第3話

「T塚先輩。この研究所ラボには研究員が増えないんですか?」


「T田くんは気付いてはいけない真実に気づいてしまったようね?」


「いや、T塚先輩に聞かなくても、それとなくわかっていますけど」


「なら良いじゃない。T田くんもこんな可愛い女先輩と研究所ラボで2人っきりのほうが良いでしょ?」


いや、僕は出るところが出ていて、ひっこむべきところが引っ込んでいる女性が好みである。この前の忘年会で店員から注意を受けたT塚先輩にはまったくもって、ときめきを覚えたことはない。


だが、T塚先輩には唯一といっても卑怯すぎる武器がある。僕に試験薬を飲ませる時に見せる、あの素晴らしすぎる笑顔であった。あれのみのご褒美しか無いというのに、僕はこの紅い傘日本支部に就職してから、かれこれ10回ほど軽く逝きかけている。


しかし、それでも今日こそ、僕はT塚先輩にはっきりと言わなければならないことがあった。試験薬の実験というならば、実験体も多く居た方が絶対に良いのだ。それをT塚先輩に力強く説いてみせる。


だが、自分が強く主張すればするほど、T塚先輩はどこか憂い顔になっていた。僕はそんな先輩がとてつもなく卑怯だと感じてしまう。


「だって、ヒトが増えるとT田くんの苦しむ顔を独占できなくなるじゃない……」


「ほんとキレイな顔をしてますけど、時々、思いっ切りぶん殴りたくなる発言をしますよね!?」


「だめよ、30前のおばさんにキレイだなんて言ったら。おばさん、本気にしちゃうわよ?」


「またそうやってからかうんですね。なら、いっそ、からかいついでに今度の試験薬に耐えたら、パンツを見せてあげるわ? って言ってくれたらどうなんです?」


僕はこの時、少々いらつきすぎていたのかもしれない。僕は先輩上司にとって、壊れにくいおもちゃとしか思われてないという考えがあったのだ。入社して1年も経ってないような自分が、この研究所ラボですぐさま活躍できるなど、思ってはいない。だが、せめて、ヒトとして扱ってほしかった。


「ん~~~。T田くんの言うことは確かに正しい気がするわね。いっつも死にかけているわりには、そこで踏ん張ってくれてるもの。でも、どっちにする?」


「どっちとはどっちです?」


「この試験薬を飲む前に、あたしのパンツを見るのと。それとも、試験薬を飲んで、見事に蘇生が成功した後にあたしのパンツをクンカクンカするの。どっちが良い?」


「ぐっ! 卑怯ですねっ! T塚先輩のおこちゃまパンツをあらかじめ見た後に、死への旅路にダイブするか、それとも、見知らぬ天井を見ながら、ベッドでT塚先輩の脱ぎたてほやほやのおこちゃまパンツを心行くまで嗅ぎまくるのか!? 究極の選択ですね!?」


「さあ~~~。どっちだ? 好きな方を選んでいいわよ?」


僕はこのロリババアがっ! と怒鳴りつけようとなってしまうのをどうにか抑え込む。僕は先輩上司の両手から試験管を2本奪い、グイっとそれを胃の中に放り込んだ。


「ぐあぁぁぁ!? 僕はただのバカなのかぁぁぁ!?」


「逝ってらっしゃい、T田くん。今度もヒトのままの姿で戻ってこれることを期待しておくわね?」

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