでも落ち着かせようと思うがどうしたらいいものか。
どういうことはリアムにもわからない。だが、シロウは人狼が何かもわかっていないようだった。
人狼であることバレたく無くて怯えていると思っていたが……どうやらそうでは無いらしい。ここでリアムが狼に変身しても、いたずらにシロウを驚かせ、怯えさせることになることはわかっていたが、このまま帰したら危険だ。意図せずに人狼に変化してしまったら、それこそ彼はパニックのあまり人に戻れなくなるかもしれない。
「落ち着いてくれ、君に危害を加えるつもりはない。君がいま裸なのにも理由があるんだ。落ち着いて。そこで見ていてくれるか。」
そう言うとリアムはおもむろに服を脱ぎ出した。
「な!なにを?!?」
「いいから……」
服を脱ぐと、一瞬にして狼の姿に変身する。視界が白黒に変わり、視点が下がる。
彼をみると大きな目を驚きに見開いていた。
目が落ちそうだ。そんなことを思ってシロウを見ていると彼はそのまま後ろに倒れた。
また、意識を失ったようだ。
確定。彼は人狼を自覚していない。
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