第4話 独身の息子
前日夜更かしをしてしまったけど、次の日は会社だった。俺はいつも通りに身支度を済ませて、玄関で靴を履いた。昨日まで、そこにあった人形は跡形もなくなっている。俺はほっとした。
玄関の鏡でひとまず身支度を整えてドアを開けた。すると、ドアノブに何か引っかかっていた。
よく見ると、俺が捨てたはずの紙袋がそこにぶら下がっていた。俺はギョッとして周囲を見回した。すると、道路を掃いていたおばさんと目が合った。彼女は笑顔で近付いて来た。2軒隣に住んでいる、70代の上品な女性だ。
「おはようございます。江田さん、そのお人形がね・・・夜中ずっと『私の次男は江田聡史』って叫んでるから、かわいそうになってゴミ捨て場から持って来ちゃったの。お人形捨てたでしょ?」
「はい。すみません」
「きっと、お母さんか誰かが名前を覚えさせたんでしょうね」
「はい」
「こうして戻って来れたから、お人形も喜んでるわね」
俺は苦笑いした。まだ、7時台だから、このまま会社に持って行くふりをして、途中のゴミ捨て場に捨てて行こう。俺は笑顔でお礼を言った。
玄関の鍵を閉めて歩き出した。電池を抜かないといけなかったんだ。
俺が人形の服を脱がせて、背中にある人形の電池部分を開けてみた。すると、中には液漏れした電池が入っていた。
あれ、液漏れした電池って使えないんじゃないのかな・・・。
あれ・・・。どうして喋れるんだろう・・・?
俺はぞっとして、その紙袋を持って走った。そして、近所のコンビニのゴミ箱に捨てた。すると、中から、「聡史、捨てないで!」と言う叫び声が聞こえてきた気がした。俺は心の中で詫びながらその場を立ち去った。
***
俺が家に帰ると玄関のドアノブに、俺が捨てたはずの紙袋が下がっていた。紙袋はシワシワで汚れているのに、中の人形は無傷。俺は週末、絶対に人形供養に持って行こうと決めた。一先ず、袋から出して、玄関に置いた。
「聡史、帰ったらすぐウガイして、手を洗いなさい!」母が言った気がしたので、俺はすぐに洗面所に向かった。
「手は5分くらい時間をかけて洗わないとダメなの。石鹸をつけないと黴菌が増えるだけ!」
俺は母親が見ているかもしれないが、服を脱いで風呂場に入った。俺は自由になりたいのに、母はそれを許してくれない。
「ちゃんと×××××の皮剥いて洗わないとダメよ!」
何でそんなことまで言われなくちゃいけないんだ!
俺は切れてしまった。
「もう、いい加減にしてよ。煩いよ!」
俺は叫ぶと、人形を殺しに玄関に戻った。ハサミを持つと、夢中になってそいつを切り裂いた。人形は「助けて!やめて!痛い!」と叫んでした。俺は原型をとどめないほどボロボロに、そいつを細かく切り刻んだ。もう人形でなくなったそれには、芯に重たい機械が入っていた。人の形は恐怖を呼び起こすのに、機械に対しては何も感じなかった。
「聡史、早くお風呂に入りなさい」
母の声が聞こえて来た。
「はい」
俺は従うしかなかった。母は暇になって俺の所にやって来たんだ。人形は関係なかった。
喋る人形 連喜 @toushikibu
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