第2話

「ふ~~~ん。T京農業大学・農学部・応用生物科学科卒業。さらにはあのTー岡田教授も太鼓判を押すほどなのね。これは興味深いわ。是非、あたしの研究のモルモッ……とじゃなくて、あたしの研究の補佐になってもらうわ。上もやっとまともな部下をあたしのところに回してきたか」


俺は4月に入社し、それから6カ月の研修を経て、ようやく紅い傘日本支部のとある研究所ラボに配属が決定することになる。この会社は研修中にも、どんどん同期たちがその能力の片鱗を見せるや否や、その能力に見合う部署に配属されていった。


同期が研修施設からどんどんいなくなっていく中、俺は相当に焦っていた。研修期間=試用期間では無いと会社からは説明を受けていたが、それでも俺には日々の不安が募り募っていった。


しかしながら、あの空気が日に日に重くなっていく研修施設から解放され日の夜、明日からすぐに日本支部のとある研究所ラボで働くことになるというのに、自分はうかつなことにも夜3時まで宅飲みしてしまっていた。


さいわい、自分の先輩であり、直属の上司にあたるT塚先輩は、こちらの顔色が死んでいることにはたいして興味がなかったようだ。それよりもこのT塚先輩にとっては、T-岡田教授が俺を推してくれいるという事実のほうがもっとも重要だったのである。


「この研究所ラボに来てもらったばかりで悪いんだけど、とある薬の実験体になってくれない? 上は無関係で無辜な民を確保するまで待てって止められてるんだけど?」


「えっ……と、どこからツッコミを入れたらいいんです?」


「大丈夫だって。死にはしないから。ほら、これがサンプルよ。男ならぐいっ! といきなさいっ!」


自分としては、これが出ているところが出ていて、ひっこむところがひっこんでいる先輩上司であったなら、喜んで実験体になっていたはずだ。だが、この先輩上司は。伸長が小学六年生。胸が小学六年生。尻のでかさも小学六年生。ひとつ違うところと言えば、伸長180センチの僕に上から目線で指示を出してくることだ。


いやまあ、先輩上司は現在28歳であり、自分は入社して配属先が決まったばかりの23歳である。歳も役職もあちらのほうが断然、上である。だが、こんなちんちくりんな先輩上司に無い胸を張られて、左手に持つ怪しげな煙が昇っている試験管を渡されては、それに拒否感を示すのも当たり前だと思って良いはずだ。


僕は手渡された謎の液体入りの試験官と先輩上司の顔を交互に見る。先輩上司はまるで向日葵がそこに咲いたかのような笑顔を僕に送ってくる。まあ、この素敵な笑顔を見せつけられただけでも十分かと思った僕は試験管の中身を一気飲みするのであった。


「ぐ、ぐ、ぐあぁぁぁぁ!!」


「ふむ。眼からは沸騰した血液。さらには鼻から黄色すぎるねとっりとした鼻水。いえ、これは鼻水というよりかは粘液ね。さすがはTー岡田教授の実験に四六時中、付き合わされて壊れなかっただけはあるわね」


僕は意識が遠のいていく中、いつか、この先輩上司を懲らしめてやろうと思った。だが、その機会はまだ早い。僕は先輩上司に従順な振りをしていこうと心に固く誓った……。

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