とべないぼくら
長月けいそ
とべないぼくら
限りない青空に、白をぽつりと垂らす存在がいた。
彼女の名前はシロユキ。空を自由に飛んでは、友人の樹木たちから少しずつ実をもらって生きている。
毎日欠かすことなく「ありがとう」の一言と美しい笑顔を振り撒く彼女は、多くのモノから注目の視線を浴びている。
「なぁ、シロユキ」
いつも通りに食事をしているシロユキに、ヤドリギが話しかける。
「お前、俺のこと好きだよな?一緒に.....ないか?」
シロユキは「ごめんなさい」と一言。そして飛び去った。
次の日から、ヤドリギは言葉を交わしてはくれなかった。
何度このようなことがあっただろう。いつの間にかシロユキには、満足に話せる友がいなくなっていた。枝の上での食事が、憂鬱になるほどに。
そんな彼女らが過ごす草原に、ヒトが来るらしい。
ヤドリギの近くにはヒトの家が建ち、彼はひどく怯えていた。
ヒトは時々、ヤドリギの枝を切り落とすことがあった。
シロユキはそれを見て「可哀想」という言葉を、ただ頭に浮かべた。
ヒトの家の裏に、ぽつりと置かれたモノがあった。
彼の名前はヒクイダイ。ただヒトに使われ、何もすることなく地面のそばで生きている。
毎日ただ何かを考えては忘れ、時々名前も知らないヤツが枝を落とされるのを見上げているだけだった。
いつも通りに想像を広げていると、目の前に白い鳥が現れた。
彼女は「ここで食事をしてもいいですか」と丁寧に尋ねた。
ヒクイダイは「いいよ」と一言。乱雑なようで優しく、やわらかい声だった。
次の日も、また次の日も彼女は丁寧に尋ねては食事をし、「ありがとうございました」と一言、そして去っていく。
そんな状況に嫌気がさしたヒクイダイは「敬語なんか使わないでくれ」と強く頼んだ。
とある一日に、
「ヒトには感情ってのがあるらしいよ」と、ヒクイダイは急に話し出す。
白い鳥は「感情って何?」と問い返したが、「知らない」と。
「じゃあ、なんでヒトはヤドリギに酷いことをするのかは?」
「あれは木にとっていいことなんだ。決して悪いことじゃないよ」
たわいもない話をする日々が、気付けば数か月と過ぎていた。
白い鳥は、ヒクイダイの上で食事をするようになっていた。
ヒクイダイは、些細なことでも役に立てるのは嬉しく、ただ話を聞き続ける日々がたまらなく好きだった。
シロユキは、ヒトがいい生き物だと思った。なのに、あの小さな台にヒトが乗るたびに「ヒトなんていなくなればいいのに」と思った。
ヒクイダイは、今まで自分以外のモノを気に留めたことなどなかった。だから、「白い鳥のことをもっと知りたい」と思う自分を不思議に思った。
誰も二人の世界を知らぬまま、
互いの気持ちの正体に気が付かないまま、
気の遠くなる程の時が過ぎた。
二人がどうなったのかは まだ誰も知らない
とべないぼくら 長月けいそ @keiso
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