第4話

「T塚先輩。明日、夏のボーナス支給日なんですが、何かプレゼントしてほしいものってあります?」


「ん~~~?」


「いや、そんなにんまりとした顔をしないでください。日頃の感謝なだけですから。僕は何度も言ってますけど、低身長、低カップのT塚先輩にそういった感情は持っていません」


「な~~~んだ。残念。そろそろあたしも三十路だから、そこを心配してくれたT田くんがあたしを嫁にもらってくれるのかと期待しちゃったのに」


「T塚先輩こそ、僕で良いんですか? この前のプロジェクトの打ち上げって言っても、僕とT塚先輩の2人っきりだったのであれですが。その時、T塚先輩が酔った勢いで、自分の男の趣味を教えてくれたじゃないですか」


僕が先輩上司にそう言うと、あれ? そんなこと言ったっけかしらと呟いている。僕はハァァァ……と長いため息をつくしかない。僕は常日頃、先輩上司は自分の好みの女性ではないときっぱり言ってしまっている。しかしながら、それでも先輩上司は宗派を変えるなら、若いうちよ? と言ってくる。


どうせ死ぬなら、大きすぎるおっぱいに挟まれて、窒息死したいと思っている僕だ。しかしながら、そんな夢が叶いそうになったのは、この23年とプラスアルファの人生で残念ながら一度も無い。むしろ、酒に酔った先輩上司があたしのおっぱい見たいでしょ? としか言ってくれない人生だ。


何が楽しくて、夏服姿でも残念としか言いようのない先輩上司のおっぱいを見なければならないのかと思ってしまう。先輩上司はTシャツの上から白衣姿で、そのTシャツの襟元を右手で掴み、そこに空いた隙間に団扇で風を送り込んでいる。


正直言って、蒸れるほどのサイズなんて無いでしょ? と言ってやりたくなってしまう。


「今、あたしのことをやらしい眼で見たでしょ?」


「見てません。僕は先輩から渡される試験薬のレポートを書いてるんです。う~~~ん。今回の試験薬はどうだったかな……。毎回、逝きかけてるから、記憶が飛び飛びなんですよね」


「実際、T田くんはすごいわよ。ここ5~6年のラボメンの中では、T田くんの耐久力と生命力はずば抜けているわ」


「そう……なんですか? ちなみにどれくらいの頻度でラボメンの方が亡くなっているんです?」


「さすがに死んではいないわよ。いくら紅い傘日本支部でも、死者を出したら、日本政府に潰されてるわ」


先輩上司がとんでもないことを言っているが、これも一種の慣れなのだろうか? 僕はそいうものかとしか思えなくなっていた。ふとした時のこと、紅い傘の研究には日本政府も裏で繋がっていると先輩上司に聞かされていた。そんなまさかとは思ったが、入社2年目となった僕が紅い傘日本支部の地下室に案内された際、先輩上司の言っていることが間違っていないことに気づかされた。


その衝撃的な体験をした僕は、すでに壊れていたのかもしれない。


「で? 夏のボーナスであたしに何をプレゼントしてくれるの?」


「ベタに花束ってのはどうです? T塚先輩もそろそろ誕生日ですし」


「花束だけじゃいやかなぁ~~~。ベタに美しい夜景が見えるレストランもセットってのはどう?」


「んで、ベタに夜景を見ながら、T塚先輩の前に小さな箱を出してきて、ロマンチックなプロポーズの言葉を贈るんですね?」


「うん。期待してないけど、期待しておくね?」

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