Chapter.5 肝試し編
あっ後輩くん、遅かったじゃん? 写真部夏休み合宿恒例行事、肝試しがもうすぐ始まるところだよ? あ、くじ引きの結果、キミのペアは何と……ボクです。よかったねー、あはは。
ん、なんかテンション低くないですかって? いやそりゃそうだよ、テンション低くなるに決まってるだろ! だって肝試しだよ!?
ボク、まーじで幽霊とか無理なんだよねえ……はあ、なんで肝試しが恒例行事なんだよ? もっと愉快なイベントを恒例行事にしろっての……
え、意外ですって? いや意外も何もないでしょ、幽霊が怖いことに理由とかいらなくね? 幽霊怖くないって奴は人間として大事な何かを失ってると思うよ、あーもうまじで怖い。サボろうかな……
ま、後輩くんと一緒なのはありがたいけどね。ほら、後輩くん無駄に背が高いから、壁にするのに最適でしょ? 幽霊に襲われかけたら盾になってもらう予定だからね、ふふ、よろしくね?
そうこう言ってるうちに来たよ、ボクたちの順番……あーやだやだ、ほんとに怖い、怖すぎ、気が重い……
ま、まあ何の変哲もない普通の森ですし? こんなところに幽霊とかいる訳ないですし? だから大丈夫ですしヒャウー! い、今なんかガサって言った! 向こう! ガサって!
ああ、なんだ、タヌキか。かわええー……ってタヌキ!? え、待って、めちゃめちゃレアじゃん! ちょ、ちょっと写真撮っとかなきゃ!
(シャッター音)
よーし、撮れた撮れた。最近のスマホカメラは暗いところにも対応してるから神だよね。いい写真が撮れたし、このまま引き返してスタート地点まで戻ろっか。
……嘘です嘘ですわかってますって、行けばいいんでしょ行けば。はあ……
やっぱ怖いなあ……こ、後輩くん、あのさ、嫌ならいいんだけどさ……手、繋いでくれない? 何というか、人肌に触れていないと気が滅入りそうで……
……ふふっ、ありがとう。というか後輩くん、手ー冷たいね? こんなに手が冷たいと何だか心配になっちゃうな。沢山栄養摂って沢山寝るんだよ?
ふふ、お節介かな。まあ別にいいでしょ、ボクはキミの先輩なんだから。たまには先輩ぶらせてよ、いつも迷惑かけてばっかだし。
あれっ、なんかボクしんみりしてね? あー、ほんとボクらしくないな、でもしょうがないな、こんな状況下で明るく振る舞う方が大変だもんな……
というか後輩くん、なんか面白い話してよ。無茶ぶりですね、って、まあ確かにそうだけど。でもいいじゃん、面白い話聞きたいなー、聞きたいなー!
え、今「布団が吹っ飛んだ」って言った? おおお、思わず背筋がぞわっとなるレベルで面白くなかったね! びっくりしちゃったよ!
っぷ、あはははは! いや、これは違くてさ、この状況下でその駄洒落をチョイスしちゃうキミのセンスのなさに笑ってんだよ?
……後輩くんってさ、いい奴だよね。いっつも傍若無人なボクに付き合ってくれるしさ。こんな質問にも応えようとしてくれるしさ、まあセンスは壊滅的になかったんだけど。
ねえ、後輩くんって……恋人、いたりしないよね? ……ああ、いないんだ。まあいなさそーだし予想通りだけどね、ふふっ。
え、ボク? ボクに恋人がいるかどうか?
……もしボクに恋人がいたら、後輩くんは、嫌?
あはは、固まらないでよ! 急にキミが動きを止めると困っちゃいますよ、手繋いでるんだから。
いないよ。恋人、いたことないよ。
意外でしょ? 何たって雪歌先輩は超絶美しいから、色んな男と恋愛してると思うでしょ? 残念ながらハズレです、ボクは恋人いない歴イコール年齢の派閥だよ?
実はちゃんと恋したこととかもないし、結構恋愛とは無縁な感じだったんだよね。だからあんまり、クラスの人たちのそういう話にはついていけないな。
今、好きな人がいるかって? さあ、どうだろうね? ナイショ。正直自分でもよくわかんないよ、ボク自身の気持ちなんて。
ヒャウッ! え、ちょっと待って、今なんか遠くの方で音しなかった? あーもうやだやだまじ怖い。怖すぎ。
というか待って、ボク今さ、キミに抱きついてない? いややっぱそうだよね、自分でも驚いてます。こりゃあ肝試しはドキドキのイベントとか、世の中のリア充がのたまう訳だな……
……後輩くん、もう少しだけぎゅってしてても、いい?
……ふふ、ありがと。というかキミ、全然脂肪ついてないよね? 正直痩せ気味じゃない? ちゃんと食べた方がいいぞー、超絶優しい雪歌先輩からの忠告だよ?
……後輩くんの身体、やっぱりちょっぴり、冷たいね。
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