【ガンナー】
まず目を引くのは、鮮やかなブロンド。
これを後頭部で一房(ひとふさ)に結い束ね、その身にはどうにも垢抜(あかぬ)けた装(よそお)いを凝(こ)らしている。
もとい、ある意味では、まったく鄙(ひな)びた衣装にも見える。
材質(もの)は本革(ほんがわ)か、質実なジャケットに、同じく飾り気のない短パンを合わせ、首には鮮やかな地色のスカーフを巻いている。
玲瓏(れいろう)な脚部は、じつにスラリとしており、無駄な贅肉(ぜいにく)は見て取れない。
なにも痩せぎすという訳(わけ)ではなく、年頃の娘としては、あくまで尋常か。
否(いや)さ。 あの筋肉や脂肪のつき方を鑑(かんが)みるに、常より食事は並み以上。 日毎(ひごと)の運動量も、それなりであることが窺(うかが)える。
「本当に置いてない?」
「あん? あぁ、もっぺん言ってみな?」
「ん。 454カスール」
「ねぇわ! 大体あんたなぁ」
その腰元に気を留めた葛葉は、わずかに目元を攣縮(れんしゅく)させた。
フリーダムアームズ社の回転式大型拳銃。
これが、ウェスタン調のホルスターに計二挺、左右に木訥(ぼくとつ)と配(あしら)われている。
まるで柳が撓垂(しなだ)れるような娘の華奢(きゃしゃ)な体格からすると、まったく趣(おもむき)が異なるものだから、言いようのない不安感というか、不審を覚えずには居られない。
「………………」
いや、それもまた色眼鏡(いろめがね)かと、人知れず息をつく。
固定的な観念でものを唱えるのは、まったくの無作法だ。
そう。 拳銃(チャカ)を持った金髪少女。
あの出(い)で立ちを見れば、まるで西部劇に出てくる保安官のような。
そう、まさにアメリカン。
「454カスール!! あるだけちょうだいって!」
「バカ言いなさんなよ。 あ! あれか? 口紅と勘違いしてるんじゃないかね? お前さん」
「はぁ!?」
大口径こそ至上と唱える精神もまた、まさにアメリカ。 アメリカンスピリットだ。
うん。 昼間から良い寸劇を見せてもらった。
しかし、どうにも気に掛かる。
仙力と第六感はまったくの別根(べつこん)であるが、こうした勘働きは葛葉の十八番(おはこ)である。
「だいたいねぇ、お嬢ちゃん。 ピストルは玩具(おもちゃ)じゃないんだよ?」
「………………」
いよいよ取るに足りない客と踏んだか、店主は横柄(おうへい)な身振りを交え、この娘を追い払いに掛かった。
勘(かん)がひそひそと告げる。
これは絶対、厄介な方向へ転がる。
あの店主も店主である。
世人(よひと)に余人(ひと)を見る目は求めないが、見た目で人を判断してはいけない。
この期(ご)に及んで、まだそんな事も分からないバカがいるのかと、眉根(まゆね)が刳(しゃく)れた。
「そんな体でぶっ放(ぱな)したら、天(うえ)まで吹っ飛んでっちまうぜ! ダハハハハハハハハ!!」と、店主が威勢よく大口を開けて笑い転げた。
──なかなかおもろいな、あのおっちゃん。
そう思った矢先、滑(すべ)るように銃把(じゅうは)をとった娘が、お手本のようなシングルアクションで発砲。
三つ四つに束ねた風船を、一挙に破裂させたような銃声が、活況する裏通りに差し水をくれた。
しんと静まり返る中、店主の掠(かす)れた笑声(しょうせい)が、まるで老猫(おいねこ)の爪研ぎに似せてコロコロと鳴った。
その背後、恐らくは的(まと)として設(もう)けていたであろうフライパンが、ざっくりと引き裂けていた。
中心からざっくばらんに引き千切れた模様は、まるでアルミホイルかと見紛(みまが)うばかりに頼りない。
「漏らした? 漏らしてないよね?」
「あい? ううん……。 はい……」
「よかった! ソーリー!」
あの芸当は、単に強装弾による恩恵のみで成し得たものではなかろう。
拳銃弾が物体に与えるダメージは、口径の差違によらずほぼ一律とは言わないが、数値的にはそれほど大差ないのが実情である。
ところが、相手がヒトや動物、生き物であればまた話は違ってくる。
狙い目によっては一撃で斃(たお)せるし、致命的な痛手を負わせることが可能だ。
彼女の芸当は、ちょうどそれに当たる。
武器商の店奥に設けられた、即席の射撃レンジ。
的(まと)のフライパンには幾つか孔(あな)が空いており、材がすっかりと疲弊(ひへい)していたことだろう。
この弱点箇所をすばやく見抜き、幾ばくかの火力がある強装弾を、そこに撃ち込む。
すると、ものの見事に的は裂け、ああした不体裁(ふていさい)をさらす事になる。
言うのは易(やす)いがなかなか。
いい眼を持っていないと、断じて適わぬ芸当だ。
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