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…だが、残念ながら敵は彼らだけではない。


『お前なんかより、犬の方がよほど役に立つ。ムダに綺麗な顔以外、無能なお前は犬以下だな!』


『ホントだよ。お前みたいな役立たず、産まれてこなきゃよかったんだ!』


器量のいい真響を嫌う両親は、なんの酌量もなく悪し様に真響を“出来損ない”と決めつけて常に邪険に接するだけではなく、嬉々として稚拙な暴言をぶつけては低俗な嫌がらせを繰り返した。

だが、家族にというよりも人間に幻滅している真響は、彼らに何をされても決して構うことなく、只菅ひたすらに無視を続けていた。

そして同時期、やっかんだ同僚(女)に陥れられ、確証のない罪を丁稚でっち上げられたせいで正規職を退職に追い込まれたので派遣社員として再起したのだが…派遣社員として稼いだ僅かな収入すら“存在料”といって毒家族に搾取され、満足な食料を購入させてもらえないがゆえに、真響はあっという間に成人女性の体重を下回って痩せ衰えていた。

今の彼女は、せいぜい35kgが関の山だ。


………どうしてだろう。どうして、私はこの家庭に産まれてしまったのだろうか。

そして、ここに居てはならないのならば…どこへ行けと言うのだろう。

決して世に悪事を働いた訳でもない。

ただ外部刺激に対する反応に疲れてしまっただけの人間の、何が恐ろしいというのだろうか。

他人も身内も、自分を大層気色悪がり、何かにつけ貶めた。

得体の知れない異物だと後ろ指をさされ、誰もに白眼視をされる。

……やはり、理解不能だ。

恐れを向ける、ベクトルの矮小さの方が理解できない。

人間総てが同じ顔、基準、思想、思考をしている方が遥かに恐ろしいと私は思うのに。

なのに、そんな道理すらも理解せずに周囲はただ相応そぐわない異物わたしを排斥するのに一生懸命だった。


いつから、この世界は腐敗したのだろう─────いや、そんな事はもうどうでもいい。

私はただ、存在理由を剥奪した“この世界”が憎いのだ。

拠る辺ない自分から、更に立つ場所すら奪おうというのだから、腹立たしくもなるだろう。

そもそもの意味がまったく以て解らない、だからこそ恐ろしくて憎ましいのだ。

この世界の凡てが憎くて、憎くて堪らない。

同時に、この世界の凡てが悲しくて仕方がない。


(どうして、周囲と異なる者には安全な居場所がないのだろう。異端には、悉く失墜の末路しか用意されていない。“普通”というのは、なんて傲慢なのだろう…)






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