部活の音。
あの日から前以上に彼女と会話する機会が増えた。
あの事がきっかけで彼女との距離がぐっと縮まったきがする。
それを認識するのに一番わかりやいのは、部活中に彼女が俺に話しかけてくれるようになったことだ。今までは一度も話しかけられたこともないうえに、会話を交わしたことも一度もない。
もともと同じ部活動に所属していながら、今までにほとんど会話や交流がなかったことのほうがおかしいんだ。種目が違うとはいえ。
だが、まあ、男子中学生と女子中学生なんてこんなもんだ。
そして、場面は放課後。
部活の時間だ。
「今日のメニューも特段変わったような内容はなしか」
うちの学校は、基本的に時間になったらその時いる全員でアップをして、その後、組まれたメニューをこなす。屋外で活動する時は大抵、アップが終われば種目ごとに分かれて練習を始める。だから、種目や近い種目同士ごとでの繋がりは強いが、それ以外とはそれほど繋がりは強くない。まず、一緒に行動を共にしない。
そうやってなんやかんややってアップが終わり、次の練習に移ろうと各々休憩を取ったり準備をして過ごしていた。
「どお?」
彼女が不意に俺に話しかけてきた。あの日からこういうのが多くなった。関わることが増えたのだ。
「どおって言われてもいつも通りかな。そっちは?」
「こっちも」
何気ない会話だ。
本当に2人でメニュー表を見て些細な会話をして、その後は2人とも種目に分かれて種目を共にする仲間と共にメニューをこなす。
『カーンコーンカーンコーン』
チャイムがなり、下校時間が訪れる。
下校時間になる前までには大体メニューは終わって、ダウンしている。
俺はダウン済ませ、挨拶前に片付けと帰り支度をしている。
それも終わって座って待っていると、横から女子の声が俺の耳元に入ってくる。
「おつかれ。今日も疲れたね」
もちろん、凛瑚だ。彼女しかいない。
「そっちの方こそおつかれ。ほんと、毎日くたくただよ」
「私もだよ〜」
こんな何気ない会話をしていた時だった。
『ぐぅぅ〜〜』
下校時刻が迫っているということあって、忙しない時間で音が絶えないが、それでも俺の耳にはっきりと聞こえた。
騒がしい音にかき消されることなく、俺の耳に『ぐぅぅ〜〜』って音は耳に入ってきた。
横目で彼女を見ると、お腹を抱えて頬を染めながらうずくまっている。
「聞こえてた?やっぱり聞こえてたよね?」
彼女はやはり恥ずかしかったのか、俺に目線を合わせずにそう言って聞いてきた。
新しいパターンに俺は遭遇してまた彼女のことを可愛いと思ってしまった。
「うん。余裕で聞こえた」
『カァァァ』
彼女は恥ずかしそうに顔を埋めている。
「今の凛瑚?」
彼女の後ろから突然女子の声が飛び込んできた。
話しかけてきたのは俺と彼女の同級生だ。言い方が他人行儀だから、いい改めさせてもらうと、部活の女子の同級生の仲間だ。
彼女の乱入により、ここで俺と彼女2人だけの空間はここで崩れた。
「う、うん…」
凛瑚は、俺以外の同級生にも聞かれていたことにさらに恥ずかしくなって言葉が聞き取れるか、どうかの音量で返事をした。
「部活終わりはお腹減るよね。私もお腹減ってるもん。あー早く家帰りたい」
特に気にする様子もなく、接している。
「そ、そうだよね。部活の後はお腹空くよねー。ご飯何かな〜」
「はやく部活終わってほしいけど、今のグラウンド整備の様子だとまだまだかかりそう」
「中々時間かかちゃうから仕方ないよ」
「でも、それだと凛瑚は我慢できないでしょ?さっきの様子だと」
「そ、そんなことないよっ!」
俺が会話に入る隙がない。まあ、同性同士の方が仲良くて当たり前だし、気兼ねなく話せるだろうし、仕方ない。
「二人はここで何してたの?」
ふと、俺にも話題を振ってくるこの同級生の女子。
面倒なことを。俺はこの場から去って、男子グループに混じって馬鹿話で盛り上がろあと思ってたのに。
「今日も疲れたねーって話してたんだよ、ねっ?」
彼女はそう答えながら、俺に肯定の意を求める。
「そうそう、ダウンも帰り支度も終わったし、やることないからここで二人で黄昏てただけ」
「あ、そうなの」
つまんなそうな反応しないでくれよ。顔見れば、つまんなそうな反応なのは分かるから。
「集合ぉぉぉー」
主将から、号令がかかり俺達は主将の元に駆け出した。
恐らく、部活の総括をして、最後顧問に挨拶して、終わる流れなのだろう。
そんなことを思いながら、俺は駆けていった。
この日もまた彼女は俺の前でお腹を空かして、空腹を主張するかのように腹音を鳴らした姿を見て、俺は可愛いかったなと思いながら一日を終えた。
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